独白:想い出の先に見える未来
――――記憶はなかった。
封印の魔術師どころか、自分が今でも魔術を使えるという事に実感はなかった。
今でもどうやって魔術を使えるのか、おぼろげだ。
過去の記憶もない。
思い返せば十二歳から以前の記憶は、今でもすっぽりと頭から抜け落ちている。
あるのは、沙紀と一緒にいた記憶。
夏の海。
秋の運動会。
冬の大みそか。
春の入学式。
ずっと傍にいて、ずっと同じ景色を見ていた。
たったそれだけの吐かない記憶の断片だ。
だから――――助けたかった。
「……んん」
「沙紀……」
――――眼の前には、眠る沙紀がいる。
今にも起きそうだ。
これから、彼女は目を覚ますのだろう。
そしてこれからも、ずっと俺は彼女の傍にいようとするだろう。
過去がどうだからじゃない。
未来を機にするつもりもない。
ただ、自分の心が、魂が――――叫んでいる。
共に生きたい、と。
「……沙紀。起きろよ。早く帰らないと、親父さんに怒られるぜ?」
「ふぇ……?」
――――この手は離さない。
離せば、闇に消えていきそうだから。どこか遠くに行ってしまいそうだから。
「奏夜……?」
「おはよう。沙紀」
さぁ、行こう。
朝焼けが呼んでいる――――
後一つだけ。




