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票ではなく誓いを~偽りの番契約~  作者: 相田ゆき


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10/14

10-記者・堀江

 情報は、香りに似ている。


最初はごく微かに。

気のせいかと思うほどの空気の違いが、やがて鼻腔にこびりついて離れなくなる。


「天城遥が、柏木冬馬の番……ね」


堀江は自分の机に戻り、ホコリをかぶった過去のファイルを引き出した。

あのスキャンダルが起きたのは、ちょうど四年前。

俳優・天城遥が未成年相手に“不適切な関係を持った”として芸能界から姿を消した夜。

告発元は匿名の通報だった。証拠とされる写真も一枚のみ。

今にして思えば、何もかも“都合がよすぎた”。


「でっちあげられた誰かの人生、ってやつか。ありがちな話だ」


だが今回、遥は柏木冬馬の「番」として戻ってきた。

政界の寵児と、元スキャンダルΩの組み合わせ――燃えるネタだ。

いや、それだけじゃない。


堀江は再び、例の写真に目を落とす。

遥と並ぶ男。夜のホテル裏口で、顔が半分影に沈んでいる。


そこにあるのは、決して証明されてはいない“匂い”だった。


    *


 堀江は、かつての芸能界関係者・高梨に接触した。

彼は四年前、天城遥をスカウトした事務所の幹部であり、事件後に黙して語らなかった人物。


「……あの夜のこと、知ってるんじゃないか?」


「堀江。やめとけよ、あれは“潰された”話だ。

 上からも下からも圧がかかって、みんな口を閉じた。

 柏木の家系が誰か、分かってるだろ?」


「俺が知りたいのは、真実だ。番の噂も本当だったのか?」


高梨は苦笑する。


「天城遥は、あの夜、番と一度だけ会ったって言ってた。

 でもそいつの名前は、最後まで口にしなかった」


「なぜ?」


「“また会える”って信じてたから、だとさ。

 ……本当に、馬鹿だよな。あいつ」


その一言に、堀江の中で何かが決まった。


    *


 編集会議室に帰るなり、堀江は編集長に言った。


「柏木冬馬と天城遥、四年前につながってた可能性が高い。

 選挙と絡めて特集を組むべきです」


「確証は?」


「現段階では“香り”しかない。

 だが、燃えれば煙は出る。煙を追って、火を探しますよ」


「……わかった。表紙は任せる。だが、証拠写真を押さえるまでは慎重にいけ」


堀江は笑った。


「火種はもう、こっちにありますから」


堀江は動き始めた。

遥の旧居、過去の交友関係、そして何より“あの夜のホテルの防犯記録”を追って。


もしも――もしも、

柏木冬馬が自らの“過去”に蓋をしたのだとしたら。


今度はそれを開ける番だ。

たとえ誰に止められても、真実は露呈する。


それが記者の仕事だ。

たとえ、その匂いがどれほど血と涙の混じった香りだったとしても。

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