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京都丹後弁。だっちゃ恋愛物語。  作者: 刹那による京都城主(藤安)
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4

 

 深雪が学校を休んだ。


 それだけで、教室の空気が少し変わった。

「今日は静かだな」

「イケメン欠席かー」

 そんな声を聞き流しながら、僕――はるとはノートに視線を落としたまま、

 一行も頭に入らない板書を書き写していた。

(……大丈夫、って言ってたのに)

 昨日の放課後、少し顔色が悪かった。

「平気」と笑ってたけど、

 その“平気”が本当じゃないことを、僕はもう知っている。

 昼休み、意を決してスマホを見る。

【深雪】

 《ちょっと入院。命に別状はないだっちゃ》

 心臓が一瞬、止まった気がした。

 《お見舞いに行ってもいいですか》

 すぐに返事が来る。

 《静かにできるなら、いいだっちゃ》

 《はい》

 放課後、病院に向かった。

 白い廊下。

 消毒の匂い。

 足音がやけに響く。

 ナースステーションで名前を告げると、

「面会は短時間でね」と言われた。

 病室の前で、深呼吸を一つ。

 ノックする。

「……どうぞ」

 カーテン越しに見えたのは、

 ベッドに横になった深雪だった。

 点滴。

 心電図の機械。

 制服じゃない、薄い病院着。

「……来たんだ」

「はい」

 声が、思ったより小さかった。

「座って」

 椅子に腰掛ける。

 近いのに、触れられない距離間。

「ごめん。学校、騒がしくなかった?」

「……正直、少し」

「でしょ」

 くすっと笑うけど、声は弱い。

「倒れた?」

「ううん。ちがうよ。検査入院」

「そっか……よかった」

 本音が、そのまま出た。

 しばらく、点滴の音だけが鳴り響く。

「はると」

「はい」

「怖い顔してる」

「……してません」

「してる。学校にいる時の顔と違うし」

 ばれていた。

「……心配、しただけです」

「ありがと」

 天井を見つめたまま、深雪がぼそっと言った。

「私ね、ここに来ると、少し安心するんだ」

「どうして?」

「ここだと、ちゃんと弱くていい場所だから」

 胸が、ぎゅっとなる。

「学校だとさ」

 深雪は続ける。

「元気なふりしなきゃいけない。

 イケメンで、余裕があって、平気な顔」

「……」

「でも、はるとの前だと、ちょっとだけ楽」

 点滴の管が、かすかに揺れた。

「隣にいるだけでいいって、初めて思えた」

 喉が、詰まる。

「……先輩」

「なに?」

「クラスでは、カップル扱いされてますけど」

「知ってる」

「……ここでは、どうですか」

 深雪が、ゆっくりこちらを見る。

 静かな目。

「ここでは」

 小さく笑って、

「ただ、好きな人」

 心臓が、うるさく鳴った。

「……それ、反則です」

「静かに」

「無理です」

 お互いに笑い合った。

 ナースが通りかかってこっちを見た。するとすぐに二人とも黙ってしまった。

 そっと、手が伸びてきた。

 でも、触れない。

 でも、近い。

「帰る時間でしょ」

「……はい」

「また来ていいよ」

「毎日行きたいです」

「それ禁止」

「じゃあ、我慢します」

 深雪は満足そうに目を閉じた。

「はると」

「はい」

「名前、呼ぶの。好き」

 その一言で、全部持っていかれた。

 病室を出るとき、そっと振り返る。

 深雪はもう眠っていた。

 点滴の音だけが、規則正しくリズムを刻んでいた。

 クラスでは公認。

 病院では、静かな本音。

 僕は廊下で立ち止まり、

 胸の奥でそっと静かに決意し、こころに誓った。

(この人の“平気じゃない時間”を、

 ちゃんと隣で受け止めよう)

 走らなくていい、ゆっくりと歩く恋が、

 ここにあったっちゃ。

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