2 一般的な金策
フロントラインとの抗争は1週間続き、両者痛みわけの手打ちとなった。家にいてもただ歩いているだけでもやたらと襲撃され、12回ほど殺されたが、300は斬ったのでまあヨシだ。
再建した自宅で消費した武装のストック補充に精を出していると、ポンッとスマホが鳴ってメールの着信を知らせる。
「ショーサじゃん」
先日までやり合っていたフロントラインの幹部だ。抗争終了を宣言したのに引きずって喧嘩するようなアホではない。なんの要件だろうとメールを開くと、シンプルな内容が書かれていた。
『一緒に強盗行かない?』
その気なら連絡して欲しいとのことなので、私はすぐに通話を繋げる。
「やあ。この早さってことは、受けるってことでいい?」
「まずは話を聞いてからだ」
ショーサが計画を説明する。決行は3日後、金曜の夜。狙うのはオルカストリートに軒を構える宝石店プラチナムパレス。参加予定は今のところ8人で、報酬は経費を差し引いた上での人数割り。想定のわけ前を確認したが、なかなか魅力的な額だった。
ブラックスターダストに稼ぎの手段はいくつもあるけど、強盗は手っ取り早くて実入りもいい。私みたいなソロプレイヤーはそもそもそんな大金を使う機会が限られるのであくまで遊びでやるくらいだけど、フロントラインほどの大所帯だと使う額も桁が変わってくる。最近戦車をいくつも失ったわけだし、補充したいのかもしれない。
「でもなんで私に? フロントラインなら身内で人を集められるでしょ?」
「プラチナムパレスは結構セキュリティが固くて。破壊不能属性の防犯シャッターがついてる。突破する頃には表は警察がたっぷりだ。だから裏を爆破して逃亡するのが基本ルートだけど、逃走車両までそこそこ裏道を抜けないといけない。歩兵戦を短時間で突破するなら腕のいいアサシンが最適だ。だけどうちのアサシンたちはちょっとリアルの予定が合わなくてね」
「まあリアルは重要ね。それで私に声かけたと」
他のチームからひとりだけ誘うのは難易度が高く、分配で揉める危険もある。ソロで腕前の保証されているアサシンとなると、見つけるのも骨なのだろう。
「わかった。そういうことなら受ける。そこは私はやったことないし、仲直りの証ってことで」
「りょーかい。じゃあ、詳細詰めよーか」
通話を会議モードに変えて、他のメンバーも交えて作戦を練る。とはいえフロントラインは何度もクリアしているので、私は指示された仕事に諾々と従うのみだ。
◆
ブラックスターダストでは金曜日の午後にサーバーメンテナンスが行われ、プレイヤー所有を除く施設がロールバックされる。またプレイヤーの建物も一定条件でロールバックされて権利が消えて、状態が停滞するのを防いでいる。
ここで重要なのは、ロールバックで銀行の資産など各略奪品が復活することだ。うまい獲物を狙うなら金曜の夜というのは、このゲームをそれなりにやっているプレイヤーなら常識である。
内側から装甲を施した黒塗りのバンに揺られて、私たちは目的のプラチナムパレスに向かう。突入するのは7人。運転手のエビセンはバンを回して逃げてきた私たちをピックする役目だ。
「今回はたっぷりルートだ。制限時間は設けず全て回収する。ただし悠長はするなよ?」
ひとりだけマスクで顔を隠したショーサが改めて告げる。同意する一堂。ゆっくりと速度を落とし、バンが宝石店の目の前に停まった。
「しゃぁっ! 派手にかますぜっ!」
いの一番に飛び出したハルバーがグレネードを射出。防弾ガラスを粉砕する。続いてショーサとアヨンがライフルを掃射して、NPCたちを掃除。何割か死んで残りが逃げ出すのをしり目に、私は警備ロボットを両断して破壊した。
防犯シャッターが閉まる。侵入した犯罪者を閉じ込め宝石を守る破壊不能の防壁は、突破するのに骨が折れるが、これのおかげで警察がなだれ込んでくともない。
ショーケースを叩き割って宝石をかき集め、革のバッグに詰めていく。動きは手慣れたもので、30秒もせずに全ての宝石を回収した。
「よっしゃ逃げるぞー」
アヨンがバッグを担ぎ、ハルバーが壁を吹き飛ばす。これで面倒な防壁と警官隊を回避できるというわけだ。
とはいえ裏にも警察は張っている上、ヘリが飛んでいるので動きはすぐバレる。私たちを見つけた数人が、警告も何もすっ飛ばしてアサルトライフルを撃ってきた。
「無駄」
跳躍で壁に張り付き、高速摺り足で一気に接近。間合いに捉えた敵を即ポリゴンに変える。高速接近からの殲滅。路地裏のような狭く障害物の多い環境で、アサシンの遂行速度は他職を圧倒する。
「流石」
「さっさと逃げるよ」
警察には勝てない。
このゲームの警察は現行犯でしか動かない無能だし、個々は弱い。けどリソースが無限でいくらでも湧いてくる上、暴れれば暴れるほど殺意が増す。最終的にはTASみたいな動きをする特殊部隊まで出張ってくるので、生き残る手段は逃げ一択だ。
私が先陣を切って道を切り開き、宝石を抱えたアヨンを守るように前進。とはいえ動きを把握されている以上、警官隊は続々とやってくる。防犯シャッターを開いた店側からも迫られ、1人、2人と倒れていく。それでも逃走ルートは確保しているのだ。銃弾の飛び交う中、敵の排除された道を強盗団が走る。
狭い路地から飛び出す直前で、目の前に黒いバンが止まった。後部座席のドアが開く。
「行って」
「助かった」
「流石」
「クレジットは後で送る」
強盗団が逃走車両に乗り込む。ただしこれで逃げ切りじゃない。警察を撒くまでがミッションだ。
法定速度完全無視でバンが走り去るのを見送り、壁を駆け上がる。遠距離攻撃の貧弱なアサシンはカーチェイス最弱だ。運転が得意なわけでもなし、乗っていても置物にしかならない。だったらこの場で足止めした方が役に立つ。
三角飛びで建物の高さを超した私は、頭上でバラバラと騒音を撒き散らすヘリを狙う。こいつが厄介なのだ。空からの目を潰さないで逃げ切るのは困難。なので落とす。
ホットバーから出した手裏剣の投擲。アサシンはどれだけ育てても他職の射程の優位を潰すような遠距離攻撃スキルを得ることはないのだが、近接攻撃力は凄まじく伸びる。カンストしたアサシンの得物は、同じくアサシンの武器か、破壊不能オブジェクト以外は断ち割れるという、絶対切断じみた切れ味を誇る。
戦車の装甲すら貫く手裏剣は圧倒的にサイズ差のあるヘリをぶった斬って真っ二つにする。
落下した機体が爆発し、パトカーを巻き込んで炎上した。これで少しの間は空からの追跡が止む。
さて、ヘリを落とした以上、車で逃げたショーサたちへのさらなる援護をここからやることはできない。重要なのは宝石を抱えた車を逃すことなので、私が警察に殺されても問題はない。けど、わざわざやられてデスペナルティをもらうつもりはない。
壁を切り開いてビルの中に侵入。目についたNPCの口を封じながら奥に駆ける。
手配状態を解除するには警察に見つかっていない状態で一定時間やり過ごす必要がある。車での逃走は物理的に距離を取るが、徒歩逃走は身軽さを活かして見つかりにくい場所に潜伏する。
室内に隠れて静かに待つ。警察が来た。見つかる前に首を刎ねて即死させる。手配状態解除のカウントダウンはリセットされていない。
3度同じことを繰り返し、着実にカウントを稼ぐ。十分が経過し、手配状態が解除された。こうなればもう、集まっていた警官はそそくさと帰っていくし、目の前で刃物をちらつかせても関与しない。
うん。やっぱり無能。
次回投稿予定は明日12時です。
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