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高校生活というものは、だいたい初日で方向性が決まるらしい。
僕――はるとは、その初日で悟った。
(……俺の高校生活、絶対おかしい)
峰山高校・一年一組。
新品の制服。新品の上靴。新品の緊張。
教室に入ると、すでに数人が集まっていた。
「なあなあ、あの人見た?」
「やばくない? 二年の先輩らしいっちゃ」
「イケメンすぎん?」
「そうだっちゃ」
ひそひそ声の視線の先――
窓際の席に、見覚えのありすぎる人物がいた。
短髪。
男子用制服。
脚組んで、スマホいじってる。
(……深雪先輩!?)
目が合った瞬間、にやっと笑われた。
「や、同級生」
「な、なんでいるんですか!?」
思わず大声を出して、教室中の視線が突き刺さる。
「転入」
「軽く言わないでください!」
「事情があってね」
深雪――いや、今日も男子制服の深雪は、けろっとしていた。
「体調の関係で、学年一個下げた。だから今日から同級生だっちゃ」
「そんなの、聞いてないっちゃ!」
「言ってないっちゃ!」
くすっと笑われて、心臓に悪い。
その瞬間、担任が入ってきた。
「えー、一年一組担任の山本です。あと、転入生を紹介します」
ざわつく教室。
「……深雪。よろしく」
低めの声で、完全に“イケメン枠”の自己紹介。
「キャー!」
「まじか!」
「名前までかっこいい!」
(やめて! それ俺が知ってる深雪先輩だから!)
席は――
「鈴木の隣、空いてる席そこな」
僕の隣。
(神様、ほんまやめて。ださきゃあにやめて)
「よろしく、はると」
耳元で囁かれて、即死しかけた。
休み時間。
「なあ鈴木、隣のイケメンと知り合い?」
「どっちが彼氏?」
「付き合ってる?」
「ち、違います!!」
否定すればするほど、疑われる不思議。
一方、深雪は余裕しゃくしゃくで。
「恋人じゃないよ。まだ」
「まだ!?」
「含み持たせるなよ!」とクラスから総ツッコミ。
昼休み。
購買帰りに、深雪がふらっと壁にもたれた。
「……先輩?」
「ちょっとだけ、休憩」
顔色が少し悪い。
「大丈夫ですか」
「大丈夫だっちゃ。授業は平気だっちゃ」
そう言いながら、こっそり薬を飲む。
それを見て、胸がきゅっとした。
「無理、しないでください」
「心配してくれるの?」
「当たり前です!」
深雪は一瞬きょとんとしてから、柔らかく笑った。
「じゃあさ」
「はい」
「私が倒れそうになったら、受け止めて」
「……それ、心臓に悪いです」
「私の心臓が悪いんだけど」
ぷっ。つい二人して笑ってしまった。
放課後。
「鈴木と深雪、一緒に帰ろうぜ!」
クラスメイトに囲まれて、なぜ?かもうカップル扱い。
「え、付き合ってないの?」
「絶対嘘だろ」
「夫婦感ありすぎ」
「ないです!!」
帰り道。
二人並んで歩く。
「ねえ、はると」
「はい」
「私さ、病気のこと、クラスのみんなには言わないつもり」
「……」
「特別扱いされるの、好きじゃない」
少し真剣な横顔。
「でも」
こちらを見る。
「はるとには、知っててほしいっちゃ」
心臓が跳ねた。
「……はい」
「だから」
一歩、距離が縮まる。
「私が男子に見えても、倒れても、薬飲んでも」
「はい」
「ちゃんと好きでいてほしいっちゃ」
夕焼けの中で、顔が熱くなる。
「……それ、告白ですか」
「どう思う?」
「ずるいです」
深雪は笑った。
「高校生活、面白くなりそうだっちゃね」




