秘められし野望
3話目書けました!
ちょっとづつ長くなってきてしまっているのでこのくらいの文字数で毎回収められて少なすぎず多すぎずを意識してこれからも書いていきたいと思います!
ではどうぞ!
壁の門を潜り抜けて街の中央に向かって歩く道は、どこまでも続いているように見えた。街全体を覆うような轟音が響く中で、煙突から立ち上る黒煙が空を覆っている。
「長旅ご苦労さまでした。」
ザーレが静かに口を開いた。
「ここまで来るのは、さぞ大変だったでしょう?」
彼の礼儀正しい態度に、私は軽く頭を下げた。
「お心遣い感謝します。しかし、貴国の質疑に応じるのは親切を受けた私の義務ですから」
ザーレは微笑んだ。
「丁寧なお言葉、恐縮です。我々も急な転移で混乱しましたが、少しずつ立て直しているところです」
「いつ頃、この世界に?」
私は歩きながら尋ねた。
「およそ三ヶ月前です」
ザーレの足取りは軽やかだった。
「全ては突然でした。何の前触れもなく、大きな揺れが国を襲い、その直後に国民全員が意識を失いました。目を覚ました時には……ここに」
「なるほど」
私は眉をひそめながら考え込んだ。
「私がこの場所に来た時も、強い衝撃を感じました。ただ、どうやら私だけのようです。私のいた国そのものは……転移してきていない」
ザーレは足を止め、私に振り向いた。
「それは……奇妙ですね」
彼の顔には明らかに驚きが浮かんでいた。
「通常、転移が起こる際には国全体が動きます。私たちの場合も、国全体の全自動安全システムが作動しなければ……正直、国の維持機械が爆発していた可能性もありますよ」
彼は軽く笑ったが、その笑みの奥には深い疲労が隠れていた。
街の音が再び私たちの会話をかき消すように響いてきた。
通りには多くの人々が忙しそうに行き交い、その服装はどこか懐かしいものを感じさせる。男性たちはベストと帽子を身につけ、女性たちはシンプルなスカートやエプロン姿で働いていた。
ディシピーヌでもかつて、国民は労働をして生きるのに精一杯だった。私の父も毎日私が夜寝た後、起こさぬ様に静かに帰ってきていたのを思い出す。
「この国の人々のメンタルはものすごく強靭ですね...私の国では三ヶ月経ってもここまでビシッと切り替えれるとは思えません」
私は目の前を歩く人々に目を向けながら言った。
「短期間でここまで整えるとは」
「我々は皆、協力し合う社会ですから」
ザーレは誇らしげに答えた。
「ですが、まだ完全ではありません。この都市の全貌をご覧いただければ、我々の課題も見えてくるでしょう」
そう言うと、彼は再び歩き始めた。
通りの両側には高層のビルが立ち並び、その上部からは黒煙が絶えず立ち上っている。工場が住宅と一体化しているという独特の構造だ。前いた世界では騒音と公害の問題で訴訟が起こるのは間違いなさそうだ。人々の忙しそうな姿を見ると、この街がこの国の生産と労働の中心であることがよくわかる。
「一つお尋ねしても?」
私は歩きながら、少し間を置いて尋ねた。
「貴国はこの街が唯一の都市なのでしょうか?それとも、他にも都市があるのですか?」
ザーレの足が一瞬止まり、その表情に微かな影が差したように見えた。
「我が国は、この世界に来る前、とある国から侵略を受けていました」
彼の声には冷静さを保ちながらも、どこか深い感情が滲んでいた。
「この都市を囲む壁も、その侵略から身を守るためのものです。そして……この都市が最後の砦でした」
ザーレは前を向いたまま、一拍置いてから続けた。
「転移が起きたことで、我々は窮地を救われたと考えてもいいでしょう」
一瞬、私たちの間に沈黙が訪れた。その重い現実に、私はどう言葉を返すべきか迷った。
「……申し訳ありません。そのような事情があったとはつゆ知らず、無礼なことを申し上げてしまいました」
頭を下げる私に、ザーレは軽く手を振り、微笑みを浮かべた。
「いえいえ、仕方のないことです。今となっては、こうして転移のおかげで安全になったのですから」
彼の声には、安心感とほんの少しの不安が混じっていた。
「ただ……あの侵略国がこちらの世界に来ていなければいいのですが」
その時、目の前に巨大な建物が現れた。中央評議会――都市の中心に位置する建物だ。
「お疲れ様です。ここが調査委員会本部です」
ザーレは立ち止まり、私に案内を促した。
評議会の建物の内部は、外観から想像していたよりもずっと整然としていた。壁には規則正しい線が描かれ、装飾の少ないシンプルなデザインが広がっている。機能性を追求した造りなのだろう。
私はザーレの案内で奥の会議室へと進んだ。そうして部屋に入ると、部屋の中央には丸いテーブルが置かれ、その周りには四人の代表者がすでに座っていた。彼らはそれぞれの階級の中でも上の方の存在なのだろう。
「シェルディ殿、こちらが当国の調査委員会の代表たちです」
その後彼等に私をザーレが紹介し、一歩下がる。
歩いていた時にザーレからそれぞれの人の役職を聞いている。最初に目を合わせたのは、厳しい顔つきをした兵士階級の代表だった。彼は背筋を伸ばし、鋭い視線をこちらに向けている。
「まず挨拶を……シェルディと申します。このたびはご招待いただき、心から感謝いたします」
私は全員に向かって深く頭を下げた。
農民階級の代表がにこやかに微笑んだ。彼女は比較的柔らかな雰囲気を持っており、緊張感を少し和らげてくれる。
「ようこそ。我々もあなたのお話をお聞きしたく思っています」
技術者階級の代表は無表情で頷きながら、何か記録をとっているようだった。一方、労働者階級の代表は、目を少し開け、じっとこちらを観察しているように見える。
「では、質疑を始めましょう」
ザーレが全員に向かって頷き、議事を進める準備が整ったことを示した。
最初に発言したのは兵士階級の代表だった。彼は椅子に深く座り、低い声で言葉を発する。
「まず確認しておきたい。我々が信頼できる人物であると、どう証明するのか」
その言葉に一瞬、場が静まり返る。彼の視線は私を貫くようだ。
「あなたがAIZの手先でないという保証がどこにある?」
農民階級の代表が口を挟んだ。
「もしAIZの手先だったとしても、情報は必要です。我々は今、この世界について知識が圧倒的に不足しています」
兵士階級の代表は不満そうに眉をひそめたが、何も言わなかった。
次に技術者階級の代表が私を見据えて尋ねた。
「シェルディ殿、あなたは本当に一人で転移してきたのですか?」
私は頷いた。
「ええ。私自身、未だにこの状況を完全に理解できていません。しかし、確かに私は単身でここに来ました」
私がこれまでの経緯を説明すると、周囲は驚きの声を上げた。
その中で黙っていた労働者階級の代表が初めて口を開く。
「では、あなたはAIZと接触していないと断言できるのか?」
「はい。私はAIZの存在を、この国の方々から初めて耳にしました。誓って嘘はついていません」
その答えに、労働者階級の代表はわずかに微笑んだ。
「興味深い。人が一人で転移することは前例がありません。この事実そのものがAIZにとっても新たな情報となるでしょう」
彼はゆっくりと言葉を続けた。
「AIZは、どんなに小さな情報でも大切にし、詳細な分析を行います。この新たな情報は、彼らとの交渉材料となり得る」
私はその言葉に興味を引かれた。この世界における情報の価値が、いかに高いものであるかを改めて感じた。
「教えられることは少ないのですが……シェルディ殿、何か質問はございますか?」
農民階級の代表が私に問いかけた。
私は少し考え、口を開いた。
「もし可能であれば、私はAIZに行ってみたいと思っています。この世界についてもっと情報を得たいのです。しかし、安全は保証されるでしょうか?」
農民階級の代表が即座に答える。
「AIZがあなたを傷つけることはないでしょう。彼等は我々が接触したところかなり高知能です。実際に外交探索団が接触した時も全くもって危害は加えられませんでした。ただ、我々と接触したという情報とあなたが1人で転移してきたという事実を彼らに伝えないように。それだけは守ってください」
私は頷いた。
「心得ました。」
その瞬間、草原を歩いていた時に考えていた思いが胸の中を巡り巡った。
もし、この世界が定期的に転移が起こる場所ならば――
もし、ここで新たな国家を築くことができるならば――
「私は……この世界で新たな道を歩むことができるかもしれない」
その野望を心に秘めながら、私は静かに席を立った。
ザーレは私を評議会の出口まで丁寧に見送ってくれた。
その途中、ふと足を止め、穏やかな声で問いかけてきた。
「ところで、シェルディ様……もし差し支えなければ、以前はどのような仕事をされていたのですか?」
私は一瞬だけ考えたが、必要以上に隠す理由もないと判断し、ゆっくりと口を開いた。
「私は……以前の世界で、大統領を務めていました」
その言葉を聞いた瞬間、ザーレの目が驚きに見開かれる。
「大統領……!それはまた、なんという……」
彼は少しの間、言葉を選ぶようにして続けた。
「お一人でこの世界に来られたこと、ご国のことを案じます。ですが……シェルディ様がそのような要職にあったというのなら、その能力を活かしてこれからもきっと新しい道を切り開いていかれるのでしょうね」
「恐縮です」
私は軽く頭を下げた。ザーレは微笑みを浮かべると、先程私に手渡された旅の荷物を指差した。
「これは、我が国からのささやかな支援です。道中お気をつけて。またどこかでお会いすることがあるかもしれませんね」
「その時はまたよろしくお願いします。わざわざありがとうございました」
最後の握手をグッと交わし、私はその場を後にした。
ザーレに見送られ、私はベル・カンナーツィアの農村を後にした。
目指すは情報の国、AIZ。胸に抱える期待と不安を抑えながら、ひたすら草原を進む。
日が傾き、空が茜色に染まる頃。草を踏む足音以外に、どこからともなく人の声が聞こえた。
「そこの旅人!お待ちください!」
声に反応し、私は立ち止まり周囲を警戒した。声の主は、草原の中から現れた三人の男たちだった。彼らは動きやすそうな服装をしており、だいぶ使い古してあった。その歩き方や身振りには特に不自然さは見られない。
「失礼します。我々はベル・カンナーツィアの探検外交団の者です。この地域を巡回中に、あなたを発見しました。もしよろしければ、少しお話を伺わせていただけませんか?」
一人の男が、礼儀正しい口調で話しかけてきた。その表情に作為的なものはなく、話す内容も至極自然だ。
私は一瞬考えたが、ここで警戒心を露わにするのも得策ではないと判断し、穏やかに返答した。
「私はシェルディという者です。先ほどベル・カンナーツィアの農村を訪れていました。何かご用でしょうか?」
男たちは一瞬だけ目を見交わし、笑顔を崩さないまま話を続けた。
「ああ!あなたでしたか!あなたが評議会での会議に出席されて出発されたと本国から通知を受け取りまして、興味を持ちました。我々は情報を収集する任務を担っており、この地域にいる新たな人物について知っておくべきだと考えた次第です」
その言葉に私は一見穏やかに頷いたが、胸中に違和感が広がり始めた。
彼らの言動に不自然な点はない。それでも――直感が警鐘を鳴らしている。
「あなた方はベル・カンナーツィアの探検外交団と仰いましたね」
私はあえて穏やかに尋ねた。
「具体的にはどのような活動をされているのですか?」
一瞬、目の前の男の動きが固まったように見えた。だがすぐに笑顔を浮かべ、流暢に答える。
「私たちは主に、この地域の地理や他国との接触情報を収集する活動を行っています」
その返答を聞きながら、私は過去の記憶を呼び起こしていた。
かつて、ディシピーヌでクハージュ神兵陸団長に言われた言葉が蘇る。
「相手の言葉に矛盾がないからといって、信用してはいけません。特に情報を欲しがる相手は、それが罠だと考えるべきです」
彼は厳しい政治家対スパイ訓練の中で何度も私に言い聞かせた。
「情報を引き出そうとする者ほど、こちらの話を遮りません。全てを聞き、余裕を見せる。そうやって、相手の警戒を解こうとしてきます」
あの時、私は彼にまんまと騙され、貴重な機密を渡してしまうという失態を演じた。
同じ状況に……似ている。
「あなた方の任務、大変ご苦労なことだと思います。」
私は一見穏やかに微笑みながら、意図的にもう一つ質問を投げかけた。
「先ほど評議会の議員たちが、新世界探検団が道を作ったと仰っていましたが、それはあなた方の成果でもありますか?」
その質問に、目の前の男たちは一瞬微妙な表情を浮かべた。だが、すぐに穏やかな笑みを取り戻す。
「そうですね。この地域の整備に新世界探検団は大きく貢献しています。我々もその一員として尽力させていただきました。」
言葉は流暢だ。だが、何かが違う。
返答の中にほんの一瞬――確実に「考える間」が挟まれていた。
私はあえてもう一歩踏み込む。
「それは素晴らしい。きっと道を作る作業には多大な時間と労力を要したのでしょうね。」
「はい、おっしゃる通りです。」
答えた男の視線が一瞬逸れる。その刹那、私は違和感を感じ取った。
「なるほど。ところで、その道が具体的に完成したのはいつ頃のことですか?」
私は追撃を放つ。
男たちは微かに目を見交わした。そして、主導しているらしき男が口を開く。
「約……2週間ほど前でしょうか。私たちはそれ以前から別の任務に従事しておりましたので、完成は少し遅れましたが……。」
「そうですか。実に興味深い。」
私は表情を崩さずに答えた。だが、胸の中では確信に至りつつあった。
ベルカンナーツィアでは、情報漏洩を防ぐために全ての国民に特殊な録音媒体が取り付けられている。この媒体は国民が生まれた瞬間から装着され、生活の全てを記録し、本国の中央システムへとリアルタイムで情報を送信している。これにより、国家全体で迅速かつ正確な情報共有が可能となっているのだ。
だが、このシステムにも制約がある。録音された情報を即座に再生し利用できるのは、本国に設置された巨大な再生機器の範囲内、つまりベルカンナーツィア都市圏の周辺に限られている。それ以上離れた場所では、情報の送信や再生に膨大な時間がかかり、さらに送信できる情報量も大幅に制限されてしまう。
「遠く離れた場所で詳細な情報を送るのは現実的ではありませんし、たとえ可能であっても、その必要性があるとは思えませんね」
ザーレの言葉が脳裏をよぎる。主人公は彼から、この国の情報伝達方法について詳しく聞いていたのだ。
また、ベルカンナーツィアでは、情報の取扱いに極めて厳しい規律が敷かれている。許可を受けた団体や人物以外には、基本的な情報以外を伝えることは固く禁じられているのだ。そのため、新世界探検団の活動に関する詳細な情報、特に完成時期のような具体的なデータを外部の者に語ることは、極めて異例かつ慎重を要する行為だと言える。
それを踏まえれば、目の前の集団が「道の完成時期」についてあっさりと口にしたことは、ますます疑念を抱かせる。仮にベルカンナーツィアの一員であるならば、このような情報を軽々しく漏らすことは、明らかな規律違反だ。だが、彼らの言動にはそれを意識している様子が全くない。
……やはり、彼らはベルカンナーツィアの人間ではない。
主人公の中で、その確信がさらに深まっていった。
さらに加えて――彼らの振る舞い。スパイ訓練で教えられた「不自然さの兆候」を満たしている。
「そういえば」
私は意図的に話題を変えた。
「あなた方の探検外交団は、AIZとも接触を図っているのですか?」
その言葉に、彼らの笑顔がほんの一瞬凍りついた。
「AIZ……ですか」
主導している男は笑顔を保ちながらも、わずかに声のトーンが変わる。
「ええ、彼らと接触はありました。ですが、お互いにまだ情報交換は控えめで……」
「それは残念ですね」
私は表情を崩さずに答えた。だが、彼らの反応を見逃さない。
――彼らはAIZそのものだ。
「さて」
私は静かに足を止め、彼らを振り返る。
「質問に答えていただきありがとうございました。では、私はこれで失礼します」
その瞬間、主導している男が言葉を紡いだ。
「待ってください、シェルディ殿」
「はい?」
私は静かに振り返る。
「……あなたは、この土地の出身ではないのですか?」
その言葉は、明らかにこちらの反応を試すようなものだった。
私は軽く微笑んだ。
「どういう意味でしょう?」
「いえ」
男は軽く肩をすくめる。
「ただ、あなたの態度には異質なものを感じます。言葉遣い、所作……それらが、少しこの土地のものとは違う」
――探ってきた。
「そうですか?」
私は笑顔を崩さず、少し首を傾げてみせる。
「それが旅人というものではありませんか?」
「なるほど」
彼らは笑顔を浮かべたまま、視線を交わし合う。
「では、どうぞお気をつけて」
彼らが少し道を譲る仕草を見せた。
――だが、背中を向けたその瞬間、私は肌で感じた。
「何か、仕掛けてくる……!」
本当に最後まで読んでくれてありがとうございます!!
僕も大統領...なりだい"い"!!
皆さんが読んでくれてるという事実だけが僕の幸せです!次回もなるべくすぐお出ししますのでぜひ応援お願いします!!




