真紅の仙7
「仙ってなに?」
私がポツリと言った言葉に彼は間抜けとも思える声を思わず出していた。
「は?」
想定外だったらしい。それはそうかもしれない。五年以上付いていて何も知らないのだから。とにかく風雅は話すことなど無かったし、別に私も彼を不思議とも思わなかったので話題に上ることなど無かっただけだが。
絶句を通り越して呆れにも似た表情で項弦は言葉を紡ぐ。
『仙』――人とは似て異なる物。人とは違う時間を生き仙術と言う不思議な力を用いて惑わす。故に禁忌。故に幸福。『仙』がいる国は彼らを封ずることで永遠にその力を保つと言われている。と私が扉を必死に開けようとするのを傍目に見ながら彼はそう教えてくれた。
何となく納得いかなかったが考えないことにする。
『俺が言うのもなんだけど、そりゃ嘘だ――呂は滅びたから』
力無く、苦々しく言う言葉に私はようやく思い出していた。いつか風雅が教えてくれたことを。それは確か出会ってすぐだっただろうか。今では誰も知る者などいないが二百年前に栄えた国があったと――美しく平和な国。その名を『呂』と彼が言ったのを覚えている。どこか寂しそうに。どこか切なそうに。どうして、と聞いたが彼は笑っただけだった。
ただ笑っただけだった。それが余りにも悲しく見えて思わず泣いてしまったのは私の方だったけれど。
『――幻滅したか?奴が人でないことを知って。距離を?』
私は声が出ない代わりに小さく首を振った。そんな事など出来るはずもない。人だから風雅に付いてきたわけでは無いのだから。風雅であるから付いてきたのだ。不器用でどこか尊大。けれど、何よりも優しい人だから。私はここに居る。
また逢いたいから。
私の真っ直ぐな視線に応えるようにして、項弦は嬉しそうに笑った。それはどこか友人と言うよりーーそう。親のような笑みだ。とても温かい。
『あんたの一生は奴の瞬き分でしかない。けれどその瞬きが奴を生かせてくれる。これからもずっと。あんたなら俺とは違って前に進めるように繋いでくれるだろう?』
硬い扉を力の限り引き寄せながら私は風雅と会った時の事を思い出していた。ずっと心の何処かで引っかかっていた事だった。
あんな所にあんな見たことも無いきれいな人が座っていて。話してみるととても温かくて――とても脅えていた。なぜだろう。と思っていたけれど。
あれはきっと出会う事を。これ以上の孤独を持つことを恐れていたからなのかも知れない。私は少し視線を落とした。
だけれど『持たない』のはきっとどこか淋しいことの様に感じられた。独りになる事はきっと淋しい。だからといって世界から取り残されるのはもっと淋しい気がした。自分を残して周りだけが動く世界。そんな世界で風雅に一人でいて欲しくない。そう思った。
きっと。きっと誰かが居れば乗り越えられる。遠い未来そこにいるのが私でなくても。その未来に橋渡しはできる。
私は少し考えて顔を上げた。
「――うん。大丈夫。私ね、頑張る。風雅が淋しく無いようにたくさんの人とかかわるね。この一生を掛けて繋いでいくから」
頑張ろう。風雅が淋しくないように。もう怖いなんて思うことの無いように。嫌だと言っても付いていこう。そう、思った。
それが誰にも許されなくても。
『――ああ。頼む』
項弦が手をかざすと不意に重かった扉は軽くなった気がした。




