第四迷 2頁 『忍び寄る死』
眩しい日差しが降り注ぐ中、紗彩はスマホをいじり、情報を入力していく。
「よし」
そう言って、紗彩はスマホの画面をこちらに向ける。
「なんだ」
「事件の場所と、日付を合わせたものだ」
紗彩が見せてきた画面には、地図が写されており、四箇所ほど赤いペンで丸が描かれている。
その下に月日まで丁寧に打ち込んである。
「日付、全部覚えてるのか」
「まぁ、ニュースで見たからね」
そういう紗彩がよく見ろとスマホをトントンと叩く。
見ているがわからない。特に変なとこはない。
「まぁ、犯行場所はバラバラだな」
「翔真、君は本当に馬鹿だ」
あれ、口調が乱暴じゃなくなってる。
初めて会った時のような口調になっていた。
推理中は何かスイッチが入るのかもしれない
「馬鹿でいいから、何を見て欲しいのか言ってくれ、わからん」
そういうと、紗彩はスマホを一度自分のところへ引き戻し、隣に来る。
「よく見て、私達の学校がここ。 事件の会った別の学校がこことここ、あとここ。 ね?」
「いや、ね?じゃないから。わからんて」
「はぁ・・・徐々に近づいて来てるのよ」
紗彩がそう言った。
再度スマホの画面を確認すると、外側から俺たちが通っている学校を目指すように徐々に近づいている。
気が付かなかった。
「本当だ、でもなんで? 俺たちが狙いなら最初から狙えばいいだろ」
俺がそういうと、紗彩はため息をつき、前に立つ。
「なぁ、翔真? 君なら一度もした事ない時に、突然本番をするのか?」
「いや? 初めてなんだろ?ネットで調べたり練習したり・・・」
言っていて気づいた。
『練習』この一連の犯行は練習なのだ。
5回目、つまり次の犯行で俺たちが狙われる。
「気づいたな、奴は他校の生徒で練習をしてる。まぁなんで学生ばかりかはわからないがな」
紗彩が顎に手を当てながら考える。
警察署の前にいるからか、探偵と言うか、推理をしているって感じが漂っていた。
その時、紗彩が目を細めて正面を見る。
「翔真」
「なんだ」
「あれ・・・」
紗彩が指をさした先には銀色の車が止まっている。
「あの車がどうかしたか?」
「いや、私達が来た時にはいなかったが、今はいる。そして誰かが乗る気配もなければ、降りる気配もない。 運転席には人影が一つ、何をしてるんだ?」
誰かを待っているのだろうか。
銀色の車は四人乗りのどこにでもある車だ。
俺は車には詳しくないからわからないが、形状を説明するなら、タクシーに似てると言えば伝わりやすいだろうか。
「ちょっと聞いてくる」
そう言って紗彩が歩き出す。
徐々に車に近づいていき、窓を叩く。
窓がゆっくりと下降し、車内が見えるようになった。
「あんたここで何してる?」
「いやぁ、少し道に迷ってしまってね・・・ここなんだけどわかるかい? スマホを最近買ったばかりで操作が分からなくてね」
なんだ、そんな事かと紗彩はスマホを受け取り、パパッと操作してみせた。
「これでマップに案内がでる、指示に従いながらつくはずだ。 気をつけて行けよ」
「ありがとう」
そういうと、運転手はゆっくりと窓を上げる。
閉め切る直前、車内からある言葉が聞こえた。
「親切にどうも、石塚紗彩さんと渡辺翔真くん」
紗彩が振り返り、窓を叩く。
だが、制止は聞かずに走り出してしまう。
「待て!クソっ!」
紗彩が悪態をつく。
相当悔しいらしい。
「犯人か⁉︎ナンバーは? 顔は見たか紗彩⁉︎」
「犯人だよ、ナンバーは見ても意味ない。 捨てナンバーだろう。 顔・・・クソ、顔を見られないためにスマホを出したのか・・・ミスディレクションなんて初歩的なものに引っかかった!」
紗彩が頭を乱暴に掻きながら言う。
「車?」
俺がつぶやくと、紗彩はその呟きに返答する。
「そうだ。ありえない。 被害者が確実に死ぬなんてありえないんだ。 だから監視するんだ。死ななかった場合、脅しを実現させるために」
ウロウロと左右に歩く。 人差し指を振りながら早口で自分に言い聞かせるように紗彩は言っていた。
確かに、監視しなくちゃいけないな。
「翔真、カメラを見せてもらおう」
「カメラ?」
「データだよ、通学路なら事故が発生した時用に防犯カメラがあるはずだ、土井に見せてもらう」
そう言って紗彩は警察署内に再度ズカズカと入っていく。 数分ウロウロした後、先ほども見ていた後ろ姿に声をかけた。
「ちょっといいか?」
「なんだ、今いそが・・・あれ、石塚さん?」
「変な顔を私に向けるんじゃ無い、防犯カメラのデータを見せて欲しい。頼めるか?」
そういうと、はぁ・・・とため息をつきながら土井は答えた。
「別にいいけど、何が見たいんだい?我々も目を通したけどね、おかしな点はあまりなかったよ」
「私がみれば変わるかもしれない」
そういうと、土井は顔をしかめ、頭を掻きながらも案内をしてくれた。
「で、時間帯は?」
「生徒が飛び降りる時間で学校周辺防犯カメラだ」
「わかりましたよっと・・・」
カチカチとキーボードどマウスの音が響く。
何度も何度も生徒が飛び降りる瞬間を目に焼き付けることになる。
「翔真、見つけた」
紗彩の声に反応して、画面を見つめると4枚の写真が表示されていた
「さっきの車だ」
そう言って映し出された写真には、先ほどの車に酷似した車が写っている。
「この車がなんかあるのかい?」
「犯人が乗ってる」
そう言った紗彩の顔を見て、開いた口が塞がらない土井。
「絶対に追い詰める」
紗彩が静かにつぶやく。
事態が一歩前に進んだ。