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世界を彩るものは  作者: 鬼子
第三迷 『謎多き部活』
12/20

第三迷 5頁 『黒幕』

 翌日


 登校時間で、すでに何人かが登校している。

 『体育倉庫の幽霊』この事件は今回で解決したい。


 なぜこの学校に事件が集中するのか、なぜ俺たちの周りだけなのか。 問題は現在ある問題だけじゃないかもしれない。


「おすー、久しぶり」


 背後から声をかけられ振り返ると誠がいた。


「久しぶりって、2日か3日くらいしか経ってないぞ」


「こまけぇことはいいんだよ!」


 背中を叩きながら誠が笑った。


「怪我はもういいのか?」


「まぁな、出血こそしてたが、あまりでかい傷でもないからな。数針縫ったがな!」


 ガハハと笑う誠を見て余計に心配になる

 コイツはいつもそうだ、誰かがただ指を切っただけでも大騒ぎする癖して、自分が骨折したりした時は何事もなかったかのように振る舞う。

 優しさと強さを両立させた男だ。

 きっと無理をしている、だが本人は気づかれないようにしているのだろう。 ここで無理をするなと言うのは野暮ってやつだ。


「大丈夫そうでよかった」


 俺がそう言うと、誠は笑って見せた。


「で、今は『体育倉庫の幽霊』について調べてるんだっけ?」


「なんで知ってるんだ?」


「及川先生とさっきすれ違ってな、聞いた。放課後に見に行くんだーって言ってたわ。俺も行っていいよな?」


 怪我が塞がったとは言え、完治はしていない。

 怪我人について来させていいものか・・・


「ダメか⁉︎先生はいいのに、親友の俺はダメなのかぁ!!」


 叫ぶ誠を見て、かなり動けているし、そこまで言われて断るのは心が痛む。


「わかったよ、見学だけな?」


「OK OK」


 本当にわかったのか?


「じゃあ、俺こっちだから」


 誠はそう言って自分のクラスに入っていく。

 久々だからか誠のクラスから、久しぶりーと言った声が溢れる。


 だから、2日か3日くらいしか経ってないっつの


ーーーーーーーーーーーーー

 〜放課後〜


 部活の終了時刻に合わせて体育館へきた。


「お前、本当に来たんだな」


「行くって言ったじゃん」


 本当に来ていた誠に視線を送る

 それで・・・


「及川先生はまだ来ていないのか」


「まだ仕事があるらしくてな、後で向かうって言ってたぞ」


 それを聞いて安心した俺は、体育館の隅で眠っている紗彩に近づく。

 昨日はこの事件について考えていて、あまり寝ていないと聞いたからな。


「紗彩」


 しかし起きない。

 こんな時、普通の男子高校生なら寝顔を見てどう思うのだろう。


 肌は白く綺麗な色合いをしている。

 スースーと寝息を立てる紗彩の肩を掴み、軽く揺らす。


「紗彩、起きろ。 もう集まってる」


「んぇ?」


「んぇ?じゃない。起きろ」


 眠い目を擦りながら紗彩が立ち上がる。

 

「少しは寝れたな」


 準備運動をするように体を軽く動かしてる紗彩を見続けていると、紗彩の眉が歪んだ


「あれ?及川は?」


「後でくる。 仕事が残ってるらしい」


「そうか、今日で捕まえるから見といて欲しかったが、間に合わなそうだな」


 その時部活終了の放送がなり、片付けが開始される。


「古城」


「はい」


「施錠は私にやらせてくれ」


 古城は一度考えた後、わかりましたと了承して南京錠を紗彩に手渡した


「どうするつもりだ?」


「施錠なんかしない」


 眉を歪めると紗彩がさらに続けていった。


「人間ってのは焦ると思考能力が極端に低下する。昨日、ビデオカメラを取って、焦った結果倒れたのなら、何か落としたかもしれない。証拠があるかもしれないと、戻ってくるだろう? 普通ならありえないが、焦るとそうなる。 だからそこを捕らえる」


「上手く行くのか?」


「上手く行かせる」


 片付けをしていた古城が振り向き、駆け寄ってくる。


「片付け終わりました。いつでも大丈夫です」


 古城が紗彩にそう言って、俺にも視線を向ける。


「わかった。 翔真。やるぞ」


 紗彩は倉庫の中にはいり、確認をする。


「鍵は締まってる。侵入経路はない」


 体育倉庫からゆっくりと出てから、紗彩は重い鉄の扉に手をかけガラガラと閉める。


「準備はいいな?」


「もちろん」


 紗彩の問いに答えると、紗彩は右手に持っていた南京錠を左手に持ち替える。


「やるぞ」


 そう呟いたあと、右手を南京錠をかけるはずの突起に手を置き力強く揺らした。


 体育館全体にガチャガチャと音が響く。


「1・・・2・・・3・・・4・・・5・・・」


 紗彩が1秒2秒と俺たちの顔を見ながら数える。

 5秒数えた後、勢いよく扉を開くとある人物が体育倉庫内にいた。


「須藤・・・先生?」


 古城の呟きが、静かな体育倉庫を、さらに静寂へと引き摺り込む。


「お前ら・・・どうして」


「浮気に盗撮、腐ってるな?須藤」


 紗彩の発言に、須藤がこちらを睨む。


「体育倉庫の幽霊はアンタだったんだな。須藤先生。 誠、警察を呼んでくれ」


「わかった」


 誠に言うと、ポケットから携帯を取り出して警察に電話をかける。


「あ、すいません。森谷です。 また学校で・・・」


 その瞬間、須藤が大声をあげて走り出す。

 

「やらせるかよ!」


 止めるために前に出るが、須藤は走り出した勢いを弱めずに拳を下から突き上げる。

 肋骨にヒビが入ったのか激しい痛みに襲われ身を屈めると、視界に膝が入る。

 体育教師、大柄な体から放たれる一撃は重く、身体が浮く。


「通報してからまだ時間は経ってない!警察が来る前にお前ら四人殺して終わらせてやる」


 須藤が俺の首を絞め上げる


「がぁぁ」


「死ね。死ね。死ね。」


 俺の首を絞めている腕を振りほどこうとするが、大人、それも体育教師の力に叶うはずがない。


 その時、須藤が視界から消えた。


「須藤先生!アンタ生徒に何してんだ!」


 その声は及川のものだった。


「部活の見学に来てみればこの状況!教師が!生徒を守る立場の人間が生徒を傷つけて何してんだよ!」


「うるせぇな、若造がぁ!」


 須藤が及川のスーツの襟を掴み、投げようとするが、宙を待ったのは須藤の体だった。


「あの教師、合気道が使えるのか!」


 紗彩が言った。

 知らなかった。いつもニコニコしていてるが、たまに抜けたとこもある教師だ、武術をしているところなんて想像もできない。


「まぁ、大学生時代に部活でやっててな。 県大会で優勝するくらいの実力はあったんだよ」


「翔真!もうすぐで警察が来る!」


 身体の大きい体育教師を遥かに小さい及川が組み伏せる。

 身動きが取れなくなった須藤は、力を抜いて抵抗をやめた。


「須藤、いくつか質問いいか?」


「好きにしろ」


 紗彩の問いにあっさりと答えた。


「まず、盗撮の目的はなんだ?」


「商売だよ。女子高生の着替え姿は需要がある。クライアントに提供して金を貰うんだ」


「クライアント?依頼者がいるのか?」


 紗彩が問いかけると、そうだ。と須藤が言った。

 

 紗彩は息を吐き俺らを見つめ、


「もう一つ、鍵はどう開け、どう閉めた?」


 そういうと、握りしめた左手から黒い何かを離した。


「これだ」


「スイッチ?」


「そうだよ。 2ヶ月前、窓を修理してもらうのを利用して鍵に小型の機械を仕込んでもらった。 その時閃いたよ、盗撮したカメラを隠しておけば金には困らないからな」


 紗彩の瞳がだんだんと冷たくなる。


「翔真、警察がきた」


 複数人の警察に須藤が連行され、事情を説明するために翔真も警察と共に姿を消す。


「翔真、大丈夫か? 多分、肋骨にヒビが入ってる。少し休んだ方がいい」


 珍しく心配をする紗彩に連れられ、パイプ椅子に座らされる。


「大丈夫か?」


「大丈夫だ。少し痛むだけだ」


「本当に大丈夫か?助手に何かあったら私は悲しいぞ」


 少しネタっぽく言っているが、紗彩の顔は少し泣きそうだった。


「先輩、大丈夫ですか?」


「問題ない」


 脇腹を抑えながら会話をしていると、誠が焦った顔で入ってきた。


「翔真!石塚さん!」


「なんだ?」

「どうした、誠」


 誠は息を切らしながら駆け寄ってきて、スマホを見せる。


「なんだ?」


「二人、特に石塚さんに向けた電話だ」


「スピーカーにしろ」


 紗彩に言われ、誠はスピーカーのボタンを押すと声が流れ出る。


「よぉ? 迷相部とは変な部活を立てたな?どうだ?と言っても俺が金を出した奴らはポンコツだったからあまり楽しめなかったか? 事件と推理がお前の世界を鮮やか彩るんだっけか?」


 それを聞いた瞬間、紗彩は立ち上がり走り出した。


「翔真!部室に行くぞ!」


 痛む脇腹を抑え、紗彩についていく。

 部室に入ると、紗彩がカバンを漁り、ドライバーを出してキョロキョロとする。


「紗彩、何してるんだ?」


「盗聴器がある」


 窓のそばにあるコンセントのネジを回し、外すと小さなクロージャーのような物がついていた。


「ゲームはこれからだぞ、さぁ。追い詰められた羊はどうなると思う? チクタクチクタクチクタクチクタク」


「追い詰められた・・・」


 紗彩が呟き、窓の外を見た瞬間、上から下へ大きな影が流れた。


 鈍い音と共に叫び声がする。


「誰か飛び降りたぞ!」

「救急車と警察呼べ!」

「先生呼んでこい!」


 窓を開け下を見ると、男子生徒が頭から血を流して倒れているのが目に入った。


「あーあ、一つ命が地に落ちた。 紗彩ぁ、これは全部お前が悪い。 結局は何も出来ないわけだ。 君もやっぱり凡人。僕だけが天才で才能ある物だ」


 夕日が差し込む部室が静まりかえる。

 外では飛び降りにより発生した叫び声が響く。

 内と外、まるで別世界のように隔たれた環境に闇が手を出し始めた。


「石塚さん、翔真・・・」


 誠の声が静寂に溶ける。

 強烈な叫び声は、空に吸い込まれた

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