巳年のふたりのお正月
初日の出が2人の暮らす部屋を照らす。
琴葉と櫻子。
女子高校生とその先生という女同士のカップル。
人知れず2人だけで結ばれてからいくつかの年が巡り、晴れて今は新人教師とベテラン教師のカップルとして暮らしている。
琴葉が大学生になったときから2人で暮らし始め、今年は6回目の2人で迎える新年だ。
さて、2025年は2人にとって特別な年でもある。
2001年生まれの琴葉。
1989年生まれの櫻子。
そう。
琴葉と櫻子は、巳年同士のカップルでもある。
つまり、年女同士のカップルなのだ。
めでたい光が眠る2人をくすぐる。
先に目を覚ましたのは。
「ふわあああ……。ん。おめでとう。琴葉。」
櫻子が、琴葉を撫でる。
琴葉はまだ、すやすやと眠る。
「可愛い……」
櫻子はもう慣れたものだが、教師という仕事は激務だ。
しかし、2025年度でようやく教師生活2年目を迎える琴葉はまだまだ新人。
年末年始休みで疲れが一気に表に出るだろうと櫻子は予想していた。
だから敢えて、この休みはどこにも行かずのんびりと2人で過ごそうと決めていた。
互いの実家への帰省(と言いつつどちらも車で数十分の距離でしかないから顔出し程度だが)も、三が日を過ぎてからゆっくりすればいい。
私だってこのくらいの新人の頃は毎日へとへとだったもの、寝正月でゆっくり過ごして。
と櫻子は心の中で琴葉に囁く。
結局、琴葉が目を覚ましたのは日が随分高くなってからだった。
「ふわ、あ、あ……。」
「あけましておめでとう、琴葉。」
「ほえ……、あ、おめでとう。櫻子。」
「よく眠れた?」
「……たぶん?」
「それなら良かったわ。琴葉、ずいぶんお疲れみたいだったから。予定もないし、休みのお店も多いし、ゆっくりしましょう?」
恋人がもうすっかり目を覚ましたので、櫻子は台所へと向かう。
「もうほとんどお昼だからトーストとお餅を一緒に焼いてるわよ。お餅はお雑煮でいい?」
「え、もうそんな時間なの!?」
「だって琴葉が起きたの、10時くらいよ。」
「……初日の出を見逃しました。」
「私達の寝室、朝日がしっかり入るから結構眩しいのだけれど。貴女は本当によく寝てたわ。……可愛かったわよ。」
櫻子の言葉に琴葉は赤面してあたふたし始める。
「も、もう!」
「それだけ疲れてるんだろうと思ってたわよ。先生って忙しいでしょう?」
「……はい。おかげで大掃除をほとんど櫻子に任せっきりになっちゃいました。」
「私が新人だった頃には、まだ親元だったものね。そもそも、貴女とお付き合いを始めてすぐの頃もまだ親元だったし。そう思うと貴女はよくやっていると思うわ。」
「だからといってお家のことは私もやらないと……!」
琴葉の必死な言葉に櫻子は笑みが溢れる。
「もう。そういう真面目なところ。……初めて会ったときから変わらないわね。」
櫻子の笑顔が、みるみる淡い桜色に染まっていく。
櫻子は琴葉に寄り添いその耳に言葉を零す。
「……そういうところを、私は好きになったんだから。」
「……櫻子のそういうところ、ずるいです。……私が、櫻子をどんどん好きになっちゃうじゃないですか。」
「ふふ……。私のどこがずるいの?」
櫻子の桜色の笑みにほんの少しいたずらっぽさが滲んでくる。
「そうやって……すぐ私をとろけさせてくるところですよ!」
琴葉は熱情に呑まれまいと必死に言葉を出すが、必死過ぎたのか言葉が勢いよく飛び出した。
「うふふ。……じゃあもっと、琴葉に好きになってもらいたいから……ずるいこと……たくさんしちゃうわ。」
琴葉の言葉はもはや櫻子を勢いづけるものでしかなく。
櫻子は琴葉の後ろに回り込み腕を絡ませる。
まるで蛇が獲物を絡め取るかのように。
そして櫻子は琴葉の首筋をちろちろと舌で撫でる。
「はう、う、はううう」
琴葉の息遣いは熱を帯びていく。
そして櫻子の舌は琴葉の首を昇り耳へと至り、その内を吐息で満たす。
「……トーストとお餅が焦げちゃうわ。……ふふ、……あぁ。続きは今夜よ。楽しみだわ……。今年は巳年だもの。私たちにとって特別な年。素敵な一年にしたいから……最初の夜、めいっぱい、楽しみましょうね。」
もはや琴葉は櫻子の虜となっていた。
十二支を一周する年の差の2人に、2025年初めての夜が訪れた。
甘く優しく、だけれども熱情はあふれ出て止まらない。
重ねた唇の中で舌が絡み合い、息と唾液が静かな夜を刺激する。
白い肌は触れ合い紅に染まる。
2匹の蛇が絡みあうように、琴葉と櫻子は心も身体も重なり溶けあう。
互いを求める衝動に身を任せ、琴葉と櫻子は幸福へ達する。
きっと今年も、2人にとって幸せな1年となるはずだ。