第一迷 2頁『謎と手がかり』
全てあってる・・・
一体どうやったんだ?
「どうしてって顔をしているね。 でもトリックはないよ。私はただ『観察』しただけ』
「観察?」
「そう・・・まぁ良いから、要件を言ってよ。急いでるんでしょ?」
紗彩に急かされ話を始めるために深呼吸をする。
何回か繰り返し、心が落ち着いてきたタイミングで話を始める。
「今回の文化祭で俺のクラスではクラスTシャツを作るんだが、それのために実行委員が生徒から集金をしたんだ。それで、生徒会役員の一人が生徒会室で保管すると言っていた。 そいつは忙しいのか、放課後に現金入った封筒を生徒会室に頼んできた」
「引き受けたの?」
「あぁ、でも、俺も急いでいたから荷物を生徒会室に届けたらすぐに帰った」
紗彩が顎に手を当て、左右に揺れながらうーんと唸る
「そのお金はどうなったの?」
「知らない。それがここにきた理由だ」
全てを言い切り、一息つく。
紗彩は椅子の背もたれにダラっと寄りかかり唇を尖らせた。
「なんか・・・馬鹿だなぁ・・・」
突如、紗彩がそんな言葉を漏らした。
「なんだって?」
「あ、いや安心して?大抵の人間は馬鹿だから」
そう言いながら、だらけた姿勢を戻していく。
「何か手がかりとかある?」
「いや・・・特には」
そう言うと、パンっと手を鳴らし眼を輝かせた。
勢いよく椅子から立ち上がりクルクルと回る。まるで子供だ。
「じゃあ、手がかりを探す所からだね! でも今日は遅いから帰った方がいい。続きは明日!」
紗彩に言われた時計を見ると、17時を過ぎていた。
鞄を拾い上げ、バタバタと準備をする。小走りで扉の近くに行き、窪みに手を伸ばした。
「紗彩、頼む」
「任せなさいな」
その言葉を聞き、扉を開けて飛び出す。
明日から本格的な調査に入る。 ここからが忙しくなるかもしれない。
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~翌日 昼休み~
この時間帯も相変わらずひとりぼっちだ。
集めた金の件もあり、孤立に拍車がかかったかもしれない。
その時、教室に聞き覚えのある声が響き渡る。
「渡辺 翔真はいるか~!」
声の主は紗彩だ。
昼休みに他学年の階まで来て騒ぐ奴がいるか。
ゆっくりと立ち上がり、声がした方向を見る
「あ、いたいた。」
俺を見つけると断りもなくズカズカと教室に侵入する。
「手がかりと犯人探しだ。するんだろ?」
「もちろん」
そんな時、廊下を体育教師が通った。
この学校は基本、他学年、他クラスへの侵入を禁止している。 見つかればお説教コースは間違いない。
「何入ってるんだ!?」
案の定見つかってしまった。 体育教師は教室に入り、俺と紗彩の前までくる。
「この人誰?」
「馬鹿か。体育の教師だ。名前は・・・」
しくじった。俺はこいつが嫌いすぎるためか、脳内から名前を消し去っているらしい。
「なんで他学年の教室に入っているんだ?石塚」
「大事な用があったから。それにもう出るからいいでしょう」
こいつ。紗彩は教師に対してもこの態度なのか。 無神経というか、メンタルが凄いな。
「ダメだ、理由を言え」
「急いでるんで、じゃ」
体育教師は立ち去ろうとする紗彩の制服の襟を掴み引き止める。
一瞬だけだが、首が締まった紗彩は静かに怒りを見せた。
「離して」
「ダメだ、校則。ルールだ」
「離さないと先生の秘密。叫ぶよ?」
体育教師が首を傾げる。 何を言っているのかわからないと。
「何?先生にどんな隠し事があるというんだ」
「じゃあ、言うから離して」
体育教師は眉間に皺を寄せながらゆっくりと制服の襟を離す。
紗彩は制服を整え、体育教師に耳打ちをする。
周囲に聞こえたかはわからないが、俺ははっきりと聞き取れた。
「浮気について」
その一言で体育教師は黙り、一つ咳払いをした後に口を開いた
「まぁ今回は見逃してやる。 あれだ、あまりルールは破るなよ」
「先生ありがと~」
紗彩が小馬鹿にした笑い方で礼を言い、足早に教室を出る。
「知ってたのか?」
「何を?」
「浮気の事」
なぜそれを引き出せたのか分からなかった。
「いや、さっき知った」
「どうやって?」
足早に廊下を歩きながら問いかける。
方向的に向かっているのは食堂だろう。
「結婚指輪をしてた」
「それだけか!?」
紗彩は俺をチラリと見た後に浅いため息を吐き、言葉を続けた
「あの教師、体育教師にしてはアクセサリー類が多い。ネックレスやブレスレット。 結婚指輪も含めて材質は銀。それに他のアクセサリーは綺麗な状態なのに、指輪は汚れていて傷が多い。 大事にしていない証拠だ。それなのに他は綺麗。愛人からもらった物と推測ができる。 それにネックレスはあまり目立たない装飾なのに対し、ブレスレットはゴツゴツとしていたから、おそらく二人以上と浮気をしているかもな」
「マジか・・・」
「さぁ、そんなことより、目的地の食堂だ」
やはり、食堂を目指していたか。 それより、教師の浮気を『そんなこと』で済ませたのは驚きだ。
食堂の重い扉を開けて、ガヤガヤと談笑で溢れた一室に入る。
紗彩は食堂を端から端までゆっくりと見渡し、すぐに歩き出す
「食堂に何しに来たんだ?」
「メガネしてた?してない?」
歩きながら紗彩が問いかける。
脈絡のない突然の質問に首を傾げる。
「あなたがいる2年B組には生徒会の役員が二人、一方はメガネで一方はかけてない。どっち?」
「なるほど、最初からそう言ってくれ。 かけてない。」
教師の顔は覚えてないのに生徒の事は覚えているのか。
ズカズカと歩き、ある男子生徒の横で立ち止まる。
俺に荷物の運搬を依頼した男子生徒だ。
「おい」
紗彩は乱暴な言葉遣いで男子生徒に声をかける。
男子生徒は口に含んでいるものを飲み込み、紗彩を見つめる。
「えっと誰かな?」
「1年だ。 『こいつ』から依頼で消えた金の場所と犯人を探している」
紗彩は俺を親指で指しながら淡々と説明する。
チラリと俺を見た男子生徒に軽く頭を下げる。
「何か情報があれば欲しい」
ゆっくり腕を組みながら紗彩が言った。
男子生徒は少し考えた後に、あっ・・・とポケットからスマホを取り出す
「もし警察沙汰になるなら見せようと写真を撮っておいたんだ。 まぁ役に立つかはわからないけど。」
「その写真をくれ」
紗彩はそういうと男子生徒から写真を貰い、自身の携帯で確認する。
礼も言わずに俺の後ろに隠れて写真を凝視する
「ふんっ・・・馬鹿でも役に立つ時はあるな」
そう言ってスマホをスカートのポケットに押し込む。
聞こえていたのか、男子生徒の眉が動きガタッと立ち上がる
「さっきから君、先輩に対して失礼じゃないかな? 敬語や丁寧語は使えないのかな?」
紗彩は男子生徒を見つめてため息をつく
「敬語?丁寧語?なんで私が自分より下の人間にそんなものを使わなきゃいけないんだ? もし、敬語や丁寧語を使って欲しいなら、それ相応の行動をした方がいい。 ただ使って欲しいって言うなら、自分より下の人間を見つけて優越感に浸りたいだけだろ」
「お前・・・!」
捻くれた理論を展開した紗彩に痺れを切らした生徒が掴みかかろうとする。
「ちょっっっっと待った」
紗彩と男子生徒の間に入り、言葉を必死で探す
「俺も・・・この事件?が解決しないと学校生活が危ういんだ。 確かにこいつは失礼ばかりだが、俺もお前も問題は起こしたくないだろ?・・・・頼むよ」
男子生徒は周りを見て、ため息をつく
「そう・・・だね。 今後気をつけてくれ」
「サンキュー」
紗彩をチラリと見て、ため息つく
ーー疲れるな・・・
食堂を出て、一息つく
「おい、これを見ろ」
休まる暇もなく紗彩がスマホの画面に表示された写真を見せてくる
「何が見える?」
視線を落とし、写真を見る
生徒会室の写真
暗い部屋の中心に大きな机がある。机の上にはマグカップがある。中には何か液体が入っていて、飲み残しなのがわかる。 マグカップの横には紙とボールペンが置いてある。 それの手前に俺が運んだ資料がある。もちろん、現金が入った封筒は写っていない。 椅子は斜めに置かれているが特に普通の写真だ。
「何って・・・特には何も・・・」
「本当によく見たのか?」
紗彩にそう言われてもう一度視線を写真に向ける。
それでも、分からなかった。
紗彩がため息をつき、スマホを取り上げる。
「もういい、いくぞ」
スマホを乱暴に取り上げてズカズカと歩く。
数歩進んだところで足を止めて、俺の方に少し顔を向ける
顔を向けると言っても、横顔すら見えないくらいほんの少しだけだ
「どうした?」
「あ・・・いや、えっと・・・さっきはあ、ありがとう・・・」
驚いた。礼が言えるのかコイツ。
「お前、今ありがとうって言ったのか?」
「う、うるさい!いくぞ!」
少し上擦った声で言って紗彩は歩き出した。
「そうだ、2年に警察一家の生徒がいたでしょう?知ってる?」
「あ? 誠のことか?」
そう言うと紗彩は振り返り、目を大きく開いてパチパチとした
「親しそうね」
「まぁ幼馴染だからな」
ふーんと言って目を細める
「その人、呼んだほうがいいかも。 あなたが巻き込まれてるこれ、生徒がどうこうする話じゃない」
「どういうことだ?」
「犯人は教師よ」
生徒ならまだ『学校の問題』として処理出来たかもしれない。だが、教師となってくると学校の評判を落とさないために隠蔽。そもそも警察を呼ぶことさえ憚られるかもしれない。 だから、それをさせないために『誠』が必要なのだろう。
その言葉を聞いた時安心感と共に、巻き込まれたものが意外と大きな問題だったのを認識した。