第二迷 1頁 『天才達』
あの事件から数週間が経ち、文化祭が行われた。
ワイワイとした声が校舎に広がり、自然と笑顔になる空間だ。
廊下をブラブラと歩いている俺の周りには誰もいない。
おかしい、笑っているはずなのに。
「顔が怖いんだよ!」
そう言って俺の背中を叩いたのは誠だった。
ニシシと悪そうな笑顔を浮かべた後、俺をじっくりと観察して口を開いた。
「サボりか?」
「ちげぇよ。 何もないだけだ」
誠に言われ反論する。
罪滅ぼしか、クラスの連中に当日は何もしなくていいと言われたのだ。
あの事件で疑ったのを、申し訳ないと思っているのだろう。
ーー顔が怖いからお客さん来なくなっちゃう・・・とかつぶやいた奴は許さないと心に決めたが
「なんで?」
「クラスの連中に何もするなと言われたんだよ」
こんなことを説明しなくてはいけない自分を恨もう。 いや、恨むのは過去か?
「なるほど、サボりじゃん」
「お前話聞いてた?」
ゲラゲラと笑う誠に冷ややかな目線を送りながらため息をつく。
窓の外を見ると、陽射しが目に刺さった。
「おい」
刹那、背後から声をかけられ振り返ると、小さな少女がいる。
「紗彩・・・」
「まて、なんだその目は。私に、めんどくさい奴が来たよ・・・って目をするのはやめろ」
紗彩と呼ばれる少女が腕を組みながら仁王立ちをしている。
頭をカリカリと掻き、ため息をつく。
「おい、私を見てため息をつくんじゃない」
「あぁ、悪い。久しぶりだな」
ムスッと口を尖らせ、表情を隠さずにいる紗彩をみて、少し笑えた。
「あの事件以降、どうだ?」
紗彩が聞いてきた。
自分が引き受けた依頼だからか、顛末が気になるのだろう。
「あぁ、ありがたいことに、あれからは何もないよ」
「そうか、それは良かった」
紗彩が優しく笑う。 その笑顔は太陽の陽に照らされ、白い肌を露出する。
綺麗だった。
「で、文化祭でみんなが楽しんでるというのに、お前達は一体何をしているんだ? 見たところ、何か仕事をしているわけでも、純粋に楽しんでいるようには見えないが」
太陽の光に目を細めながら紗彩が言った。
「誠は知らないが、俺には楽しむ才能がないらしい。あまり得意じゃないんだ、こういうの」
「楽しむことに才能って必要なのか?」
誠が首を傾げながら言った。
意外にも、それに返答したのは紗彩だった。
「いや、楽しむ才能は必要かもな」
俺と誠は顔を見合わせる
「どういうことだ?」
紗彩が目を細め、腕を組み、二の腕の部分を人差し指でトントンと叩きながら質問に答える。
「まず、才能だが何かを楽しむとは、過去の経験から培ってきたものが大きい。 同じゲームを長々としてたら飽きるだろ? あれも一種の才能だと、私は思う。 でも、それを常に面白いと感じるのは、そいつがそのゲームを楽しむ天才だからだ」
「なるほど」
紗彩がため息をつき、続ける。
「学校という場所は、偏差値問わずに天才が集合する場所だ。ハンディキャップなども関係ない」
「待て、俺は頭が悪いから天才じゃないぞ」
「本当にそうか?」
紗彩が言った言葉に首を傾げる
「もちろん、学校では勉強が出来なければ『馬鹿』として見られるが、場面が変わればどうだ? たまにニュースで、天才ゴルフプレイヤー!とか出るだろ。だが、そいつが勉強できるかと言われればそうじゃないだろう。『天才』や『才能』の線引きは、場所で変わる」
「俺にはどんな才能があるんだ?」
「それは知らない。あと、一般的には才能ではなく天才だ。 間違って使われることが多いが、才能と天才の意味は逆だ。 『天才』が産まれながらに持った能力。 『才能』が、努力によって秀でた能力のことだ」
なるほどな。
確かに、一般的には、才能は神から与えられたようなものと言う認識があるな。
「じゃあ、紗彩はなんの天才だ?」
そう聞くと、少し考えて口を開いた。
「観察眼の天才で才能だ」
「ん?」
さっきと言っていることが違う気がして、聞き返してしまった。
「天才と才能は別として見られるが、天才も強化ができる」
「強化?」
「死にゲーと言われるRPGを知っているか?」
「あぁ、知ってる。 お前ゲームするの?」
紗彩からゲームの話を聞くのは初めてだ。
まさか、結構ゲームとかするんだろうか。
初対面では読書をしていたし、全くしないものだと思っていた。
「いや、しない。私はゲームの天才は持ち合わせていないからな。 動画は見る、たまにな」
「なるほど」
「で、話に戻るが、ゲーム開始でステータスを選ぶだろう? 素性という奴だな。 その値、デフォルト値が『天才』の状態だ。 だが、特化させれば・・・『才能』になり得る。 つまり、何か特別なことをしなくても、お前は天才と才能の塊だ。あまり自分を卑下するな」
長々と話して疲れたのか、紗彩は息を吐く。
「大丈夫か?」
紗彩の肩を抑え問いかけると、一瞬ビクッとしたが、すぐに力を抜いた。
「あ、あぁ、問題ない。 ほら、客人だ」
紗彩がゆっくりと指を俺の後方へ向ける。
振り返ると、よく知った人物が立っていた
「あ、お兄ちゃん」
「華奈、来たのか⁉︎」
妹だった。
普段は部屋から出ない妹が外に出てきたのだ。
珍しいこともあるものだと、そう思った。
「翔真、その子は?」
紗彩に言われ、紹介を始める。
「妹の華奈だ」
「そうか」
そう言って、華奈な前に行き自己紹介を始めた
「私は石塚 紗彩。 お兄さんとは友達だ。よろしく」
「お兄ちゃんに友達なんかいない」
紗彩は笑いそうなのを堪え、プルプルと震えている。
こちらを見た紗彩は顔が赤くなっていた。
ーーそんなに面白いか? もう笑いすぎて泣きそうじゃん
俺が泣いてやろうかと思いつつ、窓の外を見る。
妹が出てきたのは嬉しいが、一波乱ありそうだなと、ゆっくりとため息をついた。