14-後日譚2・5年記念日
駅前のスーパーで、少しだけ高めのワインを選んだ。
冷蔵コーナーに寄って、遥の好きな苺のタルトも。
ジャケットの内ポケットには、朝からずっとしまっていた、小さな箱がひとつ。
「……まるで、またプロポーズするみたいだな」
自分で苦笑する。
でも、そう言いたくなるほど、今日という日は静かに特別だった。
五年前。
番契約という“偽り”から始まって、
票と信頼の天秤にかけながら、それでも遥を選んだあの日。
あれから、毎日をふたりで積み上げてきた。
家事も、食事も、ケンカも、風邪も、季節も、すべて。
それを数えて、今日で五年。
*
「ただいま」
「おかえり。おそい。ワイン、選びすぎじゃない?」
「君の好みに合うやつ、と思ってたら時間かかった」
「ふふ。甘くないのがいいよ。大人になったんだから」
遥はそう言って笑った。
笑い方は、五年前よりも少し柔らかくなった気がする。
自分の名前を呼ぶ声も、食器を並べる音も、
どこか丸く、家の空気に馴染んでいる。
「ねえ、冬馬。覚えてる? 5年前、選挙翌日にここで言ったこと」
「“今度こそ、忘れない”って?」
「うん」
「忘れようがないよ」
そう言いながら、ジャケットの内ポケットから箱を取り出す。
遥の目が、ほんのすこし見開かれる。
「……それって……?」
「記念日だから、形にしたくて」
小さな箱の中には、ペアの指輪が並んでいた。
結婚式をしたわけでも、家族がいるわけでもないふたり。
でも、この形があれば、世界にもう一度、
“選び続けていること”を示せる気がした。
「つける?」
「……当たり前でしょ」
遥はすぐに片方を取り、左手薬指にはめた。
すっと吸い込むように、指におさまったそれを見て、
まるで初めて名前を呼ばれたように、彼が微笑んだ。
「ありがとう。
……5年、今日まで一度も、名前を忘れなかったね」
「これからも忘れない。
“天城遥”って響きは、俺の中じゃ誓いと同じだ」
遥が軽く目を伏せる。
「もう一度言ってよ。5年前と同じ言い方で」
冬馬は少しだけ考えてから、静かに言った。
「俺は今日、“票”を手に入れたけど、
“誓い”は、まだもらってない」
その言葉を口にして、
5年経ってもまだ、遥の頬が少しだけ赤くなるのを見られることが、
何よりの幸せだった。
遙は一呼吸置いて、言葉を返す。
「はい。忘れたら、殴るからね」
二人はお互いの意思を確かめると、指輪をした薬指にお互いキスをした。
見つめ合う二人。
未来もきっと笑っていられると、お互い確信した。
死が二人を分かつまで。
「冬馬大好き!」
遙の顔は満面の笑みだった。
「遙、愛してるよ……」
「あ、ずるーい。僕も、冬馬愛してる……」
冬馬と遙は抱き合い、長いキスをした。




