第五迷 最終話 『何でお前が・・・』
紗彩のところへ戻ってきた。
「紗彩!」
俺が名前を呼ぶと顔を上げ、こちらを見る。
先程までいた野次馬はいなくなっている。
まるで神隠しにあったかのようだった。
いるのは調査員が数人だけ
「お、帰ったか。 じゃあ、2人とも動くな」
紗彩に言われピタリと足を止める。
「石塚さん、何を言って・・・」
「動くなと言っているだろ」
話を聞かずに動こうとした誠にさらに言った。
「翔真・・・こっちに来い」
真剣な眼差しの紗彩に言われると、逆らう気が失せる。
いつもはふざけているからか、そのギャップだろうか
「紗彩、どうした」
ゆっくりと紗彩に近づく。
「一連の犯人はずっとそばにいた」
紗彩がため息をつきながら呟いた。
「何?」
紗彩の後ろにつき、言葉を返す。
「だろ?誠」
紗彩が誠を見つめながら言った。
「まて、紗彩。誠は俺たちとずっと一緒だったろ。今回の事件は特に一緒にいたし、犯人もバラバラだ」
「実行犯はバラバラだな。 でも指示した奴は一緒だ」
低い声で紗彩が言った。
俺の言葉をあっさりと、そしてバッサリ切り捨てた。
「・・・誠だとして、何でそうなるんだよ!」
「アナグラムって知ってるか?」
アナグラム?何だそれは
「本来意味ある文字を入れ替えてわからなくしたり、逆に、意味ない文字を入れ替える事で答えが見つかる言葉遊びみたいなもんだ」
「それがどうした?」
俺は質問をする。紗彩の頭がいいのは十分に理解している。だからこそ、誠が犯人だと言うのを否定したかった。
「名前だよ。 私達の名前をローマ字にしてアナグラム形式で組んでみた。 私の名前は少し無理やり感があったが、翔真と誠は違った」
そう言って、紗彩はスマホの画面を見せて来た。
そこには幾つかの英字と、名前があった
「シャー・・・ロック?」
「見立てたか? 私をシャーロックとし、翔真をワトソン。 誠、お前が・・・モリアーティか?」
誠が笑いながら言った。
「そんなわけないだろ・・・何を言っているんだい?」
「そうだよ、誠が犯人なわけない!」
説得に効く耳を持たずに、紗彩は誠を睨み続ける。
「犯罪を売ったな? 報酬をぶら下げて犯罪を売ったんだな。真似事か? 父親は警察のトップだったか?金は有り余ってるってか・・・馬鹿が」
「うるさい! 僕は凡人じゃない」
紗彩の言葉に誠が怒鳴る。
「もういい、やれ」
瞬間、後頭部に強い衝撃が走り意識を失った。
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次に目を覚ましたのは、どこかの屋上だった
「う・・・」
「あぁー翔真、目を覚ましたか!石塚さんはとっくに目を覚ましてるけど、君はお寝坊さんだね」
強い風が吹く屋上。
肌寒くも感じるほどの強風に目を瞑る。
「よく見るんだ」
屋上の縁には縛られた紗彩と誠がいる。
「何するつもりだ!」
身体を動かそうとするが、俺の身体も縛られているためか動けない。
「誠!」
返事はない。ただ、屋上から下をのぞいている。
「翔真、僕は試したくなった。自分の頭脳を」
「何の話だ?」
誠はカバンを漁りながら話す。
「まぁ、石塚さんの頭脳を舐めていたのは認めるよ。上手く誤魔化せてだんだけどなぁ。どこで間違ったんだろ」
そう話しながらカバンから取り出したのは拳銃だった。
紗彩がそれを見て歯を食いしばる。
「・・・ライヘンバッハの滝か?」
「よく気づいたね。あの作品、僕も好きなんだ。だから終わり方はこれって、最初から決めていたんだ」
2人は何の話をしている?
俺にはわからなかった。
「誠、動機は何だ」
俺の問いに答えたのは、紗彩だった。
「真似事・・・誰かの注意を引きたかったのか?父親か・・・翔真か? 幼馴染を取られたって嫉妬か? 最初の事件もお前が仕組んだんだろ」
最初の事件。 俺が泥棒と呼ばれ、紗彩と初めて会った時の事件だろう。
「真似事?気を引きたい? 動機ならもう言ったろう?」
「試したかった・・・」
頭脳を試したい一心での犯罪。
「だが、今回も私の勝ちだな。 誠、あんたの負けだ」
紗彩がニヤリと笑いながら言った。その言葉に誠は勝ち誇ったような顔をしながら口を開いた。
「いや、まだだよ。 犯人が僕ってのはバレてないからね。だから、石塚さんを殺して僕の勝ち。 そして僕も自殺して、罪を翔真に擦りつければ完全勝利だ」
誠が紗彩からこちらに視線を移す。
「良かったね、翔真。 数々の事件を解決した探偵と親友を殺した有名人になれる。誇っていい」
「クソ野郎が!」
そういうと、誠が紗彩の身体に手をかける。
「さて、時間がないから始めようか、再現は忠実に」
「いいか、誠!必ずお前を捕まえてやるからな!」
紗彩が叫ぶ。必ず捕まえてやると。
そう言いながら、屋上から姿を消した。
「無理だよ。捕まえる側も、捕まえられる側も、死んだら何もできない」
「誠ぉぉ!」
パトカーのサイレンが鳴り響く。
「お、案外遅かったね。 あらかじめ呼んでおいたんだ。 これで屋上に来る前に警察は石塚さんの死体を見てから来る」
拳銃を爪でカチカチと叩きながら誠は話す。
「まだ自殺のタイミングじゃないからね。もう少し待ってくれよ」
縄を解こうと体を動かす。
徐々に緩んでいくのを確認しながら更に続ける。
「そろそろかな」
誠がそう言った瞬間。
拳銃を自分の顎に押し付ける。
「じゃ、先に行くね。バイバイ」
「まこ・・・!」
パンッ と銃声が鳴り響くと同時に縄が解ける。
数秒後、屋上の扉が開いた。
「真依・・・さん」
拳銃を構えながら、数人の刑事が現れた。
「全部あなたが仕組んだの?紗彩すらも騙して・・・あの子、あなたと一緒にいる時間を楽しそうに話してだんだよ?」
「違う・・・俺じゃないんです!」
あまりの急展開に焦りが止まらない。
脳が追いつかない。
思考が巡らない。
肌寒いくらいの風なのに、汗が滲み出る。
「あとは・・・署で聞くわ。 現行犯だから、意味ないと思うけど」
俺を見る目は酷く冷たくなっていた。
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取り調べで説明をしたが、現場の状況が悪かったのか、信じてもらえなかった。
事件は未解決、ではないか。冤罪とは言え、犯人を捕まえたんだ。
多分、死刑は免れない。
紗彩を助けていたら、変わっていたのかな。
誠は警察一家の人間という先入観で一ミリも疑ってなかった。
人生で初めて入った牢屋は思いの他狭かった。
暗く、ひんやりとしていて、少し肌寒い。
瞬間、遠くの扉が開く音がした。
足音だ。少し早い足音。そして軽い。
紗彩の足音に似ていて、懐かしさが滲み出る。
その足音は徐々に大きくなり、やがて俺の前で止まった。
「やっぱり警察は馬鹿だな。姉貴も馬鹿だ。 渡辺翔真くん。 君の冤罪、晴らしてあげようか?」
聞き覚えのある声がひびき、顔を上げる。
知っている。よく知っている。
生意気な後輩だ。
「おせぇよ・・・」
俺は呟いた。
声は、もしかしたら震えていたかもしれない。
死んだと思っていた。もう会えないかと。
死んだ名探偵の亡霊を、俺の目は確かに写していた。
世界を彩るものは 完
こんにちはこんばんは。鬼子です。
世界を彩るものは。御愛読ありがとうございます!
前回の作品と比べて短いお話しでした。
今回の作品は数章で完結させようと思っていましたので、予定通りに進み胸を撫で下ろしております。
この作品を描き始めたあたりくらいから、物語を作るのって面白いなぁと感じ初め、まだまだやっていきたいと思っていますので、よろしければお付き合いください。
では、またお会いしましょう!




