5
深雪が退院して最初に言った言葉が、これだっちゃ。
「文化祭、全力で暴れるっちゃ!」
「暴れないでください!」
僕――はるとは、即座に止めた。
峰山高校・文化祭初日。
一年一組の出し物はメイド喫茶。
なぜこうなったのか、誰も覚えていない。
ただ一つ確かなのは――
「深雪がメイドは、校則的にアウトじゃない?」
「逆に見たい!」
「いや、執事だろ!」
議論の結果。
深雪=執事(男装)
はると=給仕係(女装)
「女装はぜーーーったいにいやだっちゃ!!」
「完璧な采配だね」
「クラスの暴走です」
深雪は白シャツにベスト、蝶ネクタイ。
完全にイケメン。
そして、開場五分で、事件は起きた。
「きゃーー!!」
「執事さま!!」
「写真いいですか!?」
一年一組、大行列。
「おかしい……メイド喫茶だよね?」
「執事喫茶に変更だね」
「勝手に変えないでください!」
深雪は余裕で接客していた。
「いらっしゃいませ、お嬢様」
低めの声。
完璧な所作。
女子が次々に倒れていく(比喩)。
「……はると」
「はい」
「紅茶2つ、お願い」
「了解です!」
完全に主従。
その様子を見たクラスメイトが囁く。
「え、あれって恋人関係じゃない?」
「距離感バグってない?」
「もう公式でよくない?」
「違います!!」
昼過ぎ。
「深雪、ちょっと裏来て」
担任に呼ばれた。
(怒られる……)
しかし戻ってきた深雪は、なぜか女装メイド姿に変身していた。
「……説明してください」
「執事人気が想定外で、女子に交代」
「担任判断おかしい!」
でも。
メイド姿の深雪は、さっきまでの執事姿からのギャップもあり破壊力がすごすぎた。
「……似合いすぎです」
「今さら?」
「今さらです!」
結果。
一年一組、来場者数トップ。
夕方。
片付けの合間、深雪が少し息をついた。
「……さすがに疲れたっちゃ」
「無理しました?」
「ちょっとだけ」
人気のない校舎裏。
「でも、楽しかった」
「よかったです」
「病院にいると、忘れそうになるんだ」
「何をですか」
「こういう、騒がしいの」
少しだけ、真面目な声。
「はるとがいたから、安心して無双できたっちゃ」
「……それ、俺の役目じゃないですか」
「でしょ」
夕焼け。
校舎に貼られたポスターが、風に揺れる。
「ねえ、はると」
「はい」
「今日だけはさ」
一歩近づいて、
「仮、やめない?」
心臓が跳ねた。
「……それ、文化祭マジックです」
「じゃあさ、マジック信じる?」
笑顔。
でも目は真剣。
「……少しだけ」
「少し?」
「片付け終わるまで」
「短っ」
「その先は、また考えます」
深雪は吹き出した。
「ほんと慎重」
「受験生だったんで」
「じゃあ合格」
そう言って、頭を軽く叩かれた。
校庭に花火が上がる。
歓声。
その中で。
手が、そっと触れた。
繋がない。
でも、離れない。
文化祭は終わった。
でも、二人の関係は――
まだ、無双の途中だったっちゃ。




