第四迷 4頁 『手口』
男が車を走らせたのは人気のない倉庫だった。
車を降り、男についていく。
「こっちだ、こっちこっち」
ニヤニヤと笑いながら手招く男の後を追う。
かなりでかい倉庫だ、錆ている部分が多く見れる。
もう使われていないのか?
「どうしたんだ?」
「いや、なんか、犯罪者っぽいなと、倉庫なんか使うのか」
そういうと男は優しそうな顔をして俺に言った。
「ははは、何言っているのさ。犯罪者だよ、犯罪者。枠に収まらない人生は楽しいけど、収まってみるのも一興だ」
「そうか」
倉庫の中に入ると、屋根が錆に侵食され朽ちて穴が空いている。
「どうだ、快適・・・ではないが、風通しはいいだろう?」
「まぁな、物理的にな」
倉庫の中。 屋根に穴が空き、陽の柱が差し込む。
その中心で、まるでスポットライトを浴びるかの如く、椅子が二つと机があった。
「他の奴らもここで?」
「いや、君だけだ。 特別、特等席だ。まぁ死ぬけどね」
肩をすくめながら、小さく笑う男には余裕の感情が見えた気がした。
「さぁ、座ってくれ、僕はこっち。向かい合うように」
男に指示され、向かい合うように座る。
「・・・そろそろ帽子を取ってくれないか?よく顔が見えない」
「犯罪者だからね、顔は隠しときたいんだ」
そう言いながら男は帽子をさらに深く被った。
「でも、俺は死ぬだろ?冥土の土産に頼むよ」
男からは何も返事がない
「それとも、怖いのか?バレるのが」
そういうと、男は深くため息をつき、帽子を外して机に置いた。
「これでいいか?」
帽子を外した男は30代だろうか、意外にも若く見えた。
清潔な感じで、仕事はできるような印象だ。見れば見るほど、犯罪とは無縁な人間に見える。
「さぁ、ゲームをしよう。運試しだ」
男はそう言うと、机の上に錠剤を出した。
数は3つ・・・全て白く溝などもない。何か文字が刻まれているわけでもない。 持ち主でも、しっかりと把握していないとわからないのではないかと・・・そう思ってしまうくらいに酷似していた。
「さぁ、選べ」
「なんで3つなんだ?」
「選べ」
正直、選べばここで飲まされるだろう。
紗彩は俺がどこにいるか、犯人と今一緒にいることに気づいているだろうか。
時間を稼げれば・・・生き残れるだろうか
「こう言うのは2つじゃないのか?ドラマとかでは2つの方が多くない?」
俺がそう言うと、男は錠剤を一つ摘み取り、じっくりとみながら話し始めた。
「3つの方が面白いだろ。2つだとあっさり終わってしまうかもしれない、毒はどっちか・・・どれか。今僕が持っているのが毒入りか、そっちの2つは毒入りじゃないのか・・・悩むだろ?」
そう言って、錠剤を元の位置に戻した。
「なんでこんな事をする?」
俺の質問に、男は答えない。
だが、俺をじっと見つめていた
「どうしてこんな事をするんだ?」
2度目だ、もう一度質問をすると、唾液を飲み込む音が男から聞こえた。
今までの奴らは金の為だった。
「金か?」
そう言うと、男の目が早く動いた。
「スポンサーがついてるのか?いくらだ?どうして俺たちなんだ?」
質問をいくつか投げると、諦めたのか、深く息を吐き背もたれにグッタリと身体を預けた。
「正解だ、金が必要なんだよ」
「どうしてだ」
男は俺から視線を逸らし、吐き捨てるように言った。
「どうでもいいだろ」
それから、男は黙り込んでしまう。
質問しないと答えるつもりはないか?
「いくらだ?」
「何?」
「報酬額は?」
男は手を擦り合わせ、ため息をついた。
「練習で殺した生徒は1人100万だ」
「俺たちは?」
擦り合わせていた手を止め、ゆっくりと机に置く。
そして口を開いた。
「翔真くん、君は1500万。紗彩さんを殺せば2000万だ」
常軌を逸した額に、汗が滲み出る。
「それが事実だと思うのか?殺しても本当にもらえるかはわからないだろ?」
「いや、前金で1000万を貰ってる、少なくとも僕は信用しているよ」
イカれてる・・・
「さぁ、時間がもったいない。早く選んでくれ。そして・・・飲むんだ」
男はそう言って姿勢を正した。
まるで、俺の最後を見届けるように、こちらを見据えた。