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道中、そして国民

5話かけました!!どうぞお楽しみ下さい!

AIZを出て、整備された道を進む。青空が広がる草原の中、風が心地よく吹き抜けていく。

隣を歩くヴァキーナは、気楽そうにキャップのツバを指で弄びながら、時折空を見上げていた。


「そういえば、お前ってAIZのどこで生まれたんだ?」

ふと疑問が浮かび、気軽に尋ねてみた。


ヴァキーナは一瞬だけ考え込むように視線をそらし、肩をすくめる。

「うーん、それ、答えるのむずいなー」


「むずい?」

思わず聞き返すと、彼女は口元に手を当てながら苦笑した。


「AIZってさ、普通の国とはちょっと違うんだよね。だから『どこで生まれた?』って聞かれても、正直、どう説明したらいいかわかんないって感じ?」


「それは……どういう意味だ?」

ますます興味が湧く。


「んー、うまく言えないけど、話してもたぶんピンとこないと思うよ?」

ヴァキーナはひらひらと手を振る。


「それでも知りたいな」


「えー、でも面白くないって。そんなことよりさー……」


彼女はいたずらっぽく笑って、視線を向けてきた。


「逆にさ、情報交換で何が一番ヤバすぎって思った?めっちゃ衝撃的だったやつ!」


突然の質問に私は少し考え込んだ。そして、自然と口から出た言葉は──


「やっぱり、国家レベルの転移の原因だな」


ヴァキーナはその言葉に満足そうに頷く。


「だよねー!それ、初めて聞いたとき、私も結構ビビったかも」


私は続けた。


「まさか、この世界には魔法なんてものが存在していて、それを研究していた魔法技術者の一人が転移装置を開発し、それが暴走して今の状況を生み出しているとはな……」


言葉にしながらも、あらためてその異常性を感じる。


──異世界に国ごと転移してくる、という現象。

それを生み出したのは、かつて魔法技術を研究していた1人の人種。

彼が作り出した転移装置は、いまだ制御不能のまま、様々な世界から国を引きずり込んでいる。


それが、私たちがいるこの世界の成り立ちだった。


ヴァキーナは腕を組みながら「うんうん」と頷いた。


「てか、魔法があるのに、他の国では意外とちゃんと技術発展してるのが面白いんだよねー。科学と魔法が混ざってる感じ?」


「そうだな。AIZの持ってる情報を見ても、この世界はただのファンタジー世界ってわけじゃない。むしろ、異なる文明や文化が融合してる……まるで歴史の集合体みたいだ」


そう口にしながら、私はふとヴァキーナの方を見た。


「それにしても、AIZはたった三ヶ月でよくそこまでの情報を集めたものだな……」


ヴァキーナはニヤッと笑い、自慢げに胸を張った。


「すごいでしょ?うちらの諜報能力!」


どこか誇らしげな表情を見せる彼女の姿を見て、私は思わず苦笑した。


──ヴァキーナはこういう性格のようだ。

明るく、堂々としていて、どこか楽観的。でも、その裏にはAIZという情報国家の一員としての確かな誇りがある。


「情報の国、か……」


私は改めて、この世界の奥深さを実感しながら、ディ・グローセリアへと続く道を歩き続けた。


空はすっかり藍色に染まり、地平線の向こうにはかすかに残る夕焼けが見える。

風は優しく、涼やかな空気が頬を撫でた。


道を進むうちに夜になり、適当な草原の一角でキャンプを張ることにした。

ディ・グローセリアまでの道のりはまだあるが、急ぐ理由もない。


「さて、キャンプの準備だな」

私は荷物の中から、AIZから提供されたキャンプ用の資材を取り出す。


「うわー、めんどくさー」

ヴァキーナが肩を回しながら伸びをして、ダルそうに言った。


「なら、料理でも頼むか?」


「え、やだ。料理、好きじゃないんだよね」


即答だった。


「……苦手、じゃなくて?」


すると、ヴァキーナはむっとした顔でツンと横を向いた。


「違うし!好きじゃないだけ!」


「だからそれ、ただ苦手なだけじゃないのか?」


「違うったら違うの!」


彼女は頬を膨らませながら、腕を組んでそっぽを向く。その仕草が子供っぽくて思わず苦笑した。


「わかったわかった。じゃあ、テントの設営を頼む」


「うん、それならいいよ。運動は得意だし!」


ヴァキーナはそう言うと、背負っていた袋から異世界技術で作られた膨らませるタイプのテントを取り出す。

素材は軽くて丈夫な特殊繊維でできており、手動で圧縮空気を送り込むことで、みるみるうちに形を作り上げる。


私は彼女が作業する様子を横目に見ながら、料理の準備に取り掛かった。


──久しぶりのディシピーヌの味。


AIZが持たせてくれた食材の中には、私の故郷のものに近いものが含まれていた。

どんなにこの世界の料理が美味しくても、やはり”懐かしさ”という味には敵わない。


今夜のメニューはこうだ。


《魚のメイン料理》

〈ディシピーヌ風グリルフィッシュ〉

•“ミールス魚” と呼ばれるこの世界の白身魚を使い、バターとハーブをたっぷり効かせた香ばしいグリル。

•脂がのっていて柔らかい身質なので、じっくり焼き上げることで旨みを引き出す。

•仕上げにディシピーヌ特有の“ナストリス・ソース”──爽やかな酸味とほのかな甘みがある果実のソースを添える。


《主食》

〈モェリアン・ブレッド〉

•この世界で栽培される”モェリアン麦”と呼ばれる特殊な穀物を原料にしたパン。

•ふわふわとした食感ながらも、ほんのり甘さを感じる独特の風味を持つ。

•これを手捏ねして焼き上げることで、しっとりした口当たりに仕上がる。


《サラダ》

〈オルナ・グリーンサラダ〉

•シャキシャキとした食感が特徴の”オルナ葉”をベースに、甘みと酸味のバランスが取れた果実”ベリカン”を添える。

•ドレッシングには、ディシピーヌでもよく使われるナッツベースのものを使用し、香ばしさを加える。


《ティー》

〈ディシピーヌ風・セレニアティー〉

•ディシピーヌでは生活に欠かせないほど親しまれている赤茶によく似たお茶。

•花のような甘く繊細な香りが特徴で、飲むと穏やかな気持ちになれる。

•この世界にも様々な種類の茶葉が存在することを知り、それが自分にとって最大の安堵だったと言っても過言ではないかもしれない。



「おお……」


ヴァキーナがテントを完成させ、ふとこちらを見た瞬間、じっと調理の様子を見つめてきた。


「なんか、すごい手際いいじゃん。料理できる男ってポイント高いよ?」


「お前がやらないだけだろ」


「だーかーら!好きじゃないだけなの!」


再び不満げな顔になるヴァキーナ。だが、彼女の視線は完全に調理に釘付けだ。


私は静かに笑いながら、魚を焼き上げる。バターの香ばしい匂いが広がり、食欲をそそる匂いが漂っていく。


「……ねえ、それ、いい匂いしすぎない?」


ヴァキーナが鼻をひくひくさせながら、じりじりと近づいてきた。


「美味しそうだろ?」


「うん……やば、めっちゃお腹減ってきた……」


彼女は無意識のうちに口元に手をやり、指先で唇を拭う。

……よく見ると、わずかによだれが垂れている。


「おい」


「えっ?」


「……よだれ」


「え、うそ、ちょ、やば!」


慌てて手で拭うヴァキーナ。その姿があまりにも無邪気すぎて、私は思わず吹き出した。


「そんなに楽しみにされると、作りがいがあるな」


「ち、違うし!ただお腹空いてるだけだから!」


彼女は顔を赤らめてそっぽを向くが、ちらちらと料理に視線を送るのを私は見逃さなかった。


──気づけば、彼女との距離は少しずつ縮まっている気がした。


焚き火の炎が揺れる夜の草原で、香ばしい料理の香りが漂い、心地よい時間がゆっくりと流れていく。


明日からの旅も、きっとこんな風に続いていくのだろう。


焚き火が静かに揺れ、薪の爆ぜる音が心地よく響く。


夜の冷気が広がりつつあるが、炎の温もりと料理の香ばしさがその寒さを忘れさせた。

目の前には、アツアツのメイン料理、ふわふわのパン、そして香ばしいサラダ。

仕上げには、湯気を立てるティーが添えられ、焚き火の灯りに照らされている。


「──いただきます」

私は静かに言い、フォークを手に取った。


「わーっ!めっちゃ美味しそう!」

ヴァキーナは嬉しそうに手を伸ばし、パンを割った。


「……ふわっふわ……」

指先で柔らかい生地を押し、ふにふにと感触を楽しんでいる。


「焼き立てだからな。冷めないうちに食え」


「うん!」


彼女はさっそく魚を一口食べた。

口の中に広がる香ばしいバターの香りと、しっとりとした白身の旨み。

ナストリス・ソースの爽やかな酸味がアクセントとなり、脂の甘みをさらに引き立てる。


「──っ!? なにこれ、美味しっ!!」

ヴァキーナは目を丸くして驚き、そのまま次の一口を頬張る。


「ふはぁー……これはやばい……」

彼女は至福の表情を浮かべながら、モェリアン・ブレッドをちぎって魚と一緒に食べた。


「……くぅーっ、これ、しあわせってやつだな!」


「ふっ、そんなに喜ぶなら作った甲斐があったな」


私も一口食べる。


──懐かしい味だった。


この世界の食材を使っているが、調理方法や味付けを工夫すれば、十分にディシピーヌの味を再現できる。

ほんの一瞬、祖国の景色が脳裏をよぎる。

だが、その郷愁も温かな食事の幸福感に溶けていった。


ヴァキーナはフォークをくるくる回しながら、ふと思い出したように口を開いた。


「そういえばさ、シェルディってさ、ティーめっちゃ好きだよね」


「……まぁ、好きというか、必需品みたいなものだな」


彼女はおそらく私がAIZにいる間にずっと監視でもしていたのだろう。あの時にした事、言った事は何でも知っている。

私はセレニアティーのカップを手に取り、ゆっくりと口をつけた。

花のような甘い香りと、まろやかな味わい。


「ディシピーヌでは、ティーは生活の一部なんだ。食後のひとときには必ずあるし、会議や外交の場にも必ず出される。

それどころか、一日の始まりも終わりも、ティーと共にあると言っても過言ではない」


「へぇー。じゃあ、ティーがなかったら死んじゃう?」


「さすがに死にはしないが……人生の楽しみの大部分が消えるな」


「マジかー、すごい文化だな。AIZではそんなのないから新鮮かも」


ヴァキーナは目を輝かせながら、ティーの香りをかぐ。


「うん、この香り、落ち着くね」


「ティーってのは、そういうものだよ」


私は小さく微笑みながら、もう一口すする。


ヴァキーナは少しだけ真剣な表情になり、じっと私を見つめた。


「ねぇ、シェルディ」


「なんだ?」


「正直さ、この世界に来た時、どう思った?」


焚き火の火が揺らぎ、ヴァキーナの顔を赤く照らす。

さっきまでの陽気な雰囲気とは違い、彼女の声には少しだけ深みがあった。


私はカップを置き、静かに答える。


「……未知への期待と、ほんの少しの恐怖だな」


「期待と恐怖?」


「ああ。異世界に来たという事実を受け入れるのには時間がかかったが、すぐに思ったんだ。この世界でなら、新しい未来を作れるかもしれないってな」


ヴァキーナは黙って私の言葉を聞き、カップをくるくると回す。


「……そっか。でも、シェルディはすごいよ。普通、異世界に転移したらパニックになるだろうに、すぐに前を向いてる」


「そうでもないさ。俺もまだ戸惑っているよ」


「でも、夢を持ってるでしょ?国を作るって」


私は小さく笑った。


「そうだな」


ヴァキーナは焚き火の炎をじっと見つめたあと、ふっと微笑んだ。


「じゃあさ、私はシェルディの夢を手伝ってやるよ」


「……?」


「私、シェルディの国の一員になるよ。どんな国ができるのか、興味あるし」


焚き火の火が揺らぎ、彼女の目がきらめく。


──この出会いは、偶然か、必然か。


彼女はおそらくAIZに私の動きを監視するよう言われたのであろう。そこに怖さがないと言ったら嘘になる。

だが、間違いなく、彼女はこの世界での”最初の仲間”になろうとしていた。


「……なら、その時はしっかり働いてもらうぞ」


「はいはい、任せなって!」


彼女は満足そうに笑い、カップを掲げた。


「じゃあ、未来の"私達の国"に乾杯!」


私は小さく笑いながら、自分のカップを持ち上げる。


「……乾杯」


カップが軽く触れ合い、微かな音を立てた。


──夜は静かに更けていく。

そして、明日からの新たな旅が、ゆっくりと始まろうとしていた。



薄明の空に、鳥のさえずりが響く。冷えた朝の空気を吸い込みながら、私は静かに目を開けた。

焚き火の残り火はまだ燻っているが、テントの外から妙に落ち着いた声が聞こえてくる。


「──うん、昨日のご飯、まじでヤバかったよ。やばいくらい美味しかったって伝えといて」


ヴァキーナの声だ。


私はテントから身を起こし、音のする方を見た。

そこには、地面に膝をつきながら何か細長いものに念波を送っているヴァキーナの姿があった。


その”何か”は──虫だった。


「……おい、なんだそれは?」


「あ、シェルディ起きた?」

ヴァキーナはあくまで普通に話しかけてきた。まるで、虫と交信していることが日常的なことであるかのように。


私は視線を戻し、改めてその生物を観察する。


細長い体、触覚がピーンと真っ直ぐ伸びており、まるでアンテナのように空を向いている。

体色は光沢のある黒褐色で、よく見ると表面には微細な模様が刻まれている。

ヴァキーナの手の上で、まるで生きている通信装置のように静かに佇んでいた。


「……で、それは?」


「こいつ? “シンパリア”っていうんだよ。AIZの国民しか使えない念波送信用の虫。情報を直接AIZに送れるんだ」


「……また妙なものを」


私は苦笑しながら寝袋を抜け出し、軽く体を伸ばした。

ヴァキーナがこんな生物と交信していることよりも、それをまったく隠す様子がないことの方が驚きだった。


「AIZへの報告……まあ、別に驚かないが、何をそんなに報告しているんだ?」


「えっとねー、昨日のご飯がヤバかったってこと!」


私は思わず吹き出しそうになった。

「……そんなことまで報告するのか?」


「当然! だって、あんな美味しいご飯、うちらの研究員も食べてみたいはずじゃん?」


私は肩をすくめ、軽く笑った。

「ご苦労なことだ」


その間、シンパリアはじりじりとした高周波のような音を発し続けていた。

きっとこれが”念波”の音なのだろう。


そんな光景を見ながら、私は朝の支度を始めた。

ヴァキーナは報告を終えると、シンパリアを手のひらから放した。

すると、その虫はスーッと宙に浮き、そのまま風に溶けるように消えていった。


「よし! じゃあ、そろそろ出発する?」


私は荷物を背負いながら頷く。

「行こうか」


ヴァキーナは元気よく歩き出し、私はその後を追った。



ーー数日後


いくつもの夜を越え、私たちは順調に歩を進めていた。

旅の道中、特に問題はなかったが、私は徐々に疲労を感じ始めていた。


一方で、ヴァキーナはまったく息を乱していない。

運動が得意というのは嘘ではなかったようだ。


「さすがに……そろそろ休みたいな」

私は肩で息をしながら言った。


「えー、まだいけるっしょ?」


ヴァキーナは軽快な足取りで振り返る。

私は内心でため息をつきつつも、ふと周囲の景色に違和感を覚えた。


「……ヴァキーナ、見ろ」


「ん?」


彼女も周囲を見渡し、すぐに気づいた。


植物の生態が変わっている。


私たちは今、明らかに”転移の境目”に差し掛かっていた。


今まで周囲の草木は温帯気候に適した見慣れた様な種ばかりだったが、ここにきて妙な変化が現れていた。


例えば、葉の形がまるで異なる樹木が混じっている。

普通なら広葉樹が生い茂るはずの森の中に、見たことのない針葉樹のような植物が混在していた。

幹は太く、ごつごつとした樹皮に覆われ、上部にはまるで火山岩のような黒ずんだ葉が生えている。

それらの間を縫うように、地面を這うツル状の植物が繁茂している。


ツルには淡い光を放つ小さな球体が点在していた。

風に揺れると、それが淡く発光し、まるで夜の光虫のように見える。


「……すげぇ」

ヴァキーナが思わず呟いた。


私はその場に立ち止まり、慎重に地面を踏みしめる。

「転移の影響か……この辺りは、二つの世界が混ざり合った場所なんだろうな」


「うん。……なんか、ちょっと怖いね」


ヴァキーナが珍しく真面目な声で言った。

さっきまでの陽気な態度とは違う。


それほどまでに、この異様な景色には不気味な迫力があった。


「……少し休もう」


「了解!」


私は近くの岩に腰掛け、ヴァキーナは軽くストレッチをしながら周囲を観察していた。

彼女はどんな環境にも適応できるように思えたが、それでもこの風景には圧倒されているようだった。


この世界の理は、まだまだ理解しきれない事ばかりだ。


温帯の森を抜け、転移の境目を越えてから、道の雰囲気が明らかに変わってきた。


足元を見ると、土の道から少しずつ石畳のような舗装に変わっている。

まだ完全な石畳ではないが、一定の規則性を持って並べられた滑らかな灰色の石が、ところどころに散りばめられている。

この先にはしっかりとした街道が存在するのだろう。


「おっ、ついに文明圏に入った感じ?」

ヴァキーナが興味深そうに石畳を蹴る。


「そうかもしれないな」

私も視線を巡らせながら、周囲の変化を観察した。


見たことのない鳥が飛び交っている。

羽毛の色は濃い紫と金のグラデーション。羽を広げると、まるで夜空に瞬く星のような光が反射する。


「……綺麗な鳥だな」

私はぽつりと呟いた。


「確かに。こんな鳥、AIZにはいなかったな」

ヴァキーナも鳥の軌跡を目で追っていた。


異世界の国境──それは、ただの地理的な境界ではなく、異なる世界の文化や生態系が交差する地点でもあるのだろう。

この変化の先にある国、ディ・グローセリアはどんな場所なのか。


そんなことを考えながら歩いていると、ふと、道の脇で何かが動いた。


「……あそこ、誰かいる」


ヴァキーナが小さく声を落とした。


道の少し外れた森の奥に、一人の男がいた。


服は少し擦り切れているが、ちゃんとした織物でできており、都市の住人らしい装い。

しかし、彼は今、明らかに何かに怯えていた。


視線を彼の前に向けると、そこには常軌を逸した異形の怪物が立っていた。


「……なんだ、あれ……?」


それは、まるで”頭から無数の毛むくじゃらの足が生えた”異様な生物だった。

体長は6メートル以上。

胴体は巨大な繭のような形をしており、その表面には不気味な紋様が浮かんでいる。

毛のように見える足が胴の上部から無数に生えており、まるで毛虫の様な腕生えているようだ。


「……助ける?」

ヴァキーナが短く尋ねる。


私は一瞬も迷わず答えた。

「グローセリアの住人かもしれない。助けれるか?」


その言葉を聞いた瞬間、ヴァキーナが姿を消した。


「……!」


一瞬後、彼女はすでに怪物の足元にいた。


ヴァキーナの手には、異世界の武器と思わしき──筒の様なものが握られていた。

手のひらサイズの武器で、内部の機構が独特の波動を発している。


ヴァキーナがそれを向けた瞬間、強烈な弾が発射された。


ドオォォォン!!


弾は怪物の表面に当たり、その瞬間、衝撃波が内部で炸裂。

皮膚の下で何かが弾けるような音がした。


しかし──怪物は、まだ倒れない。


「っ……こいつ、やるじゃん!」


怪物はその無数の足を一斉に持ち上げ、ヴァキーナに向かって振り下ろした。

だが、彼女は軽やかに跳び退き、逆に武器を怪物の”地面に接する部分”へ向けた。


「弱点!」


ズドンッ!!


再び”振動弾”が撃ち込まれる。

今度は、怪物の下部が内部から崩壊するように陥没し、その場に崩れ落ちた。


「……倒したか」

私はようやく息をつく。


激しく揺れ動いていた怪物の巨体が、ドサリと倒れ込む。

その静寂が訪れると同時に、ヴァキーナが軽快な足取りで男に近づき、手を差し出した。


「ねえ、大丈夫?立てる?」


男は怯えた表情を浮かべたままだったが、ヴァキーナの差し出した手を見て、ようやく意識が戻ったようにハッと顔を上げた。

「……あっ、ああ。本当に……ありがとうございます!」


震えながらも彼女の手を取って立ち上がる。


「いやー、すごいビビってたけど間に合ってよかったね!」

ヴァキーナが無邪気に笑う。


男は彼女の言葉に恐縮しながら、少し姿勢を正した。

「私はディートリヒと申します。ディ・グローセリアに住む者です。このような命の恩人に、どうお礼を申し上げれば……」


ヴァキーナはにっこり笑い、軽く肩をすくめた。

「んー、じゃあさ、もしあなたが本当にグローセリア人なら、お礼がわりに街まで案内してくれると嬉しいんだけど」


ディートリヒの顔が、再び驚きに染まった。

「もちろんですとも!命の恩人にそのくらい、当然のことです!」


彼は深く頭を下げ、続けた。

「街までの道は、この辺りの人間でなければ迷ってしまうことも多いでしょう。どうか、私にお任せください!」


彼の真摯な態度に、私は小さく笑みをこぼす。

「それはありがたい。案内、頼むよ」


ヴァキーナも私の方を振り返り、満足そうに笑みを浮かべる。


「よーし、それじゃあ決まりだね!命の恩人パワーで一発解決!」


ディートリヒが頭を下げて感謝を重ねる中、私たちはディ・グローセリアの街を目指して歩き始めた。

最後まで読んでくださりほんっととにありがとうございます、、!

アクセス数が1増えるだけでも本当に励みになりますので今後もぜひぜひ!よろしくお願いします!!

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