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電創世界と未来の調律者  作者: 四葉飯
一章 下幕
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90話 再臨の予兆

 フィネアと似ている、そう捨て台詞を残していったアークへと呆然としていた。神谷にとってアークは恩師の仇であり、憎むべき相手にも関わらずその言葉は僅かながらに嬉しいという感情を産む。


(俺とフィネアが……?)


「それにしても……本当におふたりとも大したものです。国を……いえ世界を救ってくれたこと、政権として礼を申し上げます」


 深々と頭を下げる政権へと神谷は視線を落とす。異能を解除し、神谷は改めて自国の政権の覚悟に気が付いた。メーバーの撤去作業、それは言わば地雷の撤去と類似しており、いつ起爆してもおかしくない状況だった。


「詳しいことは未だに分からないが、あんたは久莉穹の概念化を止めた今なら、もっと安全な位置から観測出来たはずだった。なのに間近で見届けたのは……そういうことだろ」


「……こうも見透かされては恥ずかしいね」


「二ーライア卿、それはキョウの土俵だ。諦めた方が良い」


「……ありがとうございました。神谷君」


「こちらこそ」


 互いに差し出した手のひらが結ばれる。そして神谷の視界へと一通の文字が。政権へと通じる通話のライセンスの取得を意味するものが書かれていた。それを取得した後にユーリが。


「人の想いに関してはある程度の広い解釈を持っていますが、ヒジリ……あなたは一体何を?」


「CPUへの侵入方法はいくつかあるから省くとして、擬似信号を作成して彼女のCPUに仮想の人格を認識させたんだ。直結して脳信号が通わない今、CPUはただの入れ物でオフラインになっていたからね」


「あなた今とんでもない事を口にしている自覚はありますか?人の思考を作ったと言うのですか?」


「一瞬だけさ。創術演算に携わる部分へと一瞬だけ干渉すれば反応したメーバーを逆探知できる。後は神谷が切り離してくれた諸悪を引っ張り出すだけ。とは言え、かなり精密な仕事で少しくたびれたよ」


 そんなヒジリに神谷が。

 

「ならこれをやるよ」


「……チョコレートかい」


「海白がくれたやつだ。頭の疲労には糖分が良いらしい」


 投げ渡したチョコレート、真面目な顔つきだった二人は同時に笑みを零し、互いに腕をぶつけて任務成功の合図を上げた。神谷とヒジリ、レーヴァテインのこの二人なしでは到底達成し得ない任務だった。


 だがどこかその笑みは両者共に不完全で、言葉にせずとも完璧な結果ではなかったことを悔やんでいた。想定していた以上に犠牲者が出てしまったと、問題の根底にある物は解決しても、手放しで喜ぶわけにいかないと神谷は己を律する。


「二人とも本当にお見事でした」


「ニーライア卿、仕事は一区切り着いたんだ。素に戻らないのかい?」


 そこへ神谷が。


「素?」


「いやぁ〜ほんっっっっっとうに凄いよ二人とも!アークに見られちゃったのは残念だけど……仕方ないよね」


「誰だお前」


「ユーフィリルだよ。ほら、政権って何かと重圧のある役職でさ……仕事モードというか、敬語を使う時はそういう感じの時」


 立っている所しか見た事がない程に多忙な人間、それがユーフィリル・二ーライアへと抱いている神谷の印象だ。だがそれが今はどうだろう。服を気遣う清楚さはあれど、地べたへと座って第一星を見る姿は新鮮そのものだった。


「キョウ、君は透明化した後どうなっていたんだい?」


「……」


 実に当たり前なヒジリの疑問に神谷は少し間を開けた。正確にはなんと返せば良いのかが分からないのだ。自分でも理解ができない、それに加えてあの花園と巨木の場所へと行く間際に残された政権の言葉が引っかかる。


(誰にも話すなと言っていた……その真意はなんだろうか。直接聞いてもまともな答えが帰ってくる気がしないな)


「キョウ?」


「実はよく覚えてないんだ。何かをしていた気はする……何かに飲み込まれそうになっていた久莉穹を――」


 言葉を言い切る前に突如として背中を強く引っ張られた。だがどこか悪意のないイタズラのような力加減。否、振り向くよりも先にその行為にどこか怒りをぶつけられていると感じた。


「……?」


「神谷」


「起きたのか……!無事か?どこか痛んだり、怪我はないか?久莉穹が無事――」


「――神谷、久莉穹っていうのは私の苗字であって血筋全員に通用する名称なの」


「……?」


「奏、そう呼んで」


 きっと久莉穹は背後にいる般若のような燐に気付いていない。それが見えているのはヒジリと神谷だけだ。いや、背後でクスクスと笑いを抑えている政権には見えずとも分かっているのかも知れない。


「……奏。無事で良かったよ」


「ん……その…あ、ありがとう。なんだか心がとても軽くなった気分よ。あんたもその……こ、困ったことあれば頼りなさい!そ、その……と、友達なんだから」


「ボスぅぅぅ!!私だって友達だよぉぉ!!」


「分かってるわよ」


「……何かあれば相談するよ」


 そしてふと背中越しの政権と目が合った。ムカつくタイプの笑みを浮かべている。音があるならばニヨニヨと言った様子だろうか。


「モテモテだね、神谷君」


「違う」


「神谷は……私の…………譲らない」


「シルフィー……お前まで悪ノリするな」


 そこでヒジリが手のひらを二回叩いて空気を両断した。無事に皆が生還したとはいえ問題は山積みなのだ。第一に口にしたのは浅霧だった。


「大団円なところ悪いですが……紅月 燐は流石にお咎めなしでは示しがつきませんよ。ユーリ様」


「んー?どーしよっかなぁ……あ、そうだ、!紅月さん」


「は、はい……?」


「実は新しい直下部隊を作ろうと思ってるんだ。既にいくつか自由に動かせる部隊は持っているんだけど……決定打となる部隊が欲しい」


 政権の直下部隊、厳密に言えばレーヴァテインもこれに当てはまる。だが直接的な司令がヒジリに行くわけではなく、互いが互いの謀略を利用しあう関係がある。奇跡的なバランスと手腕があって成り立つものだ。


「私を司令官に置いて、指示があれば迅速に動ける少数精鋭……私の剣となる部隊がね」


「……よく分かりませんけど、そこに私を?」


「そう。でもあなただけじゃない。奏も入ってくれるよね?せっかく仲良しになれたんだし」


「えぇ……?でも私はシリウスに……」


「いやいや!ボス!?私だって所属してる部隊あるからね!?」


 政権が。


「私を誰だと思ってるのかな?ちょちょいのちょいだよ、そんなの」


 まごうことなく、それでいて最大限の職権乱用である。だが神谷はあえて何も言わなかった。それ以上にその先の目論見が気になると言える、


「そうだなぁ……隊員は七人(・・)かな」


「「っ!」」


 政権の意図を汲み取った神谷も、燐と奏と同じく驚いた顔を浮かべた。世界最高峰、すなわち頂点となる七星と同じ数なのだ。もし仮にその予想が真実ならば武力としては過剰とも言える。そこで神谷が。


「流石にやりすぎじゃないか?それに、学園の象徴とも言える天剣全員を引っこ抜くなんて……それぞれの所属部隊だって黙っちゃいないぞ」


「先を見る癖がある、神谷君のそういう現場慣れしてるところは本当にやりやすいね。だから今はとりあえず二人、どう?来てくれるなら紅月さんの犯した大量虐殺はついで(・・・)に処理しとくけど」


 そこへとヒジリが。


「タチの悪い誘導尋問だね。それから手紙(・・)を届けられる人が不憫でならないよ」


「私としては天剣が錆びてしまうのは惜しい。剣は時が来てから研いでは遅いんだ」


 奏が。


「学校は……学校は行かせてくれるんですか」


「んー、自由にしても良いけど……直結者はやめといた方が良いかな。ね?神谷君」


「……同感だ。それに学校に行くようならレーヴァテインが阻止する。普通に死ぬぞ……あそこ」


 奏と燐は顔を見合わせて悩んだ後、少し考える時間を貰いこの話は止まった。だが二人の選ぶ答えは神谷にもなんとなく見える。だからこそ政権は満足気な表情していたのだと察する。


「ユーリ様、アーク以外に目撃者はいますか?必要であれば私が」


「二人……一人はレーヴァテインが囲ってる。もう一人は言った通りだよ。きっと今頃お届け物が到着の頃合じゃないかな?」


 薄暗くなり始めた空、ユーリに釣られて見上げた先にはうっすらと月がその存在を主張し始めていた。思いがけない出会いと繋がりがあり、面識の浅い面々といるにも関わらず、皆がこの時間を名残惜しそうに沈黙が流れた。


「…………時間は有限だ。名残惜しいがキョウ、僕達は僕達の後始末を再開しよう」


「あぁ……行こうシルフィー、それから……またな、奏と紅月」


「えぇ」

「ばいばーい!アハァ!」


 奏はいつも変わらぬ自宅へと、紅月はひとまずシリウスが逮捕したという名目でその身柄を深夜が預かる事となった。最後の最後まで神谷とシルフィーだけは皆をそれぞれ見送り、最後となった政権とすれ違う。


「……今回は未来生体路線図(ダイアグラム)の圧勝だったよ。気を付けてね――」


「…………もういないか。相変わらず立ち去り際に意味深なことを言いやがって」


 かつて窮地に追いやられたシルフィーを追った時と同じく、振り返った先には静けさしかない。政権の真意よりも、今は自らの異能の力に困惑していた。薄々と自分の異常性に気が付き始めたのだ。


 かつては神谷自身も未来生体路線図(ダイアグラム)は絶対不変のものだと信じていた。覆ることの無い数多の選択肢を提示する可能性の集合体。それに基づきヒジリが口にした絶対(・・)という前提を二度も覆した。


(俺の力は……一体――)


 シリウスがまだ小さな規模だった頃、部隊名も何も無い義賊のような時代の頃だ。力と正義の釣り合いを象徴とした天秤を掲げる意味合いが今、神谷自身も向き合う時が訪れようとしていたのだった。



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