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M  作者: いでっち51号
3/5

~第3幕~



 朋子は市内の偏差値と大学進学率がすこぶる高い公立校に通うことになった。高校生となったのだ。



 そこで彼女は合唱部に入る。彼女と言えば歌を歌う特技のようなものがあり、中学時代に合唱祭でソロパートを歌い上げた実績がある。それからそんな習い事をした事もないのに、ピアノを弾ける芸も達者で。何より彼女自身が「歌」というものに目覚めて仕方がなかった。この学校の部活動に「合唱部」があったことを調べた田中が朋子に受験を推薦する。彼女は二つ返事で受験して合格した。



 この地域で言えば立派なエリート校。ここに進学できたからには朋子の将来も安泰に違いなさそうだ。そんな気がしていた――




 だが、ここでこれまでの彼女は驚くように崩れていった。いままで好き好んでしていた勉強の意欲がなくなり成績は驚くほど悪化。さらに合唱部の活動のほうばかり熱中するようになった彼女は学校を無断でサボり、飲食店のアルバイトをしては楽器を購入することや当時好き好んで聴いていた歌手のコンサートにいくことを始めた。この時代は荒れ狂う少年少女が目立つ風潮にあり、エリート校でない学校では校内暴力が全国各地でみられてやまなかった。田中の施設でもまたそんな不良少年や不良少女が。朋子もそんな毒にやられてしまったかのようで――



「ショックよ……どうしてこんな……」



 朋子が停学処分になった連絡を受けて田中は頭を抱えた。



 朋子は田中の施設の希望の星、そう思った矢先の出来事だ。



「ねぇ。私の鍵盤をどこにやったの?」

「それより話すことがあるでしょう?」

「先にこっちの質問に答えて」

「学校に行ってないのは何故!? サボってアルバイトって!?」

「私の質問に答えなさい」

「こっちの台詞でしょうが!? 何やっていたのよ!?」

「どこにやったのよ!?」



 朋子は田中の胸座を掴む。



 パシンッ!!



 田中は強く朋子の頬をぶった。



「売ったよ。売り返した。学校をさぼって変な事をした罰よ」

「このババァ!!!!」



 もみくちゃになる田中と朋子。たまたま近くにいた男性職員が2人の間に入って事を納めた。静かになった朋子だったが、その眼光は明らかな憎悪を放っていた。




 その晩、田中は朋子以外の入居児童でも問題行動の件があって夕食が遅れた。それを口にした時に妙な違和感が。



「ウゲッ!! ゴホッ!!」



 思わず吐き出す。



 後ろから視線を感じた。そこにたっているのは昼間に掴み合った朋子だ。



「はぁ……はぁはぁ……何を……何をしたの……?」



 朋子は手袋をつけた片手に洗剤を持っていた。



「トイレ掃除よ? 汚れていたからさ。ああ、昼間はごめんなさいね。あんなに怒ってさ。ねぇ、学校でまた頑張るから、私が苦労して買った鍵盤を買い戻してくれないかな? 今度同じような事をしたら、この程度で終わらせないから」

「はぁ……何のつもり?」

「交渉だよ。しないの?」



 朋子の目は誰のソレよりも冷たい。



 それから混ぜるな危険のシールがいやまして目に入る。



 この子がそもそも普通の子ではない事を改めて田中は思い知る。



「わかった。約束する……でも、学校だけはちゃんと卒業して……」

「はいはい」



 この翌週から朋子は真面目に学校に通うようになった。



 それまで悪かった成績も嘘のように改善。



 ただ音楽への執着は捨てきれないようだった。



「本気で言っているの?」

「はい。本気です」

「この成績なら早稲田・慶応だって学部によってはいけるわ」

「興味がなくって。それに私は一日も早くなりたいですから」

「何に?」

「Mさん」

「何ソレ」

「私の憧れの人ですよ。施設長の母も理解してくれています。先生も理解をしてくれないの?」

「………………」



 高校3年生の夏休み前。進路面談のときに朋子は都内にでて働くと明言した。奨学金制度の紹介をしてみせたが、この少女には何も効きそうになかった。



 しまいには不気味な笑みを浮かべている。



 いや確信に満ちた笑みと言ったほうがいいのか。これは人の見方によるだろう。



 担任の松坂香子は「そう、頑張ったら」とだけ言い残し、以降は朋子に対して何も言わなくなった。



 それも雨の日のこと。



 彼女は雨を降らす雲を見上げて微笑む。



 イヤホンから流れるカーペンターズの曲に酔いしれながら。




∀・)この朋子って誰のことか分かるよね?次号明らかになります。次号。

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