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票ではなく誓いを~偽りの番契約~  作者: 相田ゆき


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12/14

12-票ではなく、誓いを

 ――――投票日前日。

報道各社の出口予想では、柏木冬馬の当選が「確実」とされていた。


だが、その空気が変わったのは、早朝に週刊タイムズの特集号が発売された日だった。


柏木冬馬、四年前のスキャンダルΩと番に──

「契約ではなく、再会だった」との情報も


SNSには真偽入り乱れた情報が飛び交い、

報道陣は一斉に邸宅前に詰めかけた。


「会見を開かないと沈黙が疑惑になる」

広報担当は焦りを滲ませたが、冬馬は静かに首を振った。


「俺が言葉を選んで話すべき時が来ただけだ」


    *


 記者会見場で閃光が走るなか、柏木冬馬はひとり、演台に立った。


一切の原稿もなく、プロンプターも使わない。

真っ直ぐに前を見て、口を開いた。


「今日、皆さんにお伝えしたいことは一点です」


息を吸い、わずかに香る何かを確かめるように目を閉じた。


「私には、番がいます。

 政治家としての立場を超えて、一人の男として、

 彼を選び、彼に選ばれました」


記者席がざわめく。


「四年前、私は彼と一夜を共にしました。

 その夜のことを、私は“なかったこと”にしようとした。

 ですが、彼は黙ってすべてを受け止め、

 私の側に“契約”という名目で戻ってきてくれました」


一拍置いて、演台に手を置く。


「番を持つ政治家として信頼されたいと願っていたはずの私は、

 一番信頼を裏切っていたのは“彼”だったと、気づきました」


「ですから、もしこの言葉が私の立場を揺るがすとしても、

 私は彼を選びます。

 “票”ではなく、“誓い”を守るために、今ここに立っています」


ざわざわとした空気の中で、ひとりの記者が立ち上がった。


「あなたが守ろうとしたものは、愛情ですか?

 それとも、過去への贖罪ですか?」


冬馬は答えた。


「贖罪なら、手放していただろう。

 彼が俺を許す理由はなかったから。

 でも……それでも傍にいたいと思ったのは、愛です」


その言葉は、誇張も演出もない、

ただの真実だった。


    *


翌日の選挙結果発表では、接戦の末、柏木冬馬はわずか2,000票差で当選した。

支援団体のいくつかは離脱を示唆したが、

一方で、冬馬の会見に「誠実さを感じた」と語る若い支持層が急増していた。


勝利の夜、会場には煌びやかな光と拍手が満ちていたが、

冬馬の目はただひとりを探していた。


    *


 リビングのテレビで、当選速報が流れていた。

「……よかったね」

遥は画面に向かって小さく呟いた。


だがその直後、インターフォンが鳴る。

画面には、スーツを着崩した冬馬が映っていた。


ドアを開けた瞬間、遥は言葉を失った。


「なにしてるの、会場にいなきゃ……」


「言ってないことが、ひとつある」


「……なに?」


「選挙は終わった。

 だから、もう“公の顔”は必要ない」


冬馬はポケットから、小さな箱を取り出した。

中には、指輪がひとつ。


「俺は今日、“票”を手に入れたけど、

 “誓い”は、まだもらってない」


遥の目が揺れる。


「……それって、プロポーズ?」


「そう聞いてくれたなら、うれしい」


冬馬が手を差し出すと、遥は小さく笑って、それを握り返した。


「じゃあ、返事。

 ――はい。忘れたら、殴るからね」


冬馬は笑った。

今度こそ、この香りを忘れない。

何度でも、この名を呼び続ける。


――――――票ではなく、誓いを選んだ二人の物語は、今ようやく始まった。



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