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電創世界と未来の調律者  作者: 四葉飯
序章 下幕
33/99

33-1話 侵食の牙と抗う剣

 駆け出した神谷とシルフィーに応じるかの如くオメガは姿勢を変えた。いや、姿勢というにはあまりに歪な形態変化だった。輪郭の曖昧な霧に近い何かで形成された体、二足歩行で動いていたそれが四足歩行へと。


「来るぞ……!」


 異形を成すオメガ、四足歩行と化したその背中から伸びた無数の腕が二人へと襲いかかる。その一つ一つが意思を持っているかのように蠢き、曲がり、様々な角度から二人を喰らおうと伸びる。


「っ!!」


 両の手にそれぞれ握った剣、神谷はそれを駆使してうねる触手を切り伏せる。オメガ本体と一定の距離を保つように、その円周を走り抜けながら。


 対して同じように捕食対象になったシルフィーは風の想像を纏い、空へと跳ねた。並列演算によって描いた硝子の刃と風の創術。硝子の矛は伸びる触手へと、撃ち損じた攻撃を躱すは風の足場――


「数が……っ多すぎる……!」


 そう零したシルフィーは重力落下を始めた体を空中で立て直し、創造した二点の足場を踏み込んだ。それは瞬間的に強風を吹き出す風の板材。自身が着地するタイミングと蹴り出す瞬間に合わせた演算が、空中での方向転換を可能とさせた。


 一度、二度、三度と、いたちごっこのように繰り広げる空中の攻防を見上げた神谷が剣を握る。両の手、左は自身を守る旋風の斬撃を――


――右は空の仲間(シルフィー)を危機から切り裂く斬撃を。


「神谷……!」


「近づきすぎるなよっ!食われるぞ!!」


「分かって……るっ!!」


 神谷の斬撃によってシルフィーを追っていた触手は切断され、僅かに生まれた反撃の隙。シルフィーは落下と共に『振動』を刻んだ己だけの想像をオメガ本体へと撃ち放った。


 きめ細かく反復する振動を秘めた硝子の刃、それがオメガの本体である黒い霧へと接触すると同時に、蒼い(・・)発光が起きた。だがそれは火の粉にも満たない刹那ほどの瞬き。


「蒼い……光?」


「神谷!!前!!」


「っ!」


 シルフィーの声で我に返った神谷が伸びてきた黒腕を躱す。身を捩り、紙一重で通り過ぎたそれは曲がった。躱した捕食者を再び食らうため、鋭い角度で折れ曲がり背後から。


「ぐっ……!うお……!!」


 直結命令(ダイレクトリンク)による思考加速が捉えた背後からの攻撃。右手の剣を投げ捨てた神谷はそれを掴んだ(・・・)。蒼白の篭手に許された電子データへの干渉、その性能を持ってして触手を逸らすように床へと投げ捨てたのだった。


 そして波状攻撃の如く神谷に迫る侵食の牙は散る。真隣へと風を纏ったシルフィーの着地、それと共に硝子の花が開いたことによって。重なる花弁のような透明の刃が二人を中心に仇なす者を拒絶した。


 迫り来る脅威はシルフィーの想像が、増幅するシャドウは神谷が屠る。神谷が彼女に抱きつつある感情はシルフィーにとっても同じであり、言葉を交わさずとも二人は目に見えない信頼のようなものを感じ取っていた。


(思い出に浸っている場合じゃないが懐かしいな。随分と前の事のように思う)


 神谷の辿る思い出に返り咲くはフィネアとの共闘だ。創術と異能を扱う立場は当時と逆転はしていても、戦場で見せる彼女の凛々しい面影がフィネアと重なる。


「神谷……っ!またオメガの形が……」


「だな……」


 ずんぐりとした四足歩行の形態からオメガはその姿を変えた。太かった胴体が芋虫のように蠢き、その長さを伸ばす。地面と接する四本の手足は更にその数が増え、まるで百足を彷彿させるような異形へと。


 手足が増えたせいかオメガはその機動力も上昇させた。一歩踏み込む度に揺れる大地と共鳴するかのように神谷とシルフィーの鼓動が跳ねる。二人を直接食らうオメガの牙を眼前に捉えながら。


「っ……!!」


「早い……っ」


 形態変化に合わせて図体も大きくしたオメガの牙を二人は躱した。左右に散るように飛び退いた二人が己の矛を放つ。神谷は異能を纏わせた斬撃を、シルフィーは振動を込めた想像を。


 斜めに挟撃した二人の攻撃が百足を模したオメガの頭を切断するも、そこはシャドウとなり、頭はすぐ様に生え変わる。これこそが神谷の言う『勝てない相手』という意味だった。


「シルフィー!!俺達も撤退するぞ!!」


「分かった……!」


 撤退のきっかけとなる神谷の猛攻が始まる。左右の手に握る鉄製の剣を時間差で放った。右、そして左と続く二連の剣撃がオメガの輪郭を大きく揺らす。無意味と知りながらも続けて神谷はオメガへと二本の剣を投げ放った。


 溶けるように黒い霧で形成されたオメガの体へと飲み込まれていく二本の鉄剣。それを尻目に神谷が空道鉤爪(スカイアンカー)を空へと伸ばした時だった。


(なんだ……この悪寒は――)


 突如としてオメガは体を形成する全ての輪郭を溶かした。可視化できる程にどす黒く、広範囲に及ぶ気体のような姿へと。何かの形を彩る訳でもなく、ただ浮かぶように漂うそれは滑空した。


「うぉ……っ!!」


「きゃあぁぁ!!」


 横殴りの暴風雨のように通り抜けていく黒い霧に、神谷とシルフィーは顔を覆った。雨粒程のオメガの肉片が衣服へとこびり付いてゆく。そこから流れ込むは感情(・・)だった。


(なんだ……っ!これ…はっ!!)


 染みと化してゆく黒い肉片から膨大な記憶データが神谷を蝕む。数回程オメガとの交戦経験のある神谷でさえも知らない攻撃行動。直結者になって初めて交戦したオメガだからこそ未知なもの。


『チョウダイ……』


「うあぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!」


 篭手に付着した染みから広がる黒い感情が神谷の内部へと侵入した。無意識に反発した異能の力が眩い蒼い光を放つ。ただしそれは他者から見れば醜く汚れたものであった。

更新のタイミングが1週間に2話くらいのペースになります。今回の33話のような分割してる奴はできる限り同じ日に投稿頑張ります。(頑張るけど出来るとは言ってないです)

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