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山村4

 あれから何日が経過しただろうか。村はいつもの様に平和に見えた。何事も無く平和にすぎさってくれればいいと思うのだが――そうもいかないだろう。



 負傷者は二人。いずれも刀で頭部を損傷されていた。助かる見込みはすでに無く翌朝亡くなった。捨てるわけにもいかず村の墓地に埋葬した。村まで続いていた血の目印は消してきたけれど疑念は消えることは無い。当然ほとんど平和ボケをしかかっている村の長は『大丈夫』と言っていたが。もしかしたら現実を直視したくないだけのかもしれない。


「とにかく」


 本来なら兵士が大挙して押し寄せる前に凛とここから逃げるのだが今回はそうもいかない。それはとても簡単なことの様に思える。だが凛はきっと承服しないだろう。劉裕の事があったからというわけではないがここで落ち着けば凛は幸せになれると思っている。彼女の相手が誰であっても幸せにしてくれるだろう。見守ってくれるだろうと思った。


 俺でなくても。


 俺は村の入り口辺りに持っていた枝でカリカリと地面を引っ掻いていた。まるで子供のいたずらのように。


「――何をしているんですか? 先生。先生だったんですね。村のあちこちに異様な絵を描いているのは」


 見上げると雲一つない青空の下困ったように笑って凛が立っていた。何となく眩しく見えて俺は目を反らす。


「……これは護りだ。村が襲われ無いようにしてる」


「護り?」


 俺は足元の絵を指さした。『仙術』をもって描いたそれは微かに淡く光っているようにも見える。人間には消すことは不可能だ――外側からは。


「簡単に言うと一般に呪いと呼ばれる物を物質化し絵に閉じ込める。対象者をこれかが感知すると攻撃に映すってやつだ」


 事はもっと複雑だが。理解もしてもらえないだろう。


「へぇ。すごいですね。先生。こんなこともできたんだ」


 さすがと言う様に凛は両手を叩いた。何となく嬉しくなって照れてしまう自分が情けないのだが。振り払う様に咳払い一つ。


「使うのは初めてだけどな」


 本で読んだ程度くらいだ。もっとまじめに読んでいたらさまざまな術が扱えたんだろうが興味が無かった。


「でも、おじさんも劉裕も大丈夫――」


 別に俺は何とも思わない――と言うより考えるのをやめた――のだがその名を口にした途端凛は口を噤んだ。あれから俺たちは何一つ話さなかったがどうやらうまくやっているのかもしれない。


 俺は凛に笑いかけて再び足元に目を戻した。


「大丈夫なんて無い。これだって基本的に何度でも使えるように作ったけど本当は実に脆いし」


 村の中から壊せば簡単なのだ。故に酷く脆い。


「じゃあ、どうしたら? 壊れてしまえば――」


 考えるように彼女は眉に皺を寄せた。


 この村の人間は戦う術を持たない。せいぜい戦っても鍬、斧、石礫ぐらいだろう。人口も多くなく全滅は目に見えていた。どこかで見かけた村の様に。


 すべてを覚悟するように小さく息をする。


「――凛。その時が来たら」


 俺はまっすぐに彼女を見た。


「俺を売れ」



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