帰って来た今日でお別れ完結編(超お題八百文字小説)
沢木先生のお題に基づくお話です。
しましまのレギンス、居残り組のふたり、カメレオンみたいな女の子、路線バスが行く、長い冬の一日を使わせていただきました。
律子はスチャラカなOLである。
今日もまたドジをし、平井課長に大目玉だ。
「ふええん」
律子の嘘泣きに優しい藤崎君がキュンとして声をかける。
「大丈夫?」
「大丈夫じゃない。しましまのレギンスを買ってくれたら大丈夫になる」
律子の唐突なお願いに藤崎君はキョトンとした。
「また残業なの、律子?」
同期の香が尋ねた。律子はニッとして、
「そう、居残り組のふたりなの」
とドサクサに紛れて藤崎君に後ろから抱きつく。
「ご馳走様」
香は呆れてフロアを出て行った。
「りったん、恥ずかしいよ」
藤崎君が律子を振り解く。
「もう誰も見てないから」
律子は目を瞑って唇を突き出した。
「私、まだいますけど」
新人社員の蘭子が背中を向けたままで言った。
「わわ!」
律子にキスしようとしていた藤崎君はびっくりして離れた。
「蘭子ちゃんて、カメレオンみたいな女の子ね。こっちが見えてるの?」
律子は顔を赤らめて尋ねる。
「見えてませんけど、律子先輩のする事って丸わかりですから」
蘭子はチラッと振り返ってクスッと笑うと、フロアを出て行った。
律子と藤崎君は顔を見合わせて苦笑いした。
「あ、いけない、今日は『路線バスが行く』が完結編だよ、急いで帰らないと」
さっきまでのロマンチックな雰囲気はどこへやら、律子は突然帰り支度を始める。
「ええ? 残業はいいの、りったん?」
藤崎君は目を見開いた。律子はニヤリとして、
「いいのいいの。どうせ課長も帰っちゃったんだから、わからないわよ」
「私はいるぞ、律子君」
平井課長が現れた。律子は直立不動になった。
「仕事は終わったのかね、律子君?」
課長の言葉が律子のペッタンコの胸に突き刺さる。
「いえ、まだです」
律子は顔を引きつらせて答えた。
「ならば、もう一頑張りしてくれたまえ。その資料は明日の早朝会議で使うのだからね」
課長はニッとして魔王のような顔で告げた。
「はい、課長……」
律子はガクリと項垂れた。
彼女の長い冬の一日はまだ終わらないようだ。
毎度お粗末さまです。