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世界を彩るものは  作者: 鬼子
第二迷 『天才の巣窟』
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第二迷 2頁 『見えない事実』

 ワイワイと楽しいと言う感情で溢れた廊下で少し話した後、また後で合流しようと言う話が出た。


「じゃあお兄ちゃん。私、色々回ってくるから」


「俺も一緒に行く」


 俺がそう言うと、華奈は俺を見てため息をついた


「お兄ちゃん。私も子供じゃないんだから、一人で大丈夫だよ」


「・・・そうか」


 ーー違う。そうじゃないんだ。 心配しているのはそこではない。 『いじめ』と言う人の悪意に触れた部分を心配してあるのだ。

 受けなくて良かった報いを受け、引き篭もっていたのだ、何があるかわからない。


「じゃあ、俺が行っちゃおうかなぁ〜」


 誠がこちらをチラリと見ながら軽く言った。


 軽く言ったのは、重い空気にさせないためだろう。

 誠は、華奈がいじめられていたこと、俺がいじめっ子に復讐したことを知っている唯一の人物だ。

 任せといて問題はないかもしれない。


「おう、お前が行け、俺は嫌がられちゃったみたいだから」


「別に嫌がってないけど、うん。誠さんの方がいいかな」


 華奈にそう言われて、割と凹む。ダランとうなだれるように廊下の床を見た

 急に背中を叩かれて、叩いた本人を見る


「大丈夫。何かあったらすぐに連絡する」


 視線は華奈に向けたまま、独り言のようにつぶやいた。


「あぁ、頼む。 屋台とか金がかかりそうな部分は出してやってくれ、後で金は返す」


「おう、ちょっと多く申告するわ」


「詐欺だろ。ギリギリアウトだわ、警察の息子がそんなことするな」


 くだらない会話で、誠がゲラゲラと笑う。


「じゃあ、行ってくるから」


 華奈がそう言って、クルリと方向を変える。

 小さくなる背中を見ながらため息をつく。


「じゃあ、俺も行くから」


 誠がそう言って、華奈に駆け寄る。


「何か興味のあるクラスの出し物とか、屋台があったら言ってね」


「わかりました」


 華奈と誠の背中が小さくなるのを見ながら、安堵の息を吐く。


「あれが、妹か」


「あぁ」


 紗彩がゆっくりと腕を組みながら言う。


「可愛い娘じゃないか」


 そう言う紗彩も世間一般的には可愛い部類に入ると思う。 性格に難ありだが


「まぁ、安心しろ、これだけ人の目があるんだ。変な客でもいない限り、何か問題に発展することは考えにくい。 それに、誠は武術をいくつかしているらしいしな」


「そうなのか?」


「あぁ、そういう身体だ」


 紗彩がため息をつきながら、腕組みを解除する。


「どうだ?私と一緒に文化祭を回らないか?」


 突如告げられた意外な提案に、目をパチパチとさせながら紗彩を見る。


「マジで言ってんのか?」


「フッ、おおマジだ。 一人ぼっち同士、仲良くしようじゃないか」


 ーお前はなるべくしてなってるだろ。一緒にするな。


 正直、紗彩の立ち振る舞いは敵を作る。

 こいつが一人なのは、それが原因だろう。

 

「おい、失礼なこと考えているだろ」


「まさか、行くか」


 バレそうなので、早めに切り上げて話題を変えよう。


「いらっしゃいませー」

「1年C組、メイド喫茶してまぁーす!」


 客引きの声を聞きながら廊下を歩く。

 ワイワイとした空間を、似合わない二人がゆっくりと歩く。


「いじめは、心に残り、未来に残るからな」


 突如、楽しい空間とは真反対の話題が、紗彩から弾丸のように放たれた。


「・・・どういうことだ」


「奴らは分かってない。 間接的な殺人だということを、誰かが死んでから『冗談』でした。なんて、馬鹿馬鹿しいだろ。 死んだ方が悪になるとか意味がわからん」


 珍しく、紗彩にしては言葉遣いが幼く感じた。

 過去に何かあったのだろうか。


「無くすことはできると思うか?」


 そういうと、紗彩は俺にチラリと視線を向け言った。


「無理だな。 立場的に弱いものは必ずいる。それが邪魔だから排除してやろうってのは生物としては当然だ。 問題は・・・してしまうことだ」


「・・・ん? 言ってる意味が・・・」


「猿や狼の群れでも、団体から外そうといじめは発生する。 だがどうだ、彼らは一人に足を引っ張られると全員が死ぬかもしれないからだ。 それは本能として仕方ない」


 紗彩が歩きながら淡々と話す。

 歩幅を合わせ、じっくり聞いていく。


「だが、人間。特に日本人は違う。 例えば会社。一人がミスをして、他の社員の給料が引かれるか? 誰かがミスをすることで、第三者が命に危機に晒される事の方が少ない。 これがもし、医療や戦争中というならわかるがな。 だが、学校だ。 生徒のミスは全員のミスにはならない。 つまるところ、自分がやった罪を、された側に責任転嫁して、優越感に浸る馬鹿しかいないからな」


「なるほど・・・」


「地球には80億人住んでる。実際にはもっと細かいが、学校のいじめによる自殺者はある年では20万人弱だ」


 80億人中の20万と聞くと、少なく感じた。

 紗彩は目を細めながら、続ける。


「80億人中の、20万と考えると少ないと感じるが、小中高を合わせて日本でのいじめ総数は60万。 60万のうちの20万が自殺しているんだ。 3分の1・・・どうだ、少ないか?」


 それを聞いた時、異常な数の多さに言葉を失った。 それに・・・妹が20万人の中に入るかもしれなかったと考えるとゾッとした。


 話していると、ポケットの中に入っているスマホが震えた。

 ポケットから取り出し、画面を見ると誠の文字が見えた


「誠だ」


 俺がつぶやくと、紗彩がニヤリと笑って俺を見る。


「復讐はまだ終わってないぞ」


 その言葉に首を傾げ、電話に出る


「どうした?誠」


「悪い、しくじった・・・校舎裏にきてくれ」


 息が荒く、ひどく疲れた様子だ。

 散開してから30分ほどしか経っていない。

 何かに巻き込まれたのだろうか。


 スマホをポケットに押し込み、校舎裏を目指すことにした。

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