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電創世界と未来の調律者  作者: 四葉飯
一章 下幕
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93話 世界との駆け引き

 政権ユーフィリル・ニーライアは多忙だ。それでも幾つかの事務作業を深夜へと頼み、彼女はとあるメディカルセンターの一室へと向かっていた。仕事を放棄してでも確認せねばならない事が一つあるのだ。


「失礼します」


「……お姉ちゃん、誰?」


 幼い女の子の紫色の瞳がぶつかる。名はシトラ。収束機の別名を持ち、未来改変の力を無意識に使用する危険な兵器だった。だが収束機と天剣との繋がりを強め、その力を遺憾無くシャドウ研究会へとぶつける道筋は突如として失敗に終わった。


「……クラヴィスの知り合いの一人ですよ。お見舞いに来ました……お隣良いですか?」


「うん……!クラヴィスにぃね、凄く疲れてるんだって!ずっと寝てるの」


「そうですか……きっと沢山頑張ったのでしょうね」


 ベットで眠るように動かないクラヴィスの容態、ユーリは彼が目を覚ますことは絶望的だと知っていた。NPC、そんな変えることのできない存在の土台を覆そうとしたのだから。


「シトラちゃんは……早くクラヴィスに起きて欲しいですか?」


「うん!また皆と集まってゲームとかお話とか……いっぱい遊ぶ!」


「……そうですか。それは楽しみですね」


 収束機が願えどクラヴィスは起きない。彼の願い、人で在りたかったという代償に絶望している訳でもないと伺える。彼は彼なりに願いの本質を変化させたのだと、ユーリはそう推測した。故にポケットから取り出すは一枚の硬貨。


「シトラちゃん、少し遊びましょう」


「?」


「いきますよ」


 弾いたコインが放物線を描く、巧みに両腕を交差させてシトラからは見えないように片方の手のひらへと収めた。突き出した両の手、そこに求めるはコインの在処。望みを収束させる力を観測する気だった。


「コインのある方を選べたのならば……私の全てを持ってクラヴィスを起こしてみせましょう」


「ほんとに!?えぇっと……う〜ん」


 彼女にまだ力があるのならば、例えこの掌の中にコインがなくとも選べる事だろう。既に両の手にコインはない。与えた選択肢の中に彼女の望む答えは無いのだ。前提を覆す力の観測が今、終わった。


「こっち!」


「……残念、ハズレです」


「えぇ〜!!わかんないよぅ……」


「ふふ、大丈夫ですよ。焦らなくてもきっと目を覚ましますから……では私はこれで」


 幼い女の子へと手を振って病室を後にする。確信したのはもう一人の調律者が刹那的に未来を改変した事実だ。未来の調律、狂った世界の導べを治す者。クラヴィス・ミソアという存在は収束機に課せられた能力を嘘に変えてしまったのだ。


(深夜に報告を受けた時はまさかと思ったけど……単騎で実現させるなんて驚いたよ。っと……時間だ)


 流れるように目も向けずな右手を空にスワイプした。転送と同時にその姿の座標を移す。テイルニアという枠の外、広大な蒼天が一面を覆い尽くす視界が広がる。


「遅刻じゃぞ、ユーフィリル」


「申し訳ありません。こちらは多忙なものでして……相変わらずお元気そうで何よりです。ザンネスさん」


 紅い装衣と白髭、そして白髪の老人へとひねくれた声色で言葉を返す。そしてその両左右には二人の人間が。若い男性と中年程の女性、ここは世界の舵を取る四柱の集いだ。


「私は遅刻どころか来れないと思ってたんだだけどねぇ。どうなのかしらぁ?ユーフィリル」


「仰ってる意味を理解しかねますね。茜(あかね)さんは目が不自由なのですか?それとも頭を使いすぎて疲れているのですか?」


 天上(てんじょう) 茜(あかね)、もう一人の女性の政権だ。口を開けば嫌味ったらしく、口喧嘩も弱いくせに一々突っかかってくる嫌な人間、それがユーリの抱く印象だ。


「ケーニスメイジャーは滅ぶ未来だ。なぜ今日ここにのうのうと顔を出せるのか……茜はそれを聞いているんだ」


「オニキスさんも変わったことを仰いますね。私が何かをしたとでも?私ではなく、その未来生体路線図(ダイアグラム)が間違っていたのでは?」


 オニキス・フェイ・レインドット。若い男性政権である。数年前に先代からオニキスへと政権が代替わりし、若くして他の政権に負けない鋭い政治の手腕を持つ。


「とぼけても無駄じゃ。やましい事があるからシュノールを消したんじゃろう」


「シュノール?はて……?あぁ、人の庭で分もわきまえずバサバサバサバサと……確かに耳障りなハトは見たかもしれませんね」


「……ユーフィリル・ニーライア、貴様の持つ政権の権能を返上せい。拒否権はないぞ……茜もオニキスも同意済みじゃ」


「何を伝書鳩一匹で怒っているのですか。ザンネスさんこそ、そろそろお体が心配なので降りたらどうですか?老人は変化について行くのが辛いでしょう」


「ユーフィリル!!」


 圧のあるザンネスの一声に静寂が続く。だがそれでもユーリの表情が変わることは無い。それぞれの政権がハッキリとした言葉を使わずとも言いたいことを理解していた。滅亡するはずだった国の頭首がなぜここにいるのかと。


「貴様は触れてはならない禁忌に触れたのじゃ。言い逃れはさせんぞ小童が……」


「証拠不十分、世界の舵を取るお方がそんな子供みたいに駄々をこねないでください」


「証拠なら未来生体路線図(ダイアグラム)があるじゃろう。貴様の国は滅亡していない……記された未来に今はない!!何をしたのじゃ!!」


「忘れっぽいんですか。先程オニキスさんに言ったじゃないですか」


 そこへオニキスが。


「間違っているのは未来生体路線図(ダイアグラム)ではない。貴様だ……異端国の政権」


「何を証拠にそんなことを言われる筋合いがあるのか……今回の会議は不毛ですね。私は眺めるだけ(・・・・・)のあなた方とは違って忙しいので、失礼しても?」


「世界を路頭に迷わせる気か」


 背中に受けたオニキスの言葉にユーフィリルは足を止めた。決定的な未来改変の証拠は掴まれてはいない。そう確信したが故に返す言葉はひとつ。世界の舵を取るべき者など必要ないと。


「滅亡へと舵を取る方々と比べるならば、私は路頭に迷わせて自由な選択を与えますかね」


「貴様のしている事は無駄な足掻きじゃ。未来生体路線図(ダイアグラム)から見れば貴様の起こした改変など小さきものよ。どれだけ道が外れようと、変わらぬ結末へと収束するのじゃから」


「老い先短い方は無責任で良いですね。では本当にこれで」


 床もないはずの蒼天の領域から転送して帰還した。螺旋状に下へと連なる階段、そして時計の足場。刻一刻と時を刻む音にユーリは息を吐く。


「はぁぁぁぁぁぁ……緊張したぁ……」


 優雅に立ち振る舞ってはいても、正直な事を言えばかなり焦っていた。未来改変の証拠が漏れていれば問答無用で消されていた。戦争という対談も取れぬまま、討論の余地もなく権能を取り上げられていただろう。


「お疲れ様ぁ」


「桜……」


 螺旋階段を登る桜の姿が見える。その手には襟首を掴んだまま引きずる死体。逆の手の脇にはちぎれた二本の足、相も変わらずありのままを運ぶ少女に引きつった顔を返す他ない。


「グロいもの見せないでよ……」


「死体は電子化出来ないししょうがないじゃないですかぁ……私だって嫌ですよ。よいしょっ……持てないからカバンに生く――」


「言わなくて良いです」


「はーい」


 四つになった伝書鳩を手元に、ユーフィリルは桜へと感謝の言葉を返す。ケーニスメイジャーへと情報という血を流すパイプライン、レーヴァテイン所属の結髪(ゆいがみ) 桜(さくら)へと。


「ありがとうございます。おかげで一つ目の壁を超えることが出来ました」


「……うん。でも……今度からはこういう事はしたくないかなぁ」


「嫌なことを押し付けてしまいましたね……本当にすいません。お詫びとは言ってはなんですが、今度神谷君と二人で出かける機会を用意しましょうか?」


「……別に大丈夫。私は見てるだけで良いんだ〜 ほら、女たらしでライバル多いし、私なんかより可愛い子も沢山周りにいる――」


 向き合う形で位置取っていたユーリは、スワイプして可視化映像を両者が見える間に置いた。そこにはケーニスメイジャー全土に広がる監視映像が。シュノールと桜の戦闘の光景が広がる。


「……このシーンなんですが、敵の射出した白刃を避けるよりも弾いた方が一手早く仕留められました」


「……うざいなぁ!帰る!!」


「流石は情報屋ですね。彼の好きな女性の部位を知っていて守るとは……弾くだけでは被弾する可能性もゼロではありませんものね」


「うるさい!」


 立ち去る少女の背中を見送りながら心に誓う。未だ人類の陰謀と欲望が渦巻くこの世界、身を削り戦ってくれる者達へといつしかその先に滅亡を回避した平穏な世界を返したいと。奪いたくもない命を奪えと、救いたいなら世界を敵に回せと、酷な選択を力ある者へと強制した対価はいつか支払う覚悟だ。


「……未来生体路線図(ダイアグラム)に気付かれる前に……一刻も早く計画を進めなければ――」


 滅亡までの時間が少ないことを知っていた。数年前から未来生体路線図(ダイアグラム)の精度が上がっているのだ。それは直結者が関係しており、従来ならば直結者は未来生体路線図(ダイアグラム)の記す未来には映されなかった。


 だが今は違う。どういう理屈か直結者も非直結者も、呪いのような道標へとその事象が刻まれる事になってしまった。ユーフィリルは確信しているのだ。


 人類を補完するためのシステムは今も尚、変化に合わせて進化(アップデート)を繰り返していることを。

次話より第二章になります。投稿の期間が空いておりましたが、二章の投稿もやや遅れるかと思います……書き終えていますが読み直しが出来ていません(^^;


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ではまた次章の後書きでノシ

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