第四迷 3頁 『遭遇』
あれから数日、何も進展はない。
紗彩は部室で、椅子に座っているが、本すら読む気が起きないのだろう。長時間放置したスライムのようにだらけている。
「なんで次の行動を起こさない・・・」
「何かを待ってたりしてな」
取り敢えず何か返した方がいいと考え、適当に返事をする。
「待つ?何を?」
俺が適当に答えた答えにも疑問を持ち、問いかけてきた。
「さぁ?過去の事件からすると、お金が振り込まれてないとかぁ?」
正直、自分で言っていてあまりに適当すぎる気がした。
「んなわけあるか、ならやるメリットがない」
何を言っているんだと、紗彩に一蹴されてしまった。
紗彩は天井を見上げて、ユラユラと揺れる。
「待つ・・・待つねぇ・・・」
何やら紗彩がブツブツと小声で呟く。
「いや、紗彩。 俺が言うのはあれだが、適当に言っただけだ、あまり考えるな」
その時、部室の扉がガラガラと開く。
「石塚さん、翔真、あれからどうかな?」
扉を開けて入ってきたのは誠だった。
「いや、進展は特になしって感じだ」
「そうか、こっちも色々調べてもらってるけど、特に収穫はなし」
俺の答えに、誠が淡々と返答をする。
誠はポケットからグミの箱を出し、一粒口に放り込んだ。
「で、ここからどうするの?」
誠の問いに答えたのは紗彩だった。
「いや、次の標的は私か翔真のはずだ、だから狙われておかしくないんだが、なぜ相手は動かない?」
紗彩がそう言うと、誠がグミを食べる手を止め、キョトンとした顔で紗彩を見た。
「当たり前でしょ」
誠はそう言った。
「なぜ?」
紗彩が問うと、誠はグミを飲み込むためにゴクリと喉を鳴らした。
「誰が常に二人でいるところを狙うの」
「あっ」
「あー確かに」
完全に盲点だった。
部活も同じだし、基本は二人でいることが多い。
当たり前になっていったせいか、忘れていた。
「なら、今日から相手が接触してくるまでは、一人行動をしよう」
紗彩の提案に賛同し、その日は部室を後にした。
それから数日。事が動き出した。
ある日の放課後、シルバーの車が俺の隣に止まり、窓がゆっくりと下げる。
「やぁ、渡辺翔真くん」
「誰だ・・・」
「誰って・・・もう知っているんだろう?さぁ、後部座席に乗ってくれ」
そう言って、帽子を深く被った男は後ろを指差す
「嫌だって言ったら?」
そういうと、ゆっくりと拳銃を向けてきた。
「乗ってくれ」
ため息を吐き、後部座席の扉を開けて乗り込むと、車は走り出した。
「高校生なのに、怖がらないんだね?」
「いや、怖がってるよ。 ただ強がってるだけだ」
口では軽く言うが、背中にはじっとりと汗が滲み、震えを抑えるために全身に力を入れている。
「どんな方法で生徒達を殺したんだ?」
「これからわかるよ、ギャンブルは好きか?」
犯人と思われる男はそう言って、バックミラーに目を向ける。
「いや、年齢的にパチスロはできない。だから、わからない・・・」
「はは、そうだね。 安全運転で行くから、安心していいよ」
男はそう言って車の運転を続けた。