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「初デートは、集合場所から間違っていた」
正式に付き合い始めて、三日目。
僕――はるとは、人生最大のミスを犯した。
「……駅前で十時集合、っと」
そう、口に出して言ってしまったのだっだ。
教室で。
しかも、昼休みに。
そして、その結果。
「え?」
「デート?」
「今日?」
「どこ行くの?」
「ち、違っ……!」
弁明する前に、深雪が口を開いた。
「うん、初デート」
さらっと。
致命的に。
クラスが、爆発した。
「ええええええ!!」
「公式きたーーー!!」
「待って写真係決めよう!!」
「ださきゃあに、なにゆうとるだぁーやーー!!」
深雪は涼しい顔。
「尾行は三人までね」
「許可出たぁ!」
「三人に収まるか!!」
集合場所:すでに修羅場
当日、駅前。
十分前に来たはずなのに、
なぜか見覚えのある顔が多い。
(……クラスの半分、いない?)
「おはよ」
振り向くと、深雪がいた。
今日は女子の制服。
白いワンピースに薄手のカーディガン。
可愛い。普通にめっちゃ可愛い。
「……似合ってます」
「知ってる」
「自分で言います?」
「今日は彼女だから」
その瞬間。
「尊い……」
「やっぱ女の子だった……」
「ギャップ死ぬ……」
どこからともなく拍手。
「隠れてください!!」
「もう無理だよ」
深雪は笑った。
「ほら、手」
「え!?」
「デートでしょ」
繋いだ瞬間、
悲鳴が上がった。
「キャーーー!!」
映画館:座席が包囲された
逃げるように映画館へ。
「ここなら静か……」
「無理」
上映前。
「鈴木!」
「深雪!」
「偶然だね☆」
「偶然じゃないですよね!?」
前後左右、知り合い。
深雪が囁く。
「人気者の彼女で、ごめん」
「謝る方向違います!」
上映中。
怖いシーンで、深雪が小さく肩を震わせた。
「……怖い?」
「ちょっとだけ」
そっと、腕を掴まれる。
それだけで、
映画の内容が全部吹き飛んだ。
(心臓に悪いのは俺の方だ……)
カフェ:ついに限界
映画後、静かなカフェへ。
「……やっと二人きり」
深雪がホットミルクを飲みながら言う。
「疲れてません?」
「楽しい」
でも少し、顔色が淡い。
「無理、してませんよね」
「してない。ちゃんと休みながら」
テーブルの下で、足が触れた。
離れない。
「ねえ、はると」
「はい」
「こういう普通のデート、憧れてた」
「全然普通じゃないですけど……」
「はるととなら、普通」
胸が、静かに熱くなる。
その瞬間。
「写真撮っていい!?」
クラス委員、乱入。
「もう隠す気ないでしょ!!」
「ないね」
深雪は即答した。
「彼氏だから」
顔が、燃えた。
帰り道:やっと静か
夕方、少し人の少ない道。
ようやく、二人きり。
「……大混乱でしたね」
「初デートとしては百点」
「基準がおかしいです」
深雪が歩調を落とす。
「ちょっと疲れたかも、休も」
ベンチに座る。
肩が触れる。
「……今日はありがとう」
「こちらこそ」
「正直」
深雪は空を見た。
「病気のこと考えると、
“普通の未来”って想像しにくい」
胸が締まる。
「でも」
こちらを見る。
「今日みたいな一日が、
一つずつ増えたらいいなって思った」
「……増やしましょう」
「約束は?」
「無理しない範囲で」
笑った。
「合格」
夕焼けの中。
深雪が、少しだけ距離を詰める。
「はると」
「はい」
「初デート、楽しかった」
頬に、軽く触れる感触。
一瞬。
でも、確かに。
振り向くと、深雪は少し照れていた。
「……それ、二回目以降じゃ」
「初回特典」
心臓が、うるさい。
周囲は大混乱。
本人たちは、静かに本気。
そんな初デートは、
きっと、正解だったっちゃ。




