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結論から言うと―
僕と深雪先輩は、付き合っていない。
なのに。
「おめでとー!!」
教室中から拍手が起きた。
「……何が?」
朝のホームルームで、僕――はるとが困惑していると、
黒板の前に立ったクラス委員が満面の笑みで言ってきた。
「昨日の放課後の件! クラス一同、正式に認めました!」
「認めてません!!」
隣を見ると、深雪は机に肘をついて、にやにやしている。
「よかったね、はると」
「先輩は止めてくださいよ!!」
「止める理由、ある?」
「大ありです!」
噂の発端は、ただの“つながった手”
すべての始まりは、昨日の放課後だった。
「……ちょっと、くらっとする」
「えっ!?」
帰り道、深雪がふらっとよろけた瞬間、
反射的に手を掴んだ――ただ、それだけ。
それだけなのに。
「見た?」
「手つないでたよね?」
「完全に彼氏ムーブ」
気づけば目撃者が三人。
情報は五分でクラス中に拡散された。
深雪はというと、
「支えてくれただけだよ」
と言いながら、手を繋がれた。
「せ、先輩! 離してください!」
「今離したら、また倒れるかも」
「それ脅しです!」
翌日。
「席替えしまーす」
担任の一言で、教室がざわつく。
結果――
「鈴木、深雪。隣同士な」
(神様、二回目はまじアウトだっちゃ)
「運命じゃん!」
「夫婦席!」
「もう籍入れてる?」
「入れてません!!」
深雪は余裕で答える。
「まだだよ」
「“まだ”言うな!」
クラス公認カップル、爆誕!!
昼休み。
机を寄せられ、囲まれる二人。
「いつから?」
「どっちから告白?」
「初デートどこ?」
「だから違うって……」
「はると」
深雪が急に真面目な声で言う。
「どこから?」
「……え?」
「私からってことでいい?」
「話聞いてください!」
その瞬間。
「きゃーー!!」
「認めた!」
「公式だ!」
拍手。紙吹雪(誰が持ってた?!)。
クラス委員が黒板に書いた。
《祝・鈴木♡深雪LOVE》
「消してください!!」
逃げ場なしの放課後
放課後、屋上に逃げた。
「……どうしてこうなるんですか」
「面白いからに決まってるだっちゃ」
「最低です!」
「でもさ」
フェンスにもたれて、深雪が言う。
「嫌?」
言葉に詰まる。
「……嫌じゃ、ないです」
「だよね」
満足そうに笑ってから、少しだけ声を落とす。
「正直に言うと、噂のおかげで楽かも」
「楽?」
「病気のことで、変に心配されなくて済むから」
胸がぎゅっとなる。
「……じゃあ、しばらくこのままにしますか」
「お、彼氏発言?」
「か、仮です! 仮! 仮カップル!」
「じゃあ私は仮彼女」
「意味同じです!」
笑われる。
でも。
「ありがと」
小さな声。
「はるとが隣で、安心する」
心臓が暴走した。
そして噂は“既成事実”へ
翌週。
「カップル席こちらへ!」
「お弁当一緒に食べて!」
「写真撮ろ!」
「修学旅行じゃないです!」
完全にクラスの玩具だった。
帰り道。
「ねえ、はると」
「はい」
「仮じゃなくなったら、どうする?」
「……倒れます」
「受け止めてあげる」
「逆です!」
夕焼けの中、二人で笑った。
付き合っていない。
それは事実。
でも。
クラス公認の“疑惑”は、
もう、暴走を止める気がないだっちゃ。




