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電創世界と未来の調律者  作者: 四葉飯
一章 下幕
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91話 死の花言葉

 シャドウ研究会に属する一人の男性はシュノールという名を持つ。所属組織はユーリとは違う政権が保有していた。長らくその身をケーニスメイシャーに置き、数々の丸秘情報を記憶に所持している存在でもあった。


 アトックの遠征訓練の際にはシャーネスへと接触、ほんの少し前には神谷とも接触した。数々の暗躍によりおおよそ目星の付いたケーニスメイシャーの丸秘、そのひとつを観測するために覗くは倍率の高めたレンズ。


「あはははははははっ!!!凄いよ!!凄すぎるよ神谷君!!」


 遥か上空の屋上から双眼鏡で遠方を見るシュノールは転びそうな程に笑った。政権ザンネス・フィーリル、彼から預かった未来の情報では今日ケーニスメイシャーは滅ぶはずだった。否、他の政権によってそう未来を運ぶよう政略が敷かれていたはずなのだ。


「メーバーを使って他の国まで巻き込むつもりかと思ったけど……!あはははははははっ!!!規格外!!女神様かよ!!これじゃあ女神様が死んだかどうかなんて最早調査の意味もない!!うっひゃーおったまげー」


 倍率の高めた視界の先に映るは消えるはずだった武の頂点とメーバーの除去。あくまでケーニスメイシャーがひた隠す女神のカードを切らせるのが目的だった。死んでいるのか、生きているのか、それをはっきりさせたかったのだ。


「さて……当初の予定とは違ったけど、国際法違反の瞬間と未来改変の証拠はバッチリだし、帰るかぁ」


「こんばんはぁ」


「ん……?」


 振り返った先に一人の少女が。肩ほどまで伸びた栗色の髪の上にはベレー帽、丸みのある肩掛けのバック、素足をさらけ出したショートパンツ、帽子の鍔を少し上に上げた少女の瞳と視線が交わった。


「君は郵便屋の……結神(ゆいがみ) (さくら)じゃないか。僕に何かお届け物かい?嬉しいねぇ!それとも情報交換?いいよぉ〜!情報屋同士はこういう機会があるものだよねぇ!!」


「いえ……お届け物に参りました」


 彼女の手に小さな白き一輪の花が。スノードロップという名を持つ花は儚げに地へと落とされ、粋な演出にシュノールは引きつった笑みを浮かべる。遠慮気味でも物騒な花言葉を瞬時に理解したのだ。


「……おかしいなぁ?君は非戦闘員だと聞いていたんだけど」


「好きではないですかねぇ……?えへへ、なんか恥ずかしい事しちゃったぁ」


「受取人は不在だったと伝えてくれるかな!!」


「お届けしてみせましょう、どこまでも――」


 両者共々に異能が煌めく。シュノールは蒼白の銃剣を、少女は蒼白の履物(ブーツ)を。射出した異能の白刃が音速で飛来するも、卓越した足さばきと柔軟な少女の体が刃を落とす見事な上段蹴りを実現させる。


「いやいやいやいや!!どこ走ってんの!?」


「空です」


「見たら分かるわ!」


 蒼白の粒子を垂れ流しながら敵対者は立体的に駆け抜けていく。見えない地面という概念を生み出す異能、それを追いながら幾度か白刃を射出するも異変に気が付いた。それは粒子の蔓延速度と異常性。少女の移動速度が徐々に人間の域を超えていっているのだ。


「はっや……!」


「えい」


 残像が残る程の瞬足に一瞬その姿を見失った。だが直結命令(ダイレクトリンク)による生存本能が背後へと危険信号を感知する。身を捻りながら前へと飛び退いた。上空から縦に身を回し、叩きつけるようなかかと落としが。その一撃は戦場であるビルを崩落させた。


「えいの威力じゃないだろおおおおお!!」


「都合の良い事に住民の避難は終わってますからね〜 あなたも見てたでしょうし、理由は分かると思いますけど」


 轟音と砂煙を立てながら崩落するビル、その瓦礫を渡るようにシュノールは動く。だが異能の履物(ブーツ)を纏う少女からは更なる追撃が。旋回するように空を走りながら一定の距離を保ち、一度、二度、三度と、終わりなき瓦礫の弾丸を蹴飛ばす。


「普通に戦闘民族……!こんなの僕のジャンルじゃない!やってられるか――」


「受取拒否は困ります」


 瓦礫と瓦礫を飛び交い、蹴飛ばされたコンクリートの塊を避けながら異能を振るう。空間を切り裂いて裏へと逃亡を図ったシュノールだったが、突如として潜るように視界から消えた少女を最後に、肋から嫌な音と強い衝撃が鳴り響いた。


 瞬足の慣性を上乗せした蹴りが死角から腹部へとめり込んだのだ。突き刺すような蹴撃によって右肋は全損し、耐え難い激痛と共にありえない勢いで地面へと体が向かう。


(がっ……は…っ!息も……できなっ――)


 激痛の最中でも直結の恩恵が正確な死を感じさせる。瞬足によって詰め寄る、今まさに振り落とされんとする前宙からのかかと落とし。即座に銃剣を防御に回すも読み違えた様だった。僅かに自身の目の前、少女はそこに空間の亀裂を生み出して裏の世界へと行った。


「……まさか!」


 落下しながら背後を見る。そこには俊足による移動によって落下先へと先回りした少女が。まるで見えない階段でもあるかのように、助走をつけながら両者の距離が再び急速に接近していく。


「く……っ!」


「あ……足は傷つけないでください」


 自慢の足を切り落とすために射出した白刃、だが少女は見えない壁を蹴りあげて身を回した。すれ違いざまに再度脇腹へと激痛が走る。創術も使えない今、シュノールにとって空中戦はあまりにも分が悪いと言えた。


 何よりも厄介なのは動きだ。地を這うような躰道の動き、それをこの少女は空中で立体的に行うのだ。威力もさることながら、どれだけ直結命令(ダイレクトリンク)の思考加速があれど死角から伸びる攻撃は見えない。


「がっ……は!」


「まだ落としませんよ」


 落下していたはずの体が今度は真横に吹き飛ぶ。ビルの壁を突き破り、反対の壁すらも吹き飛ばしてその身が上空で放物線を描き始めていく。真横の慣性から再び落下へと切り替わる瞬間、朦朧とする意識の中でひとつの噂を思い出した。


「そう……かぁ…………君は……政権の――」


「えーいっ」


 声も出せないほどの衝撃がみぞおちへと走る。まるで階段を転げ落ちるような助走を持ってしてかかと落としを受けたのだ。腹部の電子データが一部欠損し、今にも閉じてしまいそうな視界の先にまたもや空間の亀裂が映る。


(あぁ……一本取られたねぇ…………ただの郵便屋だと思っていたの――)


 背骨が曲がってはいけない方向へくの字に折れ曲がった。落下地点に待ち構えていた少女の上段回し蹴り、そして落下の相対速度も相まって威力が上昇していた。それでもなお、テイルニアだからこそ即死ではなかったのも事実。


「信号経路折れちゃいましたねぇ。もしもーし?まだ生きてます?」


「がはっ……!げほっ……野蛮……だねぇ……」


「ケーニスメイシャーの罪なき一般人を大量虐殺したのはあなたですか?」


「……何を……言っている……?がはっ!!」


 折れた肋を踏み砕く勢いで地面へと押し付けられた。その先には少し困った様子で顔を覗き込む少女が。


「私いつも圧のかけ方が下手くそって言われるんですよねぇ……んー…………えい」


「がはっ!!や、やめろ……勝敗は決まっただろう……?殺すなら殺せ……!痛ぶる……なっ!」


「ですから……大量虐殺したのはあなたですよね?」


「ち、違う!それは……お前らケーニス……メイジャーが……」


 頬を踏まれて首から変な音が出た。眼球を動かせど異能の靴底しか見えず、拒絶反応によって自らの足が太ももから引きちぎれていった。情けない悲鳴をあげることしか出来ず、視界が開けたと思えば再び胸を踏みつけられたのだった。


「大量虐殺したのはあなたです。それから……なんだっけ?えぇっと、どうせ死ぬので記憶データの確認だけさせて貰いますね」


「やめ……ろ……!俺の記憶は……!財宝の山……だぞ……!そうだ……!俺を見逃せ……!見逃がすならば……今後とも情報を提供――」


「――大半は未来生体路線図(ダイアグラム)の範疇にある情報ですよね?既に分かっている事の情報なんか価値はないんですよ」


「やはり……お前は……ユーフィリルの……使いか…………噂で聞いたんだ…………一個人にも関わらず……未来生体路線図(ダイアグラム)……の情報を……定期的に知らされている存在が……いると…………」


 絶え絶えに言葉を絞り出しながらも、頭部へと宛てがわれた抽出機に唇を噛み締めた。国さえもゆすれるほどのデータの山、機密情報の全てがたった一瞬で奪われる絶望に異能が黒く濁り始めていく。


「……これからは未来生体路線図(ダイアグラム)が役に立たない時代が来ます。一時的に世界は荒れるかも知れませんが……一足先にあなたは退場してください」


「……くそ…………が」


「郵便屋のご利用、ありがとうございました」


 首を踏み潰すような一撃と共に、シュノールという個体は終わりを迎えた。何かを知りすぎた人間は、どれだけ強くあろうとより強き者によって消される運命だ。そしてまた、その宿命を少女も知っている。


 少女はいつどこで死ぬのか、それすらも選べない事を知っている。死に場所を選べないからこそ、彼女は今日も自らの足を急がせるのだ。少しでも早く、仲間を助ける材料を運ぶために。

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