~第6幕~
20XX年某日。クリスタルエデン本社に大物歌手、いや、今は大物実業家の女が現れた。クリスタルエデンの独自取材に応じるという――
――お忙しいところ、取材に応じて頂き誠にありがとうございます。クリスタルエデン本社は初めてだと思いますが、如何でしょうか?
「こちらこそ貴重なお仕事を頂き、誠にありがとうございます。大きな会社だと伺っていましたが、本当に大きい会社で驚きました。私たちヴィベックスよりも大きいのではないでしょうか」
――恐縮です。早速ですが本社社長である伊達監督の「M」について。この映画製作のお話を受けて思われた事は何でしょう? 納得のうえでの製作決定でありましたか?
「まるで週刊誌のインタビューのようですね(笑)でも、答えましょう。私に嫌な気持ちが1つでもあれば、この映画の製作決定は為されなかったと断言できます」
――と言いますと?
「名前こそ違いますが、この映画の主人公にあたる女性のモデルは私に他ないと思います。そのうえで監督直々に私へ『こういう映画が撮りたい』とありました。その内容がまずいものであれば『やめて欲しい』と彼に伝える事もできますよね。それで勝手に撮って世にだすことも出来ると言えば出来ますが、私と彼で万事の一致が出来ている。コレが肝心です」
――するとこの映画の内容で全く不服がないという話になります?
「あったらココにきてないですよね(笑)」
――この映画の内容では過去に華崎様が報じられたスキャンダルが数多くでてきます。前澤という登場人物は現在も行方不明となっている前園拓哉氏を彷彿とさせる人物のように感じます。ネタバレになりますけども、彼が謎の集団に連れ去られてしまう場面があります。コレは華崎様の悪印象に繋がると思われてなどいないのでしょうか?
「この映画を撮っている会社の御方が聞くことかしら(笑)まず、前提として映画のキャプションに明記されているでしょ? この映画はフィクションですってね。実在の人物や団体などとは関係ありませんってね。それが答えです。そこが全然分からない人ばかりの国になったら、それこそ私は心配よ」
――なるほど。言われてみれば。しかし前園拓哉氏を彷彿とする前澤氏に向けて「殺す」と発言するシーンもありますが?
「でも、フィクションであることに変わりがないでしょ? これはとある週刊誌さんが私と前園氏が情事を働いた後に私が言ったみたいな事を記事にしてだした事だけど、証明されてもいない。彼も私もそういう関係があったなんて認めていないですし、フィクションの世界だからこそ自由にやれば? という事じゃないかと」
――あくまでフィクションだからっていうことですね。
「そう、今頃はそこにリアリティを求める人達も多くいるのかもしれないけど、作り物だから楽しめる。そこをエンターテイメントは忘れちゃいけないよね? と私は常々考えています。音楽の世界もそうです」
――この物語は昭和の鎌倉を舞台としておりますが、ご出身は川崎と聞きます。
「こらこら(笑)プライバシー(笑)護らないといけないでしょ?」
――す、すいません。でも、孤児院の話なんかもでてきましたが、こういうのは大丈夫なのでしょうか? 施設長に脅しを入れるシーンもなかなか強烈です。
「この取材したものがどこに載せられるのか私は分からないけど、ちょっとネタバレで話しますね? 施設長とは再会します。そこで私をモデルにした主人公はその脅しをしてしまった事を謝るのですね。だけど、向こうは『気にしなくっていいよ!』って言ってくれました。このへんはリアルに私が自叙伝として残しておきたい話で……監督とじっくり話したところでもありました」
――なるほど! 華崎鮎美さん肝いりシーンにもなるという事ですね!
「ええ。時を経て家族だった存在と話していたひとときは凄い思い出になって。もしかしたら、この映画で1番観て欲しい場面かもしれませんね。残念ながら、この施設長のモデルとなった御方はなくなられましたけども、御年98歳でありました」
――なんと。ご冥福をお祈り申し上げます。華崎社長にとって母親のような御方だったのですね。
「ん~私はそう思わないようにしていますけど。そういうふうに観てもらってもイイ。物語って人の見方によりけりですものね。それこそ百人百色で千差万別のものと言うか。私にとって母親って難しい概念です。自分にとっては母親だって思ってみても、現実は違うぞ! と言うことが私の人生にはどうしてもあって。私自身が母親になることもないですし、50にもなるとね。尚更(笑)」
――勝手な解釈で申し訳ないですが、この「M」というのはマザーをあらわしているのかな? と思うのですが?
「それがこの話、これこそ私は誰かが創ったフィクションじゃないの? なんて思っていますよ(笑)私は孤児院で育った者ですが、孤児院に来るまでの記憶っていうのが全くないのです。朧気ながらあるのはあるけども、きっと思いださない方がいいのかな。小さい頃の私がカビだらけの部屋で見つかったのは作り話だと信じます。事実だとしたらどうやって取材したのか。監督に聞いてみたいわね」
そこで鮎美は顎に手をあて少し考える。そして続けた。
「私はこの『M』ってミュージックっていう事じゃないのか? と勝手に思っています。それなら自分の人生と辻褄が合って意味を成しますから」
――興味深い考察ですね。それではこの映画においてリアルな華崎鮎美を描いているところがあるとしたらどこになりますでしょうか?
「キノコが好物なところ(笑)監督に話したら速攻で採用されたみたいです(笑)」
――最後に伊達監督に何か言いたい事があれば。
「またフランス料理を食べに行きましょうね♪ 今度は逃げないでね♪」
50代になった華崎鮎美はどこか余裕のある大人の女性だ。
これがあの前田朋子だったとは誰も想像がつかない事だろう――
∀・)まりんあくあ様の「流星群になろうぜっ!」の華崎鮎美は母としての側面があるのですが、拙作の歌ウ蟲ケラのほうでは独身のままなんですね。それは何故か?というのをこの話で明確にだしたつもり。
∀・)次号で最終回になります。どんな最終回になるか想像しながらワクワクを。次号。