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電創世界と未来の調律者  作者: 四葉飯
序章 下幕
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34話 創成世界

 異能の力と想像が捕食者をなだめていた頃、空色の髪を持つ少女は独断でその近辺まで来ていた。それは自身が身を置くシリウスの正規小隊に課せられた任務とは違い、文字通り彼女自身の好奇心によるものだった。


(さて、盗んだ内容ではこの辺りのはずなんだけど……)


 心の思考通り、天剣第一星の二つ名を持つ彼女はシリウスに属していながら、自身の持つ小隊とは別の任務を秘密裏に奪っていた。記憶データに刻んだそれに抱いたのは属する部隊への疑念。


 彼女は薄々気付いていたのだ。シリウスが隠蔽しようとしている大きな何かに。


「いた……」


 荒廃した建物は普通に考えれば自立することは難しい形状をしており、足元を大きく損傷したビルはそれでも倒壊することはない。電子データで形成されたテイルニアならではと言える風景。


 そのビルの屋上から身を投げた少女の髪が揺れる。従来ならば落下の衝撃で行動不能となる高さにも関わらず、奏に恐怖という感情はなかった。何故ならば彼女の描く想像が自らに迫る危機を取り除くから。


「奇遇ですね、先生。いや……シャーネス中佐」


「久莉穹少尉……!?何故ここに……?」


 高所からの衝撃を消失させた奏が何事もなかったかのように教師へと問う。だがすぐ様に教師としてのシャーネスではなく、シリウスに属する一人の上官として扱った。


 シリウスの率いる第二大隊のリーダー、そしてアトック天光学園の一学年長、それがシャーネスという人物の預かる立場であり、奏が知る限りの情報でもある。此度天剣第一星がここに訪れたのはそれ以外のシャーネスの立場を探るためであった。


「第二大隊が大掛かりな任務を預かっていると耳にし、僭越ながらお力になりたいと思い馳せ参じました。私を隊に加えて頂けないでしょうか」


「必要ない。仕事熱心なのは良いが少尉は少尉の仕事を遂行したまえ。エルリィティアの警備を強めるよう指示を受けているだろう?」


「……お言葉ですが私の運用方法としては勿体ないかと思っていた所です。その意味が分からない訳ではありませんよね?シャーネス中佐殿」


「独断で来たのか……小金色(こがねいろ)中佐は何をやっているんだ……っ!全く……」


「第一大隊長は何も悪くありませんよ。仰った通り……独断で来ましたから」


 その言葉にシャーネスは僅かに顔色を変えた。シリウスの隊に強いられるは統率力であり、そのリーダーが隊員の独断行動を許すことはない。そして見逃すはずも。だが奏が今ここにいるという事実はシャーネスへと一つの可能性を与えたのだ。故に部下へと告げる指令。


「……お前達は先に指示されたポイントに向かえ。私は久莉穹少尉の説得に当たらねばならないようだ」


「……シャーネス中佐は話が早くて助かりますね」


 立ち去るシャーネスの部下を尻目に、奏は鋭い眼光と共に長剣を取り出した。説得という言葉に込められた意味が分からない奏ではない。自身の込めた見えざるメッセージがシャーネスに届いたのだと剣を握る手に力を宿す。


「優秀な兵士と思ってはいたが、当に学生という域を超えていたようだな。久莉穹」


「お察し頂いているようで恐縮です。まぁ……私の上官は確かに普段はぽわぽわしてる方ですが、出し抜けたかと言われれば怪しいところではありますけどね」


 シリウス第一大隊長ともなる者が部下の独断行動を見落とすはずはない。情報戦というありふれた戦場で奏が上官を出し抜いたという事実、それは彼女が既に天剣第一星という器すらも溢れてしまっていると、シャーネスにそう伝えたのだった。


「ただ……中佐の予想通り私は穏やかな話し合いに来た訳じゃありません。何かを知っているんですよね?中佐は……」


「……」


 奏は事前に盗んだデータをあえて可視化出来る情報媒体へと変換していた。そしてそれらを投げ捨てた。そこにあるのは紙に書き写された他者の記憶データ。スカイビーチで隠蔽された何かを示す文字媒体だった。


「スカイビーチでの捜査は私の隊に一任されていたはずだが……そうか、あの時から既に嗅ぎつけていたのか」


「はい。あぁ、回りくどい言い方はしなくても結構です。あなたの記憶データ以外に興味はありませんからっ!!」


 強い語気を放った瞬間に奏はその姿を消した。彼女の描いた想像が距離という概念、データを消し去り空間転移のような移動を実現させる。だが天剣第一星の力量に慣れ親しむシャーネスの顔色が変わることはなかった。


「お前の創術は見知っているっ!!」


「……」


 奏が振り落とした長剣はシャーネスの防壁の遥か手前で止まった。見えない何かに阻まれ、打ち付けた部分から衝撃が柄を通して伝わる。消失の想像を纏った刃が通らない。シャーネス同様に相手の創術にやや理解を寄せている奏もまた驚くことはない。


 何故ならばそれは、自分が思っていた物体とは違うものに阻まれただけだと理解したから。シャーネスの想像による遮蔽物、それを生み出す演算、敵対者だけの領域へと踏み込んだ事がなかった故の結果に過ぎない。無知だったからこそそれに触れた彼女は想像の領域を更に伸ばす。


「っ……!」


 甲高い笛のような音ともに空気の壁を切断した。一秒にも満たない拮抗の間に奏はシャーネスの演算を上書きしたのだ。驚きの表情のまま飛び退く敵の姿を見てもなお容赦はなく、さらにその後方へと転移しながら再びその手の剣を振りかざした。


「面白い創術ですね」


「貴様……っ!あの一瞬で……っ!!」


 金髪の敵対者の取り出した刃と奏の長剣が鍔迫り合いを引き起こし、見えない演算の駆け引きへともつれ込んだ。消失の刃、想像を纏った先から得た相手だけが描く想像の法則。奏は貪欲にその領域を蝕む。


(シャーネス中佐の想像は……恐らく物質変換。鉄製の剣も今は多分もっと別の何か(・・))


 奏の想像は相殺術壁(イレイザー)の特質から昇華させた唯一無二の性能を持っていた。敵対者の創術を彩られた絵画と比喩するならば、彼女の想像は白いペンキを強引にぶちまけ上書きするようなものだ。


 だがそれも相手の想像の領域を理解した上で成り立つものであり、自身の知らない媒体には適用されない。だからこそ戦闘を通じてシャーネスの特質を見抜こうとしていた。天剣第一星の持つ強さとは、想像の彩りだけではないのだ。


「くっ……!!」


「少しでも情報が欲しいんです。例えば……蒼白の武具についてとか――」


 シャーネスの想像を上書きした消失の刃が鍔迫り合いに終焉を与える。敵の刃を切断した長剣の刃が防壁へと触れた。純然たる消失と消失の力の拮抗、すなわち創術練度という力比べへと流れ込む。


「あまり調子に乗るなよ……!!久莉穹ァ!!」


「っ……!」


 敵対者の女性がかざした右手、そこから発生した暴風が奏の相殺術壁(イレイザー)共々その華奢な体を突き飛ばした。風という大気の乱れ、そこにはやはり彼女の予想した電子データは存在しない。感じ取ったのは意図しない反発するような力だった。


「反発……磁力に変換しましたか」


「隠しても無駄か。貴様の体と風に含まれる一部の電子データを磁力に変換した……意識外からお前に干渉したということだ。その意味がどういうことか分かるか?」


「ぺらぺらネタバラシをするなんて……ある界隈では死亡フラグって言うらしいですよ?」


「言ってろっ!!」


 空色の髪の少女の視界へと広大な創術紋様が広がる。緻密に、綿密に、そして複雑に組み込まれたシャーネスだけの想像、その前触れが。だが強さを幼い頃から強いられた奏は既に知っていた。そこから広がるであろう極小の世界を。


「久莉穹、お前の強さは結局見えているものにしか対抗出来ない未完成品だ。教師として教えてやる……っ!!これが創術の極意だ!!」


「【創成世界】、でしょ?」


 広大な紋様と共に広がった不可視の領域は消失した。【創成世界】というシャーネスの描いた想像だけで回る世界は消えたのだ。何故ならばその法則の基盤は否定されたから。何故ならばそれを上書きする新たな法則が戦場を支配したから――


「何故……何故私の創術が……っ?」


「シリウスの一員でもなく、天剣第一星でもなく……一人の人間としてあなたと接することにするわ。ただの創術にもう興味なんてないから」


 奏は過去に異能の強さと共に痛みへ触れた。そして同時に手に余る想像の領域も。それはすなわち星空の称号者と同じ領域を垣間見た瞬間であり、脳細胞とテイルニアを繋ぐ一本の回路の設立を促した事を意味する。


 CPUの演算能力だけでは成り立たない創術の領域、それでも尚当人だけの祈りは対を成す。望みを拒む矛盾と相反するために確立した極小の直結回路。それはCPUという演算装置だけでは足りない祈りを補助する並列演算装置であり、選ばれた者だけが開通する星天級の筆。


「消えて」


「……は?」


 奏の望んだ媒体は消えた。それはシャーネスが生み出す抵抗の媒体。すなわち四肢と武具、そして創術。たった今この戦場は一人の少女の理を持って回ることとなった。


 水色の髪の少女が望めばその領域では酸素は消え、創術は構築すら許されることはない。この場は不純物を一切認められない純白のキャンパスと化したのだ。


「久莉穹……っお前……何を!」


 直結命令(ダイレクトリンク)と同じくした極小の直結回路。自身の脳信号の一部を直接テイルニアと結んだそれは、創術の構築という一点のみに行使される。すなわちCPUだけでは足りない演算の補助を担うということ。


 大部分の演算はCPUから、そしてそれだけでは届き得ない祈りのために繋げた細い直結回路。二つの回路からテイルニアへと描かれる創術は、立体的な想像の投影を実現させる。それこそがたった今奏が到達した星天という称号の領域なのだ。


「真実をぼかす口に用はないの。酸欠になれば落ちるかしら」


「待てっ!!久莉穹!!これはシリウスに対する反逆行為だぞ!!」


「だから何?私は他者の用意したものさしで正義を測る気はない。シリウスが悪ならばそれを証明する真実を知る必要があるわ。例え……それが咎められる行いだったとしてもね」


「っ……ぁ……!」


 奏の支配した空間の中、シャーネスは意識を途絶えさせた。酸欠による意識の断絶、静かになった敵対者の襟首を掴んだ奏は空を見上げた。零れる一人言には己に対する嫌悪感が籠る。


「こんなことにしか役に立たない強さね……奪う事にしか役に立たない力になんの意味を持たせれば良いのよ」


 立体的な想像で描かれた、他者の精神にまで及ぶ世界の中、彼女が零したそれは己の存在意義。失う命、奪う存在、それらのために自身が身に付けた強さとは何のためのものなのか。その定義を見失いつつある葛藤でもあった。


 シャドウという死の概念を煽る存在のためか、それとも水面下で蠢く人類の悪意を裁くためのものなのか。


 否、真実をひた隠す世界へと向けた皮肉だ。強さを代償に得た物は孤独だと悟った奏は歩く。それは彼女の人格に変化を与えた唯一の居場所すらも失いかねない、闇への入口だと知らずに。


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