5 インタビュー
ネットゲームでは、たまに妙な活動をするプレイヤーがいる。ブラックスターダストにもそういうやつはいて、中でも明けの明星とはまた違ったベクトルで有名な集団が、暗星通信だ。
彼らの活動方針は公式掲示板や自前のブログを使って情報発信をすること。ただしそこは犯罪ゲームクオリティ。他者の迷惑を顧みない報道姿勢にモラルはない。真実を伝える意思だけは守られているのが唯一の救いか。捏造するとBANの対象になりうるからね。
そんな感じで迷惑と恩恵が相殺されると称される暗星通信の記者の一人が、我が家のソファに座っていた。名前はサラダリゾット。いつかの夕食のメニューを暴露する金髪の優男だ。
「コーヒーです」
「あ、ども」
アンナの出したコーヒーを、ずずっと啜る。寛ぎ方が気のおけない知人宅のそれなんだよな。
「いやぁ、なかなかの美人ですねぇ。見たところプレイヤーじゃないっぽいですけど、どこで見つけてきたんです?」
「探るな。それより何の要件?」
「つれないっすねー。ま、いいや。実は今度、初心者応援特集ってのをやることになったんすよ。それでソロで高級住宅維持するくらい稼いでるセツナさんに、稼ぎ方を教えてほしいなーって思いまして」
面倒臭い。そう思ったが、断ってもしつこいのが暗星通信だ。それに何か頼みにくる時は相応は出す。本気で嫌なら斬り殺してしまうが、話くらいなら聞いてやってもいいだろう。
「取引系のコネクション。盗品とか売り払えるツテが欲しい。」
「いきなり価格交渉っすか。まあそのくらいなら」
「どこの勢力にも属してないやつね」
「あー、まあなんとかするっす。じゃ、インタビュー受けてくれるってことで」
「ええ」
「あざっす。じゃあいきなりなんすけど、ぶっちゃけセツナさんどこでそんな稼いでるんすか? この前まで面倒なのに絡まれて何度か自宅爆破されたのに持ち堪えてるし、かなり稼いでないとそんな蓄えないはずでしょう?」
「別に変なことはやってないけど? 銀行に乗り込んだりNPCマフィアの拠点壊滅させて資産奪ってるだけ。あー、でも、基本ソロでやってるから報酬全取りってのはあるかもね。適当に盗んだ車でマフィア壊滅させて現金もらって帰れば、短時間で一気に稼げるわけだし。銀行よりはやっぱマフィアかな。あいつらの拠点襲っても警察来ないし、無限に出てくるわけじゃないから全員殺せば解決だし、逃走考えなくていいから銀行襲うより楽だね」
NPCの裏組織ってプレイヤーの財布兼経験値袋みたいなものだし、さっと潰して漁れば結構なお金になる。大規模なチームも、大金が欲しい時はだいたいマフィア襲撃か銀行強盗だ。
「えー、そんなんできねーよアホかって読者の声が聞こえてきそうなので、もうちょい初心者に寄り添った回答お願いするっす。何か、誰でもできて楽に稼げる方法とかないっすかねぇ」
「そんなんねーよアホか」
誰でもできて楽に効率よく稼げる手段なんて、あったらとっくに知れ渡っている。そもそもブラックスターダストは多くの施設が週に一回しか回復せず、プレイヤー同士でリソースの奪い合いが発生するゲームだ。楽に大金を得られる手段なんてものがあったとしても、競争が激しくなって結局高難易度化するのが目に見える。
「えー」
オブラートに包まず甘い考えを断ち割ると、サラダリゾットは若干押されつつも、諦めきれない様子。
「何かないんすか? 私だけが知ってる裏技的なの」
「高速摺り足のやり方教えようか?」
「それ講習会開いたのに説明が下手くそすぎて誰も理解できなかったいやごめんなさい何でもないです」
失礼な勘違いを白刃で正すと、サラダリゾットは小さく息をつき、少し考えたあと再度口を開いた。
「こうなった切り口を変えて、セツナさんが初心者にオススメする稼ぎ方とかってあります? そこまで効率よくなくてもいいんで。できれば実践でお願いします」
「それもう私じゃなくてもよくない? まあいいけど」
実践とか地味に面倒くさいこと要求してきたな。
「あ、できればメインクラスをアサシン以外に変えてもらうと助かるっす。なんかアサシンだと結局ゴリ押しそうなので」
「それもう私じゃなくてもいいでしょ」
「もしかして、エイム全くダメな人っすか?」
「そんなことないけど」
「ちなレベルは」
「7」
「結構高いっすね」
「アサシン仲間との弾避け練習用に特殊装填までは取ったから」
クラスを変えても手間はそう変わらないので、ここはおとなしく従う。メインクラスをガンナーに、サブクラスをクラッカーに変更。
バイクの後ろに乗せるのは嫌だったので先日購入したバンを出し、街中に繰り出す。
「稼ぐなら、ひとまずはセキュリティレベルの低い場所で動いた方が安全ね。警察の出てくるのが遅いから、マージンを取れる」
「セキュリティレベルは初心者は気にしないかもっすねー。結構露骨に対応変わるんすけど」
「まあ貧困街とかまで行くとちゃんとした店自体なかったりするけどね」
今回最初に行くのも、セキュリティレベル2の一般住宅地だ。
「とりあえず安定のATMでの不正引き出しから」
クラッカーの十八番だ。スマホをかざして、事前に用意した違法ツールで引き出しを行う。千クレジットくらいしか取れないけど、サブクラスをクラッカーにしておけば簡単にできるから安心安全だ。
「で、次に強盗ね。銀行とか宝石店みたいな大金狙いは難易度高いけど、小さい店なら簡単」
銃口を向けて金を出せ。これで奪ってサッと逃げる。気合の入った店員はこちらを殺しにくるので油断は大敵だ。
「そして車泥棒。コネクションがあるなら結構稼げるし、盤面が荒れてても安定して使えるのがいい」
やり方は簡単。車道に立って進行を遮るとだいたいの車は止まってくれるから、銃を見せておろして奪う。クラッカーなら、停車している車のロックを解除してもいい。足の確保はゲームプレイの快適性にも影響するだけあって、かなり楽に奪えるようなバランスになっているのだ。
車を奪ったらコネクションを利用して売却。NPCによって多少変わるけど、だいたいは指定した場所まで運べば引き取ってくれる。今回はサラダリゾットに仲介を頼み、奪ったファミリーカーを港まで輸送した。
「とまあ、こんな感じか。ただ戦闘がないからメインクラスのレベルを上げられないし、稼げる額も少ないんだよね」
車を売り払うのはそれなりの収入になるけど、指定場所に運ぶ手間を考えると時間効率が微妙。
「初期装備を抜け出して武器を整えるにはいいけど、それ以上を望むならもっと大きく稼がないとね」
「そうっすねぇ。セツナさんならどうします? 今の銃装備で行けそうなところ行ってみてくださいっす」
「なんかだんだん趣旨変わってきてない?」
「そんなことないっすよー。セツナさんが銃でできるなら、初心者でもできるだろうって感じです」
「なんか若干馬鹿にされてる気がする」
とはいえ言いたいことはわかる。専らアサシンでプレイしているから、銃の腕が立つとは言えないし。
「そうね。じゃあ、タバコの密造所でも襲おうかな」
途中で降りたバンを拾ってハイウェイに乗り、郊外を目指す。
ブラックスターダストの舞台設定は、史実の禁酒法よろしくタバコを禁止にした結果、治安が最悪になった国だ。一般に流通していた依存性のある嗜好品が突如禁止にされたところで受け入れられるはずもなく、タバコの密造、密輸という太い収入源が裏社会に力を与えた。それは当局の取り締まりさえ跳ね除けるほどとなり、田舎へ向かえば隠されることもなくタバコ畑が広がっている。
しかし上は巨大勢力でも、現地での密造自体は少人数でセコセコ作業していたりする。
「売るにしても完成品を奪った方が楽ね。場所は、かなり多いから自分で調べてって感じで」
おすすめとか言っても誰かに襲撃された後だと意味ないからね。臨機応変にいかないと。とはいえ郊外にある密造所をベテラン勢や大手チームはあまり狙わないので、少し探せば無事な施設を見つけるのは難しくない。
「あそこにしようか」
道端にポツネンと建つ一軒家は、もともと単なる農家だったが、今は立派な密造所だ。
普段ならさっと突っ込んで全滅させるところだけど、今の私はサラダリゾットのせいでガンナーになっている。アサシンの高機動スキルなしで飛び込むのは自殺行為なので、堅実な攻略法を取る。
「見張りも立ててないのは不用心だよなー」
まあ総勢五人の密造所に求めることでもないけど。小高い丘の上に陣取り、窓から見える男を撃ち抜く。ヘッドショットはきついので胴体に数発入れて落とし、銃声を聞いた敵が騒ぎ出す前に移動。
隠れて待つと二人の男が警戒する様子を見せながらも先ほどの射撃地点に近づいてきたので、プラスチック爆弾で吹き飛ばす。
「流石NPC。毎回同じ手に引っかかる」
クラスの補正がなくても、罠なら確殺できる量の爆弾を仕掛ければいい。これであと二人。
「まああとは正面突破でなんとかなるでしょ」
熟練度の低いチンピラの銃の命中率はせいぜい二割ほどだ。プレイヤーと違って威力の補正も乗らないので、多少被弾しても構わない。なのでここからは堂々と接近。やや手間取りながらも制圧する。
「これで終わりね。目的のタバコも回収っと」
タバコはコネクションを使って売り払えるし、マージンを取られるのを許容するなら代行してくれるプレイヤーもいる。経験値を獲得しつつそこそこの収益にもなるので、立地を除けばいい稼ぎ場である。
「さ、これでもう満足でしょ?」
「うーん。なんか面白みがないっすねー」
いい加減終わりだと考えていたら、サラダリゾットは変なことを言い出した。
「いや、てっきり銃はクソエイムか、それとも実は銃も超うまかったですみたいなのを期待したのに、微妙っていうか。うまいってほどうまくもないし下手ってほど下手でもないからインパクトとかなんもないんすよね。なんかないっすかね。なんか……」
「オチが欲しいなら、こういうのはどう?」
私はサラダリゾットが余計なことを言い出す前に車に乗ると、鍵を閉めてエンジンをかけた。サラダリゾットが車外で何か慌てているようだけど、何も聞こえないので何もないのだろう。アクセルを踏んで発車する。
仕事は終わりだ。ならもう世話する必要もない。サラダリゾットも、まあ一人でなんとかするだろう。例え密造所の車が戦闘で破壊されていて、ここが都会と比べ建物も交通量も圧倒的に少ない僻地だったとしても。
本作はこれにて一端の完結とさせていただきます。続けようと思えばいくらでも続く作品、ではあるのですが、ネタが切れてしまいましたので……
ここまでお読みいただき、ありがとうございます。
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