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旅人3

「ーーつ!」


 待つべきは来るべき痛み。熱気。覚悟して硬く目を閉じ、私は耐えようと歯を食いしばった。だか、どれほど待ったのだろう。痛みも熱も私を襲う事は一向に無かった。もちろん衣服の焦げる音も皮膚がただれる臭いもしない。


 鼻につくのは今までと変わりなく木材の焦げていく臭いだけだった。


「え?」


 どうなっているのか理解できないまま、私は薄く目を開くとそこには見覚えのある青年の背中があった。昔から何一つ変わらない広い背中。私の両眼に入ってくるさらさらと流れる髪は艶やかな黒とも紫紺とも形容しがたい深い色だった。すらりと伸びた手足。整った横顔を覗き込むとそこには炎を映す琥珀の瞳が輝いていた。


 泣きそうなほど優しい光を湛えている。


「風雅?」


 茫然とした声に呼応するように私の心臓が揺れる。もしかしたらこれは幻かもしれない。そう思ったが私の頭に置かれた大きな手はそれが現実であることを物語っていた。


 何も、何一つ変わらない温かさだ。怒ってなどない。きっと初めから。


 私は泣きそうな自分を叱咤して雪華を見た。泣いている場合ではないのだ。


「まさか、こんなことになってるとは思ってなかった。さすがに――項弦が今までより慌ててたから。間にあってよかった」


 微かに息が上がっているだろうか。彼は低く呟くと目の前に居る雪華を見据えた。雪華は暫く風雅を驚いた様に見ていたが、ようやく事態が飲み込めたらしい。一度鼻を鳴らすと楽しそうに喉を鳴らした。


「はぉ? 久しぶりじゃの? 風雅。息災かえ? お主も封印されていたと聞いたが」


 彼は肩を竦めた。どこかその姿は小馬鹿にした様にも見える。


「おかげさまで。封印されていても、お前みたいに『想い』に取り憑かれてないから安心しろ――雪華」


 雪華は不快とばかりに一瞬眉を跳ねあげた。ただしすぐに笑顔に戻っていたが。凍り付いた笑顔。その笑顔のまま彼女は私を一瞥する。まるで値踏みでもするかの様な視線だった。


「まぁよい。それにしても……今度は小娘に付いておるのか? 何の茶番なのか知らんが――人は裏切るものぞ? それを未だ習わぬとは愚かな男」


「風雅はっ」


 愚かでもないし、私は風雅を裏切らない。と言おうとしたのだがすべてを言う前に彼は私を手で制した。しゃべるなと言う事らしい。彼はサラリと苦笑を交えて返す。


「お前みたいに繊細さは持ち合わせてないんでね。俺は」


 言葉に気分を害したのは私でも風雅でもなく完全に雪華の方だったようだ。彼女は白い眉間に軽い皺を寄せた。


「ま、いい。さっさと始めようぜ。待ってたんだろ? ――俺を」


 何が言いたいのか。と風雅の言葉に雪華は探るようにして見つめていたが、ようやく思いあたぅたらしい口端を微かに歪めた。その後で吐き捨てるように言葉を紡ぐ。


「――結構な自惚れだことよ。お主ごとき、呼んでもおらぬわ」


 小さな嘆息に合わせるようにして肩を落とした。


「だったらいいんだけど雪華。それだったら、俺だってこんなに悩まない」


 彼は辺りを一瞥した。相変わらず炎が轟音を立てて辺り一面を朱に染めている。剥がれるような――割れるような音がして建物の梁が落ち、バラバラと赤い炎に呑まれるように屋根が崩れていく。


 彼は雪華に目を戻す。


「けど――こんなところで凛とべらべら話し込むか? 普通。やりたい事してとんずらだろ? 待っていたのは俺で無いにしろ、何かを待っていたのは事実だろうが」


「何をじゃ?」


 低く言う言葉と共に一気に空気が張りつめる。酷く肩に何かが伸し掛かるようだったが彼らには何も感じてはいないのだろう。お互いを探る様に平然と見つめ合っていた。


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