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電創世界と未来の調律者  作者: 四葉飯
一章 上幕
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70話 変幻自在な九十九%と干渉の一未満

 世界を構築する媒体、その起源には二つの素粒子しかない。足場を構築する土やコンクリート、大気を形成する目に見えない媒体、人体を形作るデータ、そのどれもが例に漏れず起源となる粒子が存在する。


「電創粒子は……座学で私も習った事があるけど……」


「全ての媒体の起源となる粒子、それが電創粒子。だがこの世界にはどうしても電創粒子だけじゃ説明のつかない現象があると言われているんだ」


「……テイルニアじゃ未元物質も電創粒子に置き換える事が出来る……なんて聞いたこともあるけど……それとは違うってこと?」


「そういう事だな。ヒジリが言うにはテイルニアとは電創粒子そのものであり、一見不可解に思える現象も虚数を交えた計算結果だと言っていた。心想粒子とは……電創粒子(テイルニア)という基盤そのものへと寄り添うものだとも」


「寄り添う……?」


「俺もあいつの頭を覗かない限りは理解ができない。簡単に言えば異能神装(エスペランティア)は心想粒子で出来ていて、世界に触れる事が出来る……らしい」


 シルフィー、神谷共に自身の異能を見つめた後、続けて言う。


「科学者でさえも説明できない現象、それに起因するのは人の感情だと聞いたことがある。心、想い、それらを表情や態度と言う電創粒子に俺達は変換している訳だ。だから心想(・・)粒子と名付けられたそうだぞ」


「思考と感情は別……ってこと?」


「思考はあくまで自分の意思による脳信号だ。思考が内部で起こるものならば感情は逆、自身の意思とは関係なく外部からの干渉によって湧き上がるものだ。全部受け売りだけどな」


 話の最中でも神谷達は時空を切り裂き世界の裏側へと身を投じる。思考と感情、そこに大きな隔てがある事を神谷はヒジリから聞いていた。人間の感じる喜怒哀楽、それらが人体や世界に与える現象は電創粒子だけでは説明がつかないことを。


「話はここまでだな、行こう」


「ん……」


 再び星雲演武(ギャラクシア)の観客席へと帰ってきた神谷達の視界へと圧倒的な戦況を物語る跡地が飛び込んだ。筒状にせり上がった壁の上に位置する観客席、その殆どが崩壊しており、会場の中心には二人の人物がいた。


 担任であるノゾミとシャドウ研究会の討究者の一人マリカ。両者の距離はおおよそ十メートル程であり、神谷はすぐ様に空道鉤爪(スカイアンカー)を用いてその場へと飛んだ。


「先生!他の生徒達は?」


「見知らぬ兄妹が避難させてくれました。さて……マリカさん、こちらは増援も来ましたが年貢の納め時では?」


「んー?確かに分が悪いなぁ」


 態度と言葉があべこべなマリカに対し神谷が。


「言っておくが転送や自害による逃走はさせないぞ。そんな暇があるならお前の記憶を奪う」


「神谷君と精神干渉の創術は相性悪いし、まじでやばいか――」


 悠長な様子のマリカの右肩から先が消し飛んだ。切断という現象とは程遠く、まるで空間そのものを抉りとったかのような現象。神谷は知っている、入学した日に一度だけその技を見たことがあった。


「心が乱れてますよ?マリカさん。さっきまでは微塵も隙を見せていなかったのに……神谷君はそれ程脅威になり得るんですか?」


「……化物だねぇ」


 普段は緩い雰囲気のノゾミだが今はまるで違う。空間ごと刈り取ったマリカの右腕をゴミのように背後へと投げ捨て、一人の熟練された戦士の眼差しを向けていた。


「私の創術は時空に干渉します。あなたの放つ目に見えない電磁波ももうタネが割れてますし、観念して頂きますよ」


「自分の特質をばらすなんてそれこそ油断じゃないのぉ?ネタが分かればこっちだって対応できる訳だしぃ」


「……マリカ、お前はどこ(・・)に向かって話しかけてるんだ」


「え」


 神谷から見たマリカは無人の空間へと口を開いていた。否、本当につい先程まではそこにノゾミはいたのだ。直結命令(ダイレクトリンク)の恩恵を持つ神谷でさえも彼女の移動を目で追うことは困難であり、それを持たないマリカがノゾミを見失うことは必然だった。


「っ……!?」


 マリカの右足が今度は捩じ切れるように体から分離する。その現象を見てようやく神谷はノゾミの言葉の真の意味を理解した。彼女が言葉にはしなかった強者としての余裕、ネタが分かったところで理解には及ばないだろうと――


(時空を本当に捻じ曲げるなんてな)


 反撃の雷を放つマリカだが既にそこにノゾミはいない。AとBという二点には物理的な距離という空間が存在する。だが神谷の叩き出したノゾミの瞬間移動のからくりは極めて純粋で複雑だ。時間と空間、それらは切っても切り離せない関係であり、到底常人には理解が不可能な想像がそこにあった。


「やっばぁ……っ!こんなの相手にするなら……っ!まだ天剣の方がマシかもぉ…っ!」


「次は左を奪いますよ」


「相対性理論を軸に創術を組み立てるとか……っ!変態じゃん!やってらんない!」


「言っただろ?逃がさないってなっ!」


 ノゾミに意識を向けたマリカ、その僅かな思考の隙へと神谷が飛び込む。篭手をつけたまま彼女の首を掴み、勢いよく地面へと叩きつける。間髪入れずにノゾミの作り出した時空の捻れがマリカに残る二本の手足を引きちぎったのだった。


「か弱い女の子相手に容赦ないねぇ……」


「黙れ」


「言うほど強くありませんでしたね?一人では(・・・・)戦力にならないタイプの兵士ですか」


 神谷から見てもノゾミの有する強さは異常であり、傍から見れば此度の戦闘は彼女の言う通りに聞こえてしまうだろう。何せ彼女は時空という目に見えない媒体を手足のように扱う。


 距離という空間、例えどれだけ距離が開いていようが、紙切れのように空間をくしゃくしゃに丸めてしまえば距離はゼロになる。単身でノゾミはワープという空間移動を実現させていたのだ。


「先生、どうするこいつ」


「……少しばかり私用で取引がしたいんですよ」


 アトックから見ればいなくなったはずのシルフィーを少し見たノゾミだが、その顔に驚きや動揺はない。まるで神谷達の部隊を知っているかのような口振りと共に敵意が零れた。その矛先は神谷へと。


「見逃してくれとは言いません。ですが……邪魔をするなら神谷君達と言えど少し痛い目に合わせてしまう事になるかもしれません」


「神谷……先生多分……本気で……言ってる」


「内容を聞いてからだ。出来れば……あんたとは戦いたくない。色んな意味でな」


「当人を置いてけぼりにしないで欲しいなぁ」


 だるまのようになっても尚、マリカはどこかおどけた様子だった。ノゾミという強者もいる今、拘束しておく必要も無いと首から手を離す。そして彼女の言う取引が始まった。


「シャドウ研究会、あなた方の第一目標は収束期の回収ですよね?」


「……まぁそうだねぇ。それで?まさか手を引け、なんて要求を飲むと思ってるのぉ?」


「まさか。私の言う条件を満たすならば全面的に私はその計画に協力しても良いと考えています」


「おい!先生!!何言ってるんだ!!コイツらの考えていることなんてろくな事じゃないんだぞ!」


 突然のノゾミの提案に神谷が吠えるもノゾミはブレない姿勢のまま口を開く。


「私が戦う理由なんて娘のためだけです。そして言ったはずですよ。邪魔をするなら例え生徒であっても……私は戦います」


「っ……」


「へぇ……?せんせーの言う条件(・・)って何?」


「二つです。第一目標を達成した瞬間に学園から去ってください。そしてもう一つは……娘には一切の干渉を禁じます」


 禁じるとノゾミは言った。そこに感じたのは取引では無い一方的な要求だ。異論を認めない物言いにマリカの頬へと冷や汗が伝う。


「……私の一存じゃ決めらんない。リーダーと通話していい?」


「ええ。さて……神谷君、返答を待つ間にあなたの選択を聞かせてもらいましょうか」


 神谷にとってはその発言さえもこちらへと投げかけられた取引に相応しいものだった。両者共に差し出す賭け金は互いの命。手加減など不可能な相手と言えるためそれは必然。


「……取引になってないな先生。悪魔に魂を売ってでも娘を守ろうとする姿勢には感心するよ」


「娘のためなら悪魔さえも食らってみせますよ。で……どうしますか」


「あんたがマリカにだした要求から感じたのは二つだ。娘を守りたい、そしてもう一つ」


 緊迫した状況下でも神谷は僅かな情報を逃さない。一見余裕のある態度を見せるノゾミだが、あまりにも強引な取引のせいか一つの感情を隠せていない。それは焦り。一刻も早く事の顛末を収束させたい何かを感じ取っていた。


「早々にシャドウ研究会を追い出したいみたいだな。どうせ真意は複雑に多方面の事象が絡み合ってる……取引(・・)だ先生――」


 蒼白の篭手から瞬いた蒼白い光と共に異能の音叉が空を切る。決して人体へとその刃が触れたわけでもなく、それでいて確実に見えない何かへと干渉した神谷が驚いたノゾミへと力強い瞳をぶつけた。


「動けない……!?神谷君何を…っ!」


「あんたの娘は何があっても俺が守る。シャドウ研究会を追い出したい気持ちは俺も同じだ。だから……あんたもシャドウ研究会と戦え」


 CPUと脳細胞を繋ぐ不可視な媒体、体を動かす信号線のみを切断したが故にノゾミは動けずにいた。あえて強さとしての次元が違う異能を見せつけることで取引を半ば強引に推し進めて行く。


「同じ事を返すようであれですが……取引になってませんよ。従わせる事が可能な力を有しているならば、無理矢理言う事を聞かせてしまえば良いのですから」


「勘違いするなよ。これはあくまで愛娘を守れる力がある事を示しただけだ。どうする?悪魔に魂を売るか、俺と同じ船に乗るか」


「……だそうです。マリカさん、リーダーはなんと仰っていますか」


「はなっから私達が取引に応じるわけないって知ってた癖に聞かないでよねぇ」


 マリカの発言に呼応するかのように観客席から黒い稲妻が走った。その軌道はマリカの頭部を穿つものであり、思考加速の恩恵を持つ神谷がそこへと異能の音叉を重ねる。創術の雷と言えど元を辿れば電子データ、すなわち電創粒子であり、その破壊性質を持つ異能ならば打ち消すことは容易なはずだった。


(透過した……っ!?)


 まるで音叉と干渉を起こさないままマリカの頭部を貫いた黒い稲妻。その投影者である道化の創術者の制服が風で靡く。純白のブレザーを纏うクラヴィス・ミソアが。

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