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電創世界と未来の調律者  作者: 四葉飯
一章 上幕
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62話 友

 アトックの学園祭は一週間に渡って予定されており、初日は昼過ぎ頃まで各クラスの出し物や展示物で賑わう。足を運ぶ多くの外部者の目的の大部分は午後から始まる星雲演舞(ギャラクシア)だった。


「ボス〜、ギャラクシアの抽選何時から?」


「私は初っ端だし、確か十三(いち)時前くらいだったと思うけど」


 七名の天剣と在校生との模擬戦、観戦可能なエリアによって行われる星雲演舞(ギャラクシア)は毎年人気の行事だった。当然ながら現役第一星である奏はほぼ強制参加であり、紅月と共に賑やかな校内を歩きながらその旨を口にする。


 だが彼女にとってそんなものは関心の意中にはない。忙しなくすれ違う生徒達の顔ぶれを覗き込むように視線を動かす。その目的はただ一つ、知りたい答えを持っているであろう一人の男性を求めて。


「そんなに神谷君が気になるの?まぁなるよね〜?私の創術にも効果が薄いし、アハァっ!」


「それもそうなんだけど……とにかく、私は少し彼と話したいことがあるから少ししか付き合わないわよ」


 奏が燐と歩いていたのは一緒に来て欲しいと言われた出店があったからだ。空色の少女にとっては断りたい申し出ではあったが、友の頼みを無下にする事は出来ず今に至る。そうして校内を歩くこと数分、目的の場所を見つけた後の反応は彼女らで正反対のものだった。


「おかえりなさいませ、お嬢様!」


「可愛い〜!!ほら行こボス!」


「……」


 天剣の一星と四星を前にメイド姿の生徒のその顔がやや引き攣る。それでもなおプロ意識が接客態度を崩すことを辛うじて防いだ。そう、燐に連れてこられたのはメイド喫茶だった。


「私帰る」


「待ってよー!!良いじゃん〜、ボス!」


「私こういうキャッキャしたところ苦手だって前から言ってるじゃない!!なんで連れてきたの!?クラヴィスとかヴァリスの方が適任でしょ!」


「あいつらじゃダメだよ。分かってないねボスは〜!ほら!!」


「ちょ!?」


 半ば強引に手を引かれた奏は喫茶店を装う教室へと。それぞれの席がいくつかのグループへと固められ、複数人のメイドが構える室内は異世界のようだった。無論、奏にとってはという意味を含む。


「ご注文の品が決まりましたら近くの者をお呼びつけくださいお嬢様」


「はーい!ボスどれにする?」


「……なに…?このぴゅあぴゅあまじかるらぶライスって……それから…あちゅあちゅおうどん……馬鹿にしてる?」


「オムライスとかけうどんだね〜、あっ!後でチェキも撮ろう!私はこの『こなゆき☆おえかきオムライス』と『まんごーココア』にする!ボスは?」


 奇天烈な文字が立ち並ぶメニュー表を食い入るように見るも、奏にはそれらがどのような形を成した飲食物なのか意味不明だった。特に食べ物の欄は解読不可能であり、地雷を踏み抜かないため唯一馴染みのある商品を口にする。


「えっと、とりあえずカフェオレと……食べ物は燐と同じやつで……」


「おっけー、メイドさーん!!『こなゆき☆おえかきオムライス』二つと『まんごーココア』一つ!それからカフェオレー!」


 手馴れた様子でオーダーを済ませた燐と再び視線があった。どこか満足気でニコニコ顔であり、文句のひとつでも言ってやろうとした奏の口が止まる。時には息抜きも必要かと、慣れない環境を楽しむ努力を決意したのだ。


「みんな派手な服装してるから普段よりかは目立たないよね、学園祭の時って」


「そうね、ていうか普段から制服を特別仕様にしなければ良いのよ。嫌いだわ……こんな白いブレザー」


「私は特別感が出て好きだよ。皆の視線が一気に集まるの最っ高」


 奏は他者からの特別な眼差しが苦手だった。創術において人とは違う高さを得てしまったが故に、それは自身と他者を隔てる大きな壁のように感じてしまうのだ。肩を並べてくれる相手など期待もしない、ましてや自身の影の努力まで見据えてくれる者などいないとさえ思っていた。


 ただしそれはアトックへ来るまでは、という前置きがつく。天剣という特別な輪の中でさえも秀でた才能を育んだ奏だが、その中でも紅月だけは一際特別な存在だった。真逆の性格、真逆の感受性、対極に位置しても彼女は親友と呼べるに値する。


「あなたは目立ちたがり屋だものね。なんだか最近は創術の作用も強力になってきてるし」


「……まぁね。でもどれだけ頑張ってもさ、振り向いて欲しい人は私を見てくれないんだよね〜」


 奏は一年生の頃に天剣という座に着いており、学園創業以来、異例と言える過去最速の実績を持つ。母親の言葉を信じ、ここならば全力をぶつけさせてくれる相手がいると過信した結果とも言える。


 その末に残ったものは天剣第一星という呪いと他者から送られる畏怖と尊敬の眼差し。片っ端から模擬戦を挑み続けた過去の奏はとにかく目立っていたのだ。挑戦状と共に挫折と屈辱を対戦相手へと刻み付け、自身をより孤独へと加速させた。


「ちゃんと見てるわよ。あなたは十分凄いし……強いわ。私が保証する」


「んー、違うんだけどなぁ……ほんと鈍い」


「なんて?」


「なんでもないよ!ほら料理来た!」


 燐の言うように頼んでいた料理がテーブルへと並べられた。特筆すべきことない普通のオムライスには粉チーズが振りかけられており、奏にとって目を奪われたのはドリンクの方だった。彼女は甘党である。出てきたものはどう見ても甘味料が一切入っていないブラックコーヒーだったのだから。


「り、燐……!わ、私苦いのは…っ!」


「お嬢様、こちらのドリンクは美味しくなる魔法をかけてようやく完成するんですよ」


「ま、魔法……?」


 配膳役のメイドが漆黒の液体に続いて二つの媒体をテーブルへ。ミルクとシロップだ。それらに安堵の表情を浮かべるも、ふと気が付いた燐の意地悪い笑みに問いを投げる。


「何笑ってるのよ」


「んー?なんでも〜?」


「お嬢様、ミルクはお好みに合わせてご使用ください。お先にシロップを混ぜさせて頂きますが……美味しくなる魔法にご協力を!」


「え」


 続くは悪魔のような儀式。


「私がシロップを投入させていただきますので、止めたい量まで投入したところで『にゃんにゃん♡』と仰ってください!では行きま――」


「待って待って!なんて……?」


「ですから、『にゃんにゃん♡』と言って――」


「頭悪いの?馬鹿なの?やるわけないでしょ!?」


「ですが当店のルールですので……言ってくれないと零れても永遠に入れ続ける事になってしまいますが……」


「はぁぁぁ!?ちょっと!!燐もなんとか言ってやってよ!!頭おかしいわこの店!!」


「早く早くー」


 味方はいなかった。ニヤニヤした様子と共に両手の親指と人差し指でフレームを組み立てた燐が。撮るな、そんな事を口走る暇もなく悪魔のメイドが動く。


「美味しくな〜れ!」


「うそうそ……!」


 天剣第一星とは凛々しく気高い存在である。それは一般生徒から見た彼女への認識だ。そんな存在が今『にゃんにゃん♡』など言うわけない。否、言って欲しいとさえ願う周りの視線がそこへと集った。


(やばいやばい……!これ以上入ったら流石の私でも甘すぎる事態に……)


「お嬢様?このままではシロップにコーヒーを入れた感じになってしまわれますよ?」


 メイドの追い討ちのような言葉に奏は覚悟を決めた。恥じらいを隠すように両手はスカートの裾を握りしめ、行き場のない羞恥心を誤魔化すように強く足を閉じる。そしてか細く、弱々しい声で――


「にゃ、にゃんにゃん……」


「……」


「ちょっと!?言ったじゃない!!なんで止めないの!!ねぇ!!」


「ボス〜、にゃんにゃんだけじゃダメだよ。猫は猫らしく手振りもしてあげないと」


「はぁ!?」


 最早怒りにも近い感情で叫ぶも、視界の端にメニュー表の一部が映る。ふざけた猫耳美少女のイラストと共に、おまじないの解除にはポーズと共に『にゃんにゃん♡』と言ってねと。


「お嬢様?そろそろ溢れてしまいます……っ」


「うぅぅぅぅぅ……!」


 最早溢れてしまいそうな甘味の塊を止める手立ては己しかない。そこに支払う対価は羞恥心とプライド。零れてしまえば後片付けに困るのはメイド達にも関わらず、どこか常識的で、押し付けられた固定観念に思考低速化を引き起こしたのだった。


「にゃ、にゃんにゃん……っ」


 全ての指を丸め、顔の左右にて高さ違いに猫の手を添えた奏が言い切った。突き抜ける恥ずかしさが空を飛び越え星天の領域へと。顔は火照り、湯気が出てしまいそうな程に真紅色に全てが染まりゆく。


「ギャンかわ……っ!尊い、無理」


「燐……!なんなのここっ!」


 今にも泣き出してしまいそうな顔で、いや少し涙を溜めた奏が噛み付く。だが羞恥心に蝕まれたそれは最早甘噛みにも等しい。満足気な顔でキッチンへと撤収するメイドを尻目に、第一星は件の甘味を口に運んだのだった。


「どう、味は」


「……甘い」


「学園祭楽しいなぁ〜!ほらメイドさん帰ってきた!次はお絵描きしよ!」


 カフェオレの一件で既にキャパオーバー寸前だった奏は、燐の言葉に目の前のオムライスへと視線を落とす。未だに熱い顔、逃げ場を失ったかのように貧乏ゆすりを続ける足。それでもメイドが止まることはない。


「このオムライスはこの特濃デミグラスソースを使って好きに絵を書かせて頂きます!何かリクエストはございますか?」


「せっかくだし〜?ボス!私のとおそろのやつにしていい?」


「もう好きにして……恥ずかしすぎて今すぐ消えたいの……」


「はーい!えっとね……」


 こちらには聞こえない小さな声で耳打ちをした燐。そのやり取りに首を傾げた奏だったが、手馴れた動きで細いソースをペンに見立てたメイドがオムライスへと形作る。燐と奏、両者の顔を交互に覗き込みながら。


「これ……私と燐?」


「上手いねメイドさーん!アハァ!可愛い!」


 二人のオムライスは二つで一つの作品となった。それぞれの似顔絵をデフォルメしたむにむにとしたものが。燐のオムライスには奏の照れくさそうなちびキャラが、対して奏には特徴的な八重歯を見せて笑う燐の顔が。


「なんか二つ並べてたらハートの形が見えるし、仲良し!!って文字も見えるけど……これ食べる時分離するわよね?」


「顔くっつけて食べたらいいじゃん」


「食べづらいわよ!……色んな意味で」


 ハートの形の枠が二つのお皿とオムライスへとかかり、それぞれ『仲』と『良!!』の文字がある。『仲』の下には燐の顔が、『良!!』には奏が。芸術的な意味合いでも崩すことが惜しいと奏は言ったのだ。


 だがその奥底には決して口には出せない想いもあった。食べることで当然ながらその作品は形を崩す。まるで燐と己の関係を壊されてしまうかのような複雑な気持ちがそこにはあるのだ。例えそんな事が現実に反映される事はないとわかっていながら。

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