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序章・宣告

このお話は実際に経験した事を基に

書かせて戴きました。

なので、ほぼ事実ですが、だいぶ昔の出来事なので

もう時効かと思いお披露目します。



「あのー それはつまり、胃がんっていう事でしょうか?」


「おそらく・・・そうだと思います」


穏やかに、だがきっぱりと医師は言った。


やっぱりなー。

いつかこの日が来ると、覚悟はできていた。

血縁関係にガン患者が多く、

ここ数年は人間ドックで毎回要精密の結果だったし

体調も良くなかった。

ただ、もっとずっと先だと思っていた。

まさか40代でなろうとは・・・


私の名は 泉 京子 45歳。

普通の主婦やってます。


それにしても今は随分とライトな感じに宣告されるのですね。

わたくし、びっくりいたしました。はい。


ドラマのように「ガ―――ン!」とか言えなかったし

目の前が真っ白にもならなかったし、


「うーん、そうかぁ、やっかいな事になったなあ。

やっぱり手術になるのかな、これから検査いっぱいするんだろうな。

みんなのご飯どうしよう、あっ、冬用の布団まだ出してなかった」


と頓珍漢な心配ばかりしていた。


本当のショックは五日後に届いた細胞診の結果を見た時。


「悪性度が高く、早急の治療が必要」


流石の私も焦った。


(これはマズいかも)


それからは、超ハードスケジュールな検査の日々。


良い医師に巡り会えたって事なのだろう。

一週間後にはオペの段取りが済み、

発覚からわずか十日で手術台の人となった。

あまりにも展開が早すぎて、落ち込む暇も無かった。


私の場合、あまり顔つきの良くない種類のガンだったので、

流行りの腹腔鏡ではなく、開腹でのオペとなった。

術後のリスクは大きいが、ほかへの転移や周囲のリンパ節も

確実に目視で確認できる安心感がある。


11月初め。


手術当日はやたら寒い日だった。

医療ドラマの光景が頭にあった私は

てっきりストレッチャーに乗せられ、


「がんばってね!」


なーんて夫や子に手を握られながら、見送られるのかと思っていたのに


「泉さぁん、そろそろ行きますか」


と看護師さんに声をかけられ、つんつるてんのオペ着のまま


「んじゃ、行ってくるね」


と、買い物に出かけるようなノリで家族に手を振り、

冷えた院内をスリッパでペタペタと徒歩で手術室に向かったのだった。


部屋に入ると想像していた手術室とはかけ離れていた。


無機質な研ぎ澄まされたような空間に、ライトが煌々と、

・・・ではなく


いやいやここ中学の理科室ですか?

窓際に木製の机、その上には何冊もの医学書

(まさか、あんちょこを見ながらのオペじゃないですよね 汗)

壁際には古い硝子戸の棚

おまけに手術台がやけに狭い。

小学校の体育館にある平均台を3本並べた位の幅しかないんじゃないの?

落っこちちゃうよ・・・


こんなところで私は内臓を御開帳するのですか!?

蛙の解剖じゃないんだからさー、もー嫌すぎる・・・


と思った直後、ものすごく気持ちよく眠ってしまった。

術前に「がんばってね」とか患者に声をかけますが

頑張って欲しいのはむしろ執刀医。

患者が頑張る本番は、麻酔から目覚めてからです。

私の場合・・・最悪でした。


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