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世界を彩るものは  作者: 鬼子
第一迷 『夕日に照らされた女』
4/20

第一迷 4頁『真犯人』

 時刻は18時頃だろうか。


「ただいま」


 玄関を開けて家に入る。

 電気をつけていないのか、真っ暗なリビングだ。

 華奈はどうした。


 電気をつけ制服を脱ぎ、椅子の背もたれに掛ける。

 トントンとゆっくり階段を降りる音がする。


「おかえり、お兄ちゃん」


 目に光がない様な瞳の妹。華奈だ。

 イジメが原因で引きこもってしまっている。

 中学校には行かず、出歩いたりもない。

 本人曰く、世界には楽しいことが一つもない。だから外に行く必要がないらしい


「ただいま。今から夕飯作るから待っててくれ」


 部屋着に着替えて台所に立つ。

 今日の晩飯は肉じゃがにでもするか。


 華奈は椅子に座り、テレビをつける。

 お笑い番組だろうか。関西弁でのツッコミがリビングに響くが、華奈は眉一つ動かさずにため息をついた。


「面白いか?」


「・・・わからない」


 グツグツと鍋を煮立たせながら話しかける。

 イジメがあってから表情は変わらなくなってしまった。


 テレビの音だけが響くリビングにカタカタと料理をする音だけが響く。

 砂糖が溶ける甘い匂いが広がる。


「肉じゃが?」


 華奈がテレビを見ながら言った。


「嫌だったか?」


「ううん、好き」


「それは良かった」


 会話はあまりない。

 響くのは時計の音とテレビだけ。


 完成した肉じゃがを皿に盛り付け、テーブルに置く。 箸立てを持って行き、取り皿、水を運ぶ。

 その間も華奈はテレビを見ていた。


「華奈、食べようぜ」


「うん」


 カチャカチャと食器が鳴る。

 普段から食事中も会話はないが、今日だけは違った。


「お兄ちゃん」


「ん?」


 珍しく華奈から会話を始めた。


「最近、忙しそうだね。 寝不足で隈ができてる」


「あんまりだぞ、ただ寝るのが遅いだけだ」


 俺が今経験してる現状は言えない。

 華奈も辛い時期だ、無駄な心配はかけられない


「なら良いけど、あまり無理はしないでね・・・」


「おう。大丈夫、大丈夫」


 悟られてはいないだろうか?

 妹は意外と鋭いところがある。


「ごちそうさま。 お兄ちゃん。私はもう寝るね」


「おやすみ」


 階段を上がる華奈を見送り、食器を台所に持って行き皿洗いを始める。

 華奈がいた時と変わらない。静かなリビングに水の音が響く。


 皿洗いを済ませて、布団に入る。

 明日は問題の解決に動き出す時だ。


 よくなることを願って、瞼を閉じた。

ーーーーーーーーーーーーーーーー


 日差しが暗い視界を明るくする。

 朝が来た。 いつもとは少し違う、まさしく人生がかかった朝。一日が始まる。


 階段を降りるとすでに明かりがついていた。


「おはよう、お兄ちゃん」


「おはよう」


 珍しいこともあるもんだ。 いつもは起きていない華奈が先に起きている。


「何かあったのか?」


「いや・・・たまには見送ろうかなって。パンとバター、テーブルに出してあるから」


 そう言われてテーブルを見ると、確かにパンとバターがあった。 冷蔵庫を開けて牛乳を取り出す。


 席について、牛乳コップに注ぎ、パンを齧る。


「なぁ華奈」


「なに?」


 テレビを見ながらパンを齧る華奈を呼ぶ。


「俺の学校で今度文化祭があるんだが、良かったら来ないか?」


「いや、いいよ・・・行っても楽しくない」


 こちらに視線を送りもせずに言った。

 声が淡々として、静かに、冷めた様な気がした。


「無理にとは言わない。来れたらでいいんだ」


 そう言うと、テレビを映していた瞳が、俺の姿を映す。


「私は、学校が嫌い。私をいじめてた奴がいる外が嫌い、だから。もう外は見たくない」


 一通り吐き出した後に、視線をテレビに戻す。


「お兄ちゃん。そろそろ時間だよ」


 時間を見ると、登校時間になっている。

 パンを牛乳で流し込み、立ち上がる。

 急いで制服を着て靴を履く。


「じゃあ、行ってくるから」


 華奈も立ち上がり、玄関までついてきた

 扉を開き、日差しに目を細める。


「行ってらっしゃい、お兄ちゃん。 頑張ってね」


 小さな声と共に、バタンと扉が閉じた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーー


 〜放課後〜


 夕日が身体を刺す。

 及川がきっと職員室に先生を集めているはずだ。


「翔真!」


「おい」


 声がした方を見ると、誠と紗彩が並んで歩いている。


「全員集まったな」


 廊下の真ん中で、三角形を作る様に立つ。

 静かになった空間を破る様に、紗彩が口を開いた。


「今回は職員室に行って、犯人の特定と逮捕。これを行う。 誠とやら、警察の準備は?」


 紗彩が誠に視線を送った。

 警察?なんの話だ。


「頼まれた通り、数人だが裏に手配はしてある。 父親に頼んで相当無理したんだ。 失敗は無しだ。」


「安心しろ、失敗なんてしない。こんな簡単な事。謎とも言えない。」


 誠がフッと軽く笑う。

 二人が視線を俺に向け、口を開く。


「犯人が逃げそうになったら、力ずくで止めろ。逃すな」


「安心してよ、翔真。 警察には暴力も使うかもって事前に許可をもらってる。 人生がかかってるんだ。やらなきゃ終わるよ」


 二人の顔が徐々に真剣になっていく。

 喧嘩には自信があるが、暴力が好きなわけじゃない。 でも、やらなきゃいけないなら。


「わかった」


「じゃあ、行くか」


 その言葉を合図に、職員室を目指して歩き出す。


ーーーーーーーーーーーーーーーーー


 〜職員室前〜


 職員室の前で立ち止まり、深呼吸をする。

 すると、紗彩が俺の胸を叩き笑った。


「任せろ、依頼は必ず達成する」


 刹那、職員室から声が漏れる。


「もう少しだけ、時間をください!」


「いつまで待たせんだ!部活だってあるんだぞ!大会で成果が出なかったりしたらお前責任取れんのか⁉︎」


 及川の声と、他の先生の声だ。 

 止めてくれてるんだな。


「生徒一人の人生がかかってるんですよ!部活なんかしてる場合じゃない!」


 その言葉を聞いた瞬間、紗彩が扉を勢いよく開けた。


「教師のくせにいい事言うじゃん」


「石塚・・・」


 及川と、職員室にいる教師の視線が紗彩に集中する。

 それに物怖じせずに歩く。 それに続き、俺と誠も職員室に入る


「なんなんだ君たちは!生徒が職員室に無断で入っていいわけ・・・」


 男性教師の怒号を遮る様に紗彩が低い声で唸り、睨みつける。


「黙れ」


 紗彩の一言で教師が静かになった。


「今からアンタらは私の指示に従え、従わない場合はこの場で首が飛ぶと思え。いいな?」


「そんな権限・・・」


「校長や教育委員会には話を通してある、いいな?」


 凄んだ紗彩に気押される様に静まり返る。

 紗彩は視線を職員室の全体に流す。

 息を吐き、吸い、酸素を取り込む。


「全員立て」


 ゆっくりではあるが、指示通りに教師が立ち上がる。 キョロキョロとしていて、まだ状況が掴めない様だ。


「全員ペンを持て、ペンの種類は指定しない」


 ガサガサとペンを持ち始める。


「よく見える様に上に掲げろ」


 次々と持ったペンを上に掲げる。

 

「下ろしていいぞ、男は全員座れ」


 教師はペンを下ろし、男性陣は座る。

 残されたのは女性教師が六人程度だ。

 紗彩がゆっくりと右腕を上げて、指を指す。


「お前、あとお前。 お前もだ、あとお前も。座っていいぞ」


 紗彩は六人の女性教師を選定する様に、選び座らせた。 視界に残っているのはたった二人。どちらかが犯人なのか


 紗彩はじっくりと観察する。 瞳を、心を覗き込む様な視線が教師に突き刺さる。

 髪の長い教師と、白衣の教師だけが立たされている状況だ。


「今、なんでこうなってるかわかるか?」


 紗彩に言われるが、二人の教師は状況がわからないと顔を見合わせる。

 紗彩が、はぁっとため息をつき、カバンから財布を取り出して一万円を掲げる。


「じゃあ、これは?」


 瞬間、紗彩がニヤリと笑った。

 

「白衣の女ぁ。なんで今まで私しか見てなかったのに、金が出た瞬間にコイツを見たんだぁ? なんか、関係があるのかぁ?コイツと金が!」


 刹那、白衣の教師が振り返り走り出す。

 だが、職員室だからか物が多く逃げるにはキツイだろう。


「翔真!誠!そいつを逃すな!」


 紗彩の声と同時に走り出す。

 

「翔真!俺はこっちから回り込む!」


 誠は勢いよく扉を開け、廊下を走り出す。

 職員室の扉は前後にある。

 前から出て、後ろの扉から入れば早い。


 白衣の教師がモタモタとしてる間に追いつき、白衣の襟を掴む。

 掴んだ瞬間に、教師が振り返り、視界にボールペンが映り込む。

 ボールペンを持った左腕を両手で掴む。


「あぶねぇ!」


「翔真!」


 後ろの扉が開き、誠が現れる。


 ボールペンの先端が眼球に刺さる寸前で腕を掴んだが、バランスを崩して近くの机に背中を打ちつける。



「死ね!クソガキ!」


 白衣の教師が全ての体重を掛けてボールペンを押し込む。

 両手に力を込め、左腕を止める。

 刹那、白衣の教師が右手を上げた。


 おそらく叩くのだろう。

 力が足りず、拮抗した場合は特定の場所を叩けばバネの様に押し込める。 インパクトが成功すれば、確実に俺の左目は潰される。


「あぁぁぁぉぁ!」


 白衣の教師が叫び、右手を振り下ろした瞬間。 姿が視界から消えた。


「大丈夫か!翔真⁉︎」


「サンキュー!」


 その時、扉が勢いよく開き、警察が数人入ってきて教師を取り押さえた。

 

「ふざけんな!離せクソどもが!」


「暴れるんじゃない!」


 特定するまでに結構な時間を要したのに、確保までは5分とかからなかった。

 職員室に静寂が流れる。


「と、取り敢えず。出ようぜ、気まずいわ」


 職員室からそそくさと出ると、外から白衣の教師の怒声が聞こえる。


「必ず成功するって言ったじゃない! 嘘つき!」


「話は署で聞くから暴れるな!」


 窓から警察と彼女を見下ろす。

 

「誰かからの命令なのか?」


 誠がつぶやいた。

 紗彩が誠を見て、彼女を睨む。


「取り敢えず終わったな。結構あっさり」


 誠が頭を掻きながらつぶやいた。


「これで一安心だ」


「そうだな」


 俺の呟きに紗彩が答える。 その瞳は冷たく。いまだに彼女を見つめていた。


「紗彩、どうしてあの教師が犯人だとわかった?」


 そう言うと、紗彩はポケットからスマホを出してある画面を見せてきた。

 

「あ、生徒会室の写真」


「これがヒントになってる」


 じっくり見るが、特に変わった点はない。マグカップ、ペンと紙、乱雑に置かれた椅子くらいだ。


「わからん。説明してくれ」


 そう言うと、はぁ・・・と小さくため息を吐き、説明を進めた


「まず、マグカップだが、取っ手が左側にある。 ペンも紙の左側だ。 椅子も傾いてるが、焦って立ち上がる際に、左基準で立ち上がったんだろう。 だから、犯人は左利きと推測できる」


「教師っていう部分は?」


「マグカップの口に口紅が少しついてる。 普通ならつかないが、口をつけた瞬間に誰か来たんだろう。 この学校は生徒の化粧が禁止だから、女教師と推測できる。 だから『左利きの女教師』と推測した」


 さすがだ。 全然わからなかった。

 食堂前での『本当によく見たのか?』には、意味がしっかりあったのだと、今気づいた


「さぁ、解決したし、私は帰る。じゃあな」


 紗彩が上履きを鳴らしながら歩いていく。

 

「紗彩!ありがとう!」


 礼を言うと、ヒラヒラと右手を振っていた。


「翔真、俺たちも帰ろう」


 誠と共に玄関に向かう。


 事件は解決。疑いはこれで晴れた。だが、最後の、『必ず成功すると言っていた』この言葉が引っかかる。


 解決の安心と、言葉の不安が入り混じり、心が乱れたまま、俺たちは夕日が照らす帰路についた。

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