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山村6

 その街はとても華やかだった。俺がかつていたどんな国とは全く違う、どこか異国の雰囲気を持っている。色取り取りの提灯。美しい陶磁器。行き交う人々はまるで民族衣装の展覧会みたいにさまざまな衣装をまとっていた。


 『由国』東の大都市『敬都』


 その門の前で俺はぼんやりと幾日も過ごしていた。昼も夜も。


 動くことはめったにない。死体かと思って一回処理されそうになったがかろうじて難を逃れた。とにかく何も変化はない。誰かが慌てて駆け込んでくると言う事も無かった。


「――あんたは何してるんだ?」


 呆れ気味に話しかけて来たのは門番の『() 将玲(しょうれい)』だ。二十代そこそこの青年で田舎から出稼ぎに来ているのだと言う。というのは勝手に男が喋っていたので暇つぶしに聞いていただけなのだが。


「迎えを待ってるんだけどなかなか来ないなって」


 俺は肩を竦めた。だが来なければ来ないでいいのだ。それだけ俺の杞憂だったと言う事から。


 だが待つと言った以上ここで待ちたいと思う。


「来ないんじゃないか? ああ、でも――もしかしたら裏門からってこともあるし。村の名前教えろよ。ちょっと裏門の奴に聞いてきてやる」


 本当は役人か兵を待っているのだけど。この男の親切を無駄にはしたくなかった。もしかしたら本当に村から来ているのかも知れなかったし――他にも何か情報を得られるかもしれない。


「……そうか? ここから少し行った六の山間にある小さな村で――」


「え?」


 その表情すら失くしてしまう顔に俺は嫌な予感がした。張り付くような空気。ごくりと唾を飲み込む音だけがひどく耳に張り付いた。


「あの村の? あそこは一か月も前に焼き払われたって……」


 俺の尋常ではない反応に将玲の声は微かに上擦った。


「どういうことだ!」


 思わず叫んでいた。喉を枯らすように大声で。俺は弾けるように立ち上がると、将玲を壁に叩きつける。鈍い音がして彼は小さく呻いた。俺の首を絞めるように押さえつけた手はカタカタと震えている。


 信じたくはない。だけれど。きっとこれは真実だ。嘘をつく理由などないのだから。


「――詳しくは知らないけど。――仙がいたらしい。だけど村の奴ら出さなく、て。そのまま――」


どうしてだろう。あんなに言い含めたのに。理解できなかった。どうして守らなかったのだろうか。いても居なくても同じならいた方がよかったのかもしれない。


 俺は将玲を離すと力なく地面に座り込んだ。脈打つ心臓と荒い息だけが俺の耳を支配しているように酷く大きく響いている。震える手で俺は思わず頭を押さえていた。


 すべて俺のせいだ。


「け――けど。一人だけ連れてかれたって話だ。村人が必死にかばうものだから興味もたれてよ。まぁ、女だし。可哀想に。死んだ方がましかもしれないぜ?」


「え?」


 俺は将玲に茫然と目を向けた。俺の顔に将玲は戸惑った眼を向ける。


「まだ?」


「ああ。首都に――」


 すべて言う前に無意識に俺は身を翻していた。焦燥の水樽を探し駆ける。城壁の隅にあるそれは古びていて水が所々表に染み出していた。おまけに覗き込むと中は生活水にも使えず酷く変色し、腐った臭いを放っている。


「おい。そんな水はっ! 腹を――」


 気が狂ったのだろうと考えたのだろう。将玲はそれ以上何かを言う事は無く近づくことも無い。定位置まで戻ると行き交う人を見つめていた。


「――つ」


 俺は水面を軽く撫でる。どうして『見る』事を今まで忘れていたのだろうか。見ればこんなことにならなかったのに。すべて――すべて俺の背固く間違いだ。俺は痛いほどに唇を噛んだ。


 震える思いで撫でた水面は少し波打つとやがて透明の清らかなそれに変化する。さらにもう一度撫でると鏡の様に銀に輝いていく。水鏡――遠くの景色や出来事を見るための鏡だ。


 ぼんやりと揺れる影は次第にはっきりとしていく。


 碁盤に整い整然とした街がある。ここと同じで人々は行き交い活気があるが一方でその片隅には貧しい者たちが住んでいるようだ。光と影それを映し出すようだったが街の中心。赤い建物――宮殿――の中に滑るように映し出していく景色。統一的な服を着込んだ官であろう者に囲まれながら一人の少女がっていた。


 凛だ。紛れもなく。少女はその双眸に強い光をもって目の前を見据えていた。大きく息を吸い込んだ後はっきりと声を紡ぐ。誰にも聞こえるように。誤解などされ無いように。


「絶対に渡さない。誰が何と言おうと。――もう、どんな犠牲を払っても護る。あの人はあなたたちなんかに渡さないわ」


 そうやって水鏡は掻き消えた。彼女の強い力だけ残して。


「凛」


 俺は水樽の脇をほとんど滑るように腰を掛けた。俺は涙さえも出ない目で力なくぼんやりと空を見据える。


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