第五迷 2頁 『爆弾魔』
パトカーや消防のサイレンが鳴り響く。
車から降りて、現場を確認した。
「うっひゃー・・・これは酷いな」
紗彩が爆破された建物を見ながら言った。
スマホを開き、場所を確認する。
「ここ・・・飲食店か?」
飲食店なら爆発する場合もあるんじゃないだろうか。ガスや火を使っているし、爆弾魔と決めるのは早い気がする。
「それならこんな大規模な爆発はしないよ」
誠が背後から声をかけてきた。
「紗彩もそうだが、人の心を勝手に読むのやめてくんない?」
「お前はわかりやすいんだよ」
顔に出ていたりするんだろうか。
「真依、死傷者は?」
「いないわよ」
紗彩と真依が話している。
死傷者はいない。
これだけ大規模な爆破で死傷者が存在しないのは、狙ってやったのか?
「現場に入れる?」
「まぁ、消化は終わっているけど、有毒な物質がないかの検査もあるから、まだ無理ね。 少し待ちなさい。 せっかちは嫌われるわよ」
真依に言われ、紗彩はむすっとした表情で近くの花壇に腰をおろす。
紗彩はポケットからスマホを取り出し、何やらポチポチといじっては眉を歪め、首を傾げる。
「ごめんなさいね、翔真くん」
「あ、いえ」
真依に謝られたが、なんだろう。全く知らない人からの謝罪は受け取れるが、友人の兄弟や姉妹などからの謝罪は微妙に受け取り辛い。 この現象、名前ないかな。
気まずい空気の中、数十分は経過しただろうか。
「すいません!」
現場の中から、防護服を着た人たちが数人出てきた。
「有害な物質は検知されませんでしたので、もう大丈夫ですよ」
「ありがとう」
真依と少し話し、車の方へ歩いて行く。
「紗彩!」
真依が紗彩を呼ぶと、花壇から尻を上げて面倒くさそうに歩いてきた。
「やっとか・・・スマホの充電が13%になった」
「それはあんたのせいでしょ」
紗彩と真依が軽く話をしながら現場に入って行く。
一般人は入れない。だから外で待っていよう。
と思ったが、紗彩は俺に手を向け、来い。とジェスチャーをする。
「マジか」
瓦礫を踏みながら現場にはいり、あたりを見渡す。
爆発で粉砕された壁、出火で色が変色している謎の物体。 なんだこれ。
「翔真、あまり触るな」
誠に手を掴まれ、身を引く。
「誠・・・来てたのか」
「ずっとついて来とるわ。酷いな」
華麗なツッコミを決める誠を見ると、少し落ち着いた。
「爆破させるなんて、気がしれない」
俺が独り言のように呟くと、誠はそれを聞いていたのか少し笑いながら答えた。
「・・・そうだな。全くだ」
誠と談笑していると、紗彩がキョロキョロとしながら色々探してるのを見つけた。
「紗彩、何か見つかったか?」
「いんや、何も。 爆発のおかげで証拠も何もポポポポーンだ」
口調はふざけているようだが、紗彩は真面目に捜査をしている。
「まぁ、こんな時は」
紗彩はゆっくりとあたりを見渡す。
「野次馬に犯人が潜んでる」
「どうしてわかる?」
紗彩の呟きに質問すると、意外な答えが返って来た。
「天才ってのは認められたいんだよ。 爆発でここまで証拠も吹っ飛ぶんだ。ヒントを残さないはずがない。 捕まりたくはないが、見つけてもらえないのもそれはそれで嫌がるんだよ」
そう言いながら、一点を睨む。
「ほら、いた」
紗彩が見つめる先には、深くフードを被った男がいる。
群衆がカメラを構えて現場を見る中、そいつだけは紗彩を見つめニヤリと笑った。
「あいつ、JKを見つめて笑ったぞ。 変態だ」
「お前みたいな可愛げのないJKがいてたまるか」
フードの男から視線を外さないようさながら現場の外に出る。
「追うか?」
「誠と一緒に追ってくれ」
紗彩の意外な提案に驚く。
いつもは一緒にと、そう言っていたはずだ。
「お前は?」
「私はもう少し調査する。後で合流しよう」
紗彩はそう言って、スマホを開いた。
「そうか・・・誠、行こう」
「はいよ」
それを合図として走り出すと、フードの男も走り出した。
野次馬がいるせいで動きずらい。
奴の後を追い、狭い路地を抜ける。
「見失うなよ!翔真!」
背後から誠の声が響く。
視界にはフードの男がしっかりと捉えられているが、足が速い。
車通りの多い道に飛び出ると、フードの男はあらかじめ用意してあったのだろう車に乗って去って行った。
「はぁ・・・はぁ・・・。足早すぎだろ」
膝に手をつきながら呼吸を整える。
「取り敢えず、石塚さんのところに戻ろうか」
誠の提案に乗り、紗彩の元に戻ることにした。