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電創世界と未来の調律者  作者: 四葉飯
一章 上幕
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55話 天剣と都市伝説

一話抜けてました

 男性であるにも関わらず自然な女性の声色を披露してみせた神谷は、一時的にイチノブイロク内を騒然とさせたが落ち着きを取り戻した頃に目的の人物へと歩み寄った。自然と顔が向き合うも、視線の先の楓は照れくさそうに目を逸らす。


「どうした?」


「い、いや……神谷君凄く女装クオリティが高いなぁって、本物の女の人みたい」


「一ミリも嬉しくない。それよりも福雅、少し世間話でもどうだ」


「どうしたの?藪から棒に……」


「入学式の頃に天剣について聞いただろ?ここに来てからあの人達の凄さを知って、同時に自分がどれだけアトックに対して無知かを最近自覚し始めたんだ」


 神谷は桜から仕入れた情報から楓が任務のきっかけとなる事を知っている。シルフィーの時と違い注視しておく候補がはっきりしている今、持ちうる観察眼と話術を注ぎ込む事が可能と言えた。


「天剣を知らない事には驚いたよ。僕もいつかあの人達みたいになりたいなぁ……」


「努力すれば追いつけるさ。福雅はあるのか?自分だけの想像、他人には真似できない特質の課題は」


「あはは……実はアトックに来る前からずっと悩んでるんだ。自分だけの想像領域、それはまだ見つかってないけど……まずは基礎特質を自由自在に使えるようにならないとね!」


「そうか……失礼だが等級は?アドバイスできる立場じゃない荒涼級が相手で申し訳ないが」


「え?荒涼級……?嘘でしょ?」


 気を使った様子の楓は耳打ちするような小さな声で言った。ここに来てから様々な人物を通じて神谷の持つ認識は固まったと言える。アトックに入学する者は創術に特別な誇りと意地を持ち合わせているのだと。


「本当だよ、おかけでクラスメイトの一部からは敬遠されててな……福雅は話しやすいし、迷惑じゃなければ学園祭を一緒に回ったりしないか?」


「嬉しいなぁ、でもごめん……実は上級生に幼馴染の先輩がいて、そっちに先に誘われてるんだ」


「……へぇ?」


 神谷の申し出は当人とっては本当に嬉しいものだったのだろう。だが神谷は福雅の浮かべた顔から他の情報を掴んでしまった。少し恥ずかしそうに、それでいて嬉しさを抑えきれない口角、それが示すものは一つ。


「好きなんだ?その人のこと」


「うぇ!?い、いいいいいいや!ぼぼぼぼぼぼぼぼぼ僕なんかがそんな感情を持ち合わせるなんて……あの、その……そ、そんなに分かりやすいかな……?僕……」


(正直顔に書いてあるレベルだぞ……多分クソ鈍いあいつでも分かっただろうし)


 神谷の言うあいつ(・・・)とは仲間の一人を指す。ここ最近は姿も連絡も寄越さない音信不通の人物であり、そして同時にレーヴァテインの中で最も長い付き合いのある友だった。所属部隊へとレーヴァテインの名がついた頃の初期メンバーでもある。


「まぁ……それが福雅の良い所として人物像に反映されてるんじゃないか?意中の相手ならまだしも、俺や他の友達にバレて恥ずかしくなるのも青春の一環だろ」


「……なんか、神谷君って大人びてるね」


「まぁ、今年で二十二歳だしな」


「……僕はさ、見ての通り男らしくないだろ?コンプレックスなんだ。背も高くないし、声も中性みたいな感じだし、今みたいに女装したら女の子と間違われる位なんだ。そんな見た目に相応しくあるようになのかな、創術も第一級から伸び悩んでるんだ」


 創術等級の第一級とは上から四つ目の階級を指す。七つの階級区分の中で凡人としての境界線を示すものであり、楓のトーンからもその心象を汲み取るに苦労はしなかった。


 何故ならば神谷もその無力感を知っていたから。星天、蒼天、霊峰、一級、二級、三級、そして荒涼。己の存在価値をそんな文字によって左右されてきた地獄の中で神谷は生きてきたのだから。


「気持ちは分かる。だがどうして強さにこだわる?」


「守られるだけの存在じゃ嫌なんだ。後ろじゃない、隣を……ううん、前に出て好きな人を守れる存在になりたい。なんて……えへへ、身の程を弁えろって言われちゃうよね」


 ここで神谷は桜から受け取った情報に特別な意味を感じ取った。福雅 楓という人物はまるで過去の自分のようであると認識したのだ。上を見るあまり足元の石ころにさえ気が付けないような、研鑽という険しい道のりに心をすり減らした毎日を。


 直結者になり、上の次元の武具を使うようになってからすっかり忘れ去られていた感覚でもある。そして同時に楓との接触に隠された形のない何かへと触れたのだ。その思考が正解かどうかは分からない、だが確定された情報を餌にここへと導かれた。


(弱かった頃の俺を思い出させるための仕込みか?いや……()なんて思った時点で術中か、創術はそんな万能な力じゃない……じゃあどんなメッセージを福雅に見い出せば良い?)


「ところで話が変わるんだけどね?ちょっと耳かして……」


 福雅は神谷しか聞こえない小さな声で言った。短くともその情報は二つの事柄を神谷へと認識させる。一つ、福雅は天剣マニアであること。そしてもう一つ――


「都市伝説なんだけど、天剣って人殺しらしいよ」


「は?どういうことだ、詳しく」


「あくまで噂話も超えて都市伝説だってば……僕は元々天剣に憧れてるから自分なりに色んなことを調べてきたんだ。僕達は死なない、でも天剣には人を殺せるなんて話が匿名掲示板で一時期流行ってたんだよ」


「そのサイトはまだあるか?」


「多分……」


 神谷は間髪入れずに瞳を閉じて情報海域ワールドインフォメーションへと接続を試みる。旧世代で言うネットサーフィンであり、全ての人間に許された検索エンジンの事である。


(こんな所に転がってる話はほとんどが作り話だが……念の為確認しておくに越したことはない。接続コード、『Laevateinn』……)


 天剣、人殺し、都市伝説、死の概念、様々なワードを頼りに情報の大海を思考の中で歩き回る神谷は、言っていたように天剣にまつわる都市伝説を見つけた。


(天剣の誹謗中傷サイトか、下らない。殆どがその才能に対する嫉妬だらけだ……こんな所に書き込む暇があるなら少しでもその足元に及べるように努力すれば良いものを)


「あった?そこでもう一つ面白い噂があるんだけど……」


「これか、天剣制度は現役の天剣生を持って終わるらしい、ってやつ」


「そう!」


 信ぴょう性の乏しい情報の塊を探るのは時間の無駄だと判断し、瞼を開けた神谷は再び福雅と向かい合う。天剣の人殺しという事柄に対しては楓も信用していなかったが、もう一つの噂については違う反応を見せた。


「こっちは……もしかしたら本当かもしれないんだ」


「なんでそう思ったんだ。信用出来る何かがあるってことか?」


「これを書き込んだのが……在校生の先輩だから。それも元天剣、僕も本人から直接聞いた訳じゃないし、尾ひれ背ひれがついて肥大した話かもしれないけどね」


「なるほど……少なからず天剣という地位に憧れている生徒も少なくはないだろうし、残念に思う奴も多いかもな」


 神谷にとっては何一つ驚く言葉などなかった。だが表情一つ変えずに質問を投げかけたが故に、福雅が口を開けて驚く。在校生であり、元天剣生、それらに該当する者は稀有な事例と言えたから。


「神谷君……本当に学園について何も知らないんだね……」


 天剣からの降格に伴う権利の剥奪。それに伴い学内での自由、白い制服の返却、天剣寮の退去、そういった創術鍛錬のための厚生施設等を失う。ここまでは福雅の告げた事実に異常はない。そこから始まったオカルト的な話に神谷の関心が移った。


「天剣の降格って学園の取り決めの中では該当する公文が一文しかないんだ」


「……これか、『在学中における天剣権能の剥奪は乙による甲への自主返納、及びに不適な事案を働いた場合とする。』……」


「そうなんだよ!そして在校生の元天剣って事はそのどちらか、自ら恵まれた環境を手放す前者はないと思うし……そうしたらさっきの都市伝説が頭をチラつくんだよね……」


 不適な事案とは人殺し。噂話や都市伝説を好む福雅ならではの反応と言える。だが人が死ぬ事自体が神谷には遠いおとぎ話ではない。もしかしたら、という域を超えた可能性がそこには潜んでいると神谷は睨む。


 人殺しなど裏の業界であれば特段珍しい現象ではない。情報媒体が命よりも重たいテイルニアであるが故に、死とは口封じという目的が多いことを神谷は知っていた。だからこそ自ずとその公文から浮かび上がるもう一つの可能性。


(この元天剣生は……恐らく暗躍者だ)


 情報という希少価値の高い媒体を狙う暗躍者。だが死の贈与はされず、天剣という地位のみを剥奪され生を繋ぐ。そこから導かれる推測は一つ、この元天剣生は隠された真実に近づきすぎてしまったのだと。


「神谷君?」


「あ、あぁ……悪い、福雅の話が面白くてさ。少し長居しすぎたな……女性服(これ)を返してから自分のクラスに帰るよ」


 話にのめり込んだせいか神谷は女装していることすら忘れそうになっていた。だが妙にイチノブイロク生徒は気前が良く、好きな事に使えと言った。


「それどうせ余りもんだからやるよ」


「いやいらない」


「いいからいいから!」


「はぁ……分かった、ありがたく貰っておく」


 受け取ったものの神谷には同じレベルの変装を自力で施す技術はない。自身で見ても女性と間違えてしまいそうなクオリティ、いつかどこかで使える可能性を考慮してメニュー画面へと指を伸ばす。


 項目に並ぶいくつかの衣装プリセット、アトックの制服や私服、仕事着など様々なものがある。その項目の中に新規作成された『教師』へと今の姿を保存したのだった。


(さて、偵察を続ける振りをしながら元天剣生とやらを探すか)


「良かったね神谷君」


「嬉しいなんて一言も言ってないけどな。それより福雅、さっき言っていた元天剣生の名前は――」


 そこで二人の会話は途切れる事になる。イチノブイロクの扉が開き、見知った顔が神谷を探しに来たから。同じクラスメイトである緋桜 翠が。

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