旅人8
「凛に幸せになって欲しくて――人間の一生は短いから。俺がいると」
「なぁんだ」
とつとつと確かめるように言われた答えに私は目を瞬かせた。そんな答えが返って来るとは思っていなかったから。言うなればもっと――傷つくような答えが返ってくると思っていたのだけれど。
良かった。
私は胸を撫でおろしていた。こんな事を言ったらそれはとても不謹慎だと自分でも思う。だけれどこんな心押し留めることなど出来なかった。
嬉しくて口が緩んでしまって仕方ない。
幸せだと。それだけでいいと。これだけで死ねるかも知れない。視界が涙で滲む。私は乱暴にそれを腕で拭き取ると精一杯の笑顔で風雅を見つめた。
「な?」
その双眸には困惑が明らかに浮かんでいる。そんな反応だと考えても見なかったのだろう。聞いていたかのだろうか。と言いたげに私を見ていた。
「じゃあ、結局私の所為だ。これでいいよね」
ニッコリとした私と明らかに言葉を無くした風雅。しばらくの沈黙が続いたがようやく彼は小さくため息混じりに言葉を紡いだ。
「凛――」
だがーーそれと同時に私は思わず抱き付いていた。続きは聞きたくない。どうせ良いことなど一つとして零れてこない気がしたからだ。押し問答などしたくない。これでいいのだ。これでいい。私は彼の柔らかな温もりを確かめるように目を閉じた。
どくどく、と心臓の音が規則的に聞こえてくる。
風雅は一瞬驚いたように身を固くしたがすぐにほどけた。少し迷うように私の肩に手が触れる。
「これでいいんだよ。風雅」
囁く様に私は言った。
彼が納得したとは到底思えない。けれど納得してほしい。これ以上は言わせたくなかった。それを言っていて傷付くのなら言わせたくない。そう願うのだ。
護りたい。何からも。
風雅は諦めたようにため息一つ吐き出した。
「……凛。本当にお前には敵わないよ」
軽く頭に置かれる風雅の手はいつもの様に優しい。何一つだって変わらない。そしてこれからもきっと変わらないと私は信じている。
いつまでも。どんな時でも。
彼は私の頭に軽く口を寄せた。




