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旅人7

 柔らかな朱はもうどこにもなく白い輝きがすべてを照らしだしている。


「私ね――泣きたいことも、苦しいこともたくさんあったんだ。――村のみんなの事も、雪華の事も。生きていたくないって。思う。本当に」


 開く唇から零れる言葉は驚くほど自然だった。誰に言っているわけではない。ただ自分自身に言っているようだった。


「……ああ」


「けどね。私はここに居るんだ。誰かが助けてくれたから――とか。生かしてもらっているから。とかいうんじゃなくて、まだ生きてるから」


 村が消えたのも雪華が死んだのも自分の所為だ。何もかも。浅はかな行動が原因だ。それを言い訳するつもりも無い。罪を償わないわけじゃない。誰かが罰してほしいと今でも願っている。いや――いつか罰せられるのだろうけど。


 それでも。ここに居たい。この人のそばに。その最後の瞬間まで。不謹慎なのかもしれないけれど。


「生きてるから。生きるんだ――私」


 私は風雅を見た。顔を上げた彼の双眸は太陽の光を反射してきらきらとても美しく輝いて見えた。


 まるで宝石の様に。昔から何一つ変わらない。とても愛しいものだった。それはすぐに私の視線から外れたのだけれど。


「一緒に居てもいい?」


 彼は机に身体ごと伏しながら考えるようにして自身の頭に手を置いた。迷うように指を動かした後、彼は呟くように私の名を呼んだ。


「凛」


 机に乗せた私の掌に彼の大きな手が重なる。絡む指。伝わってくる熱がとても温かくて優しくて涙が出そうだった。


「……大好きって、言ってもいい?」


 ピクリと指が反応した。


 いつからか避けていた言葉。昔は何一つ気兼ねなく言えた言葉も今ではひどく難しい。


「仙とか人間とかどうでもよくて。そばに居ても?」


 彼は答えなかった。握られた手を見つめながら言葉に迷っているようだ。やはり私は彼にとって『子供』であり困らせる存在なのだろうか。どんなに伝えても。けれど。


 それでもいい。そばに居たい。


「風雅」


「分かっているんだ」


 ようやく彼は独りごとのように返した。小さく風に溶けるような言葉は些か疲れているようにも聞こえた。


「分かってる。人と交わると言う事は別れることだって――なのに」


 言葉を切った。握られた手は痛いほど締め付けられる。


「嬉しいと思う」


 ぽつりと言った。相変わらずこちらを見なかったが、その頬は赤く染まっている。


 私は何を言っていいのか本当なのか分からず沈黙のまま茫然と見ていたが彼はそれに耐えきれないように私の手離して立ち上がった。


 強く叩かれた机に置いてあった陶器がカタカタと揺れる。


 実はこれが現実なのか私はわかりかねていた。もしかしたらこれは私の妄想なのかもしれない。


 けれど、それでも良いような気がした。


「く。負け負け負け。俺の負け。結局は初めから凛には負けてたんだ。お前はどんなに俺が保護者面しても突き抜けてくるし――だから」


 真っ赤な顔。ここ迄取り乱すのは珍しい。やはり妄想なのかもしれない。私はこっそり手の甲を抓ったがーー痛い。


「だから?」


 私がいまだ現実感の無いまま、まっすぐ見つめると風雅は疲れたように返した。


「逃げた」


「にげた?」


 まるで自分が九官鳥になった気分だった。彼の言葉を馬鹿みたいに言葉を繰り返すしかない。だがそれしか言葉が出てこなかった。


「あいつが死んだのも村が消えたのも――雪華の事も。俺の責任だ。凛」


 そんな事は無い。と言いたかった。けれどそんな事を言われて納得できないことは私がよく知っている。そんな言葉に意味など無かった。


「どうして、逃げたの?」


 私は訝しげに彼を覗き込む。その眼は傷ついた様に揺れているがそれを彼はすぐに反らした


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