66 冒険の余暇
気付けば夕方になっていた。
「晩飯どうするよ」
飲食街では店先にオープンスペースを設営し始めている。
飲食系露天商もどこからともなく現れており、開店間近の様子。
街全体が良い匂いに包まれ始めている。
こればかりはどこの結界都市も同じだろう。
腹が減っては戦は出来ぬ。
と言って、朝から冒険者向けに豪快な飲食を提供する店。
昼頃は結界都市で働く人向けのテイクアウト系の店が多く存在する。
夜は、冒険の疲れを発散するのに適した酒やツマミを売りにする店や、寝酒向けのバーが開いていたりする。
さて、昼は豪勢に食べたので、そこまで食べたい欲求は沸かない。
食べ歩きはまだ先でも良い気がする。
「ホテルのレストランとかどうですかね?」
朝食を食べ損ね、部屋まで持ってきてくれたのを、実は未だに後悔してたりする。
「酒は出してるのかねぇ?」
「酒と肉があればホテルでも構わん」
2人共概ね了承の方向。
と言う訳でホテルに戻ってきた。
フロントでレストランの開店時刻を聞くと、丁度今、夜の部が開店となったようだった。
宿泊者特典として、飲食代が半額になる様だ。
ラッキー。
と、思いつつも高かったら、それはそれで。
案内された席は4人掛けのテーブル。
朝はどうだったか、夜の部は正餐式の様だ。
既に各種カトラリーが並んでいる。
意外なことに、箸もあった。
給仕からメニューをそれぞれ渡され、中身を拝見。
アミューズ系
サラダ系
魚系
肉系
米、パン系
デザート系
ドリンク系
気になったのは、酒系は意外に少なかったことだ。
これではビーが怒ってしまうかもしれない。
とも考えたが、どうやら料理に合う酒が薦められる方式の様だ。
飲む量に合わせて、ボトルでなくとも、グラス注文も出来るらしい。
とかなんとか色々と思案していると、ビーはメニューには載っていない肉肉しい料理と生ビールを注文していた。
何か相変わらずな気がする。
シエルは、全体を網羅しつつ好みのメニューを注文していく。
そのシエルの注文を参考に、自分好みであろう品を注文する。
と言うのも、前の世界でも、正餐式のレストランなんか入ったことが無いのだ。
そりゃぁ、結婚式とかは出席したことはある。
でもあれはメニューが予め決まっており、周りの食べ方に合わせれば良かったのだ。
シエルは常識的な一面もあるので、この場では非常に、勝手に頼りにさせてもらうことにしたのだ。
食事終了。
いやはや、魚系の中にカニがあったので、注文してみたのだが、これが厄介だった。
沢蟹の類かと思ったら、がっつり魔獣だった。
手のひらに何匹か、とかではなく、人間の頭サイズだった。
メニュー名が、
アウトロークラブ幼体揚げ(ソフトシェルクラブ)
何だか、暴力的なお店な感じのする名前だが、幼体とは言え立派な魔獣だ。
成体は体高1メートル、幅3メートルにもなると言う驚異的な魔獣だとか。
その幼体を、しかも脱皮直前で生け捕りにしてきた冒険者が居ると言うことだろう。
戸惑ったものの、ありがたく全て丸かじりさせて頂いた。素手で鷲掴み。
ちなみに、酒は飲まなかった。
ビーは生ビールを連呼していたし、シエルは料理に合わせてグラスワインを注文し、ワインも赤やら白やら頼んで、合間に炭酸水でリセットしていた。
シエルほどスマートな食事は出来なかったが、まぁ、自分的には恥ずかしくないレベルだっただろう。
「ふぅ~、飲み足りん気もするはな」
ビーはビールで既に出来上がっている。
若干呂律もおかしい。
「お?バーコーナーあるじゃん。朝はカーテンで仕切られてて気付かんかったわ」
シエルに促され、テーブルを離れ、バーコーナーへと向かう。
ただ、知っているバーコーナーでは無かった。
ハイチェアではなく、ゆったり系の1人掛けのソファが並んでいる。
円形のボックス席ではなく、カウンターの前の席に座る。
「ん~、ワインばっかだったからなぁ。地酒もありだよねぇ」
「俺はもう寝るだけだから、ガツンといけるぞ」
「お?じゃあ、カクテルとか行っとく?」
「カクテル?女の飲み物だろ」
何その偏見。
「じゃあお前のは俺が決める、一ちゃんはどうする?」
成人した時、父親に連れられてオーセンティックなバーに連れて行かれたことがあったが、あの時も、基本父親が注文していたし。
それ以降も、酒なんて前の世界でも、缶ビールや缶チューハイを飲む程度。
「何を基準にすれば全く分からないのですが……」
「じゃあねぇ、彼にはあのジンでジンフィズを。俺は地元焼酎で辛口ジンジャー割りかな?あいつには……」
後半は、シエルは前のめりになり、バーテンダーに耳打ちする。
あ、これヤバイ奴だ。
バーテンダーが手際よく、華麗に準備していく。
目の前でシェーカーを振られたのはいつ振りだろう。
3杯だと大したこと無いのだろうか、僕、ビー、シエルの順にスッと提供される。
「やっぱ、女の飲む奴じゃねぇか」
ビーのは、ショートと言うカクテルグラスのはずだ。
確かに、量は少ないが、あれって基本的に度数の高いカクテルに使われるグラスな気がする。
「男はそれを一口でいくんだよ」
「成程な、まぁ、香りは悪くない」
背もたれから背を伸ばし、ビーはカクテルを一口で飲み干し、カウンターに静かにグラスを置く。
そのままビーは静かになった。
背もたれに背を預けずに。
「シエルさん、ビーさんに何飲ましたんですか?」
「ドワーフ殺しの3種シェイク」
度数の強い酒を、度数の高い酒で割ったカクテル!
「アルコール臭に気付いてませんでしたけど」
「別でシェイクしたレモンリキュールをフロートさせて、アルコール臭に蓋をしております」
バーテンダーが説明してくれた。
結構面倒なことをさせられたのね。
「ちなみに、何て言うカクテルなんですか?」
「さぁ、私も初めて作ったものでして。作り方もお客様の指示通りですので」
「じゃあ、ドワーフジェノサイドで今後は出してみてよ」
そんな注文は今後一切来ないだろうと思う。
静かな笑みを浮かべながらシエルはカクテルを嗜む。
自分も飲んでみる。
あ、爽やかでレモンの他の何かの風味を感じる。
多分、これ好きなやつ。
「まだ時間あるし、ここでゆっくりさせてもらおうかね」
ビーはこのまま放置か。
シエルのゆっくり宣言に倣い、グラス片手にソファ背もたれに背中を預ける。
「一ちゃんさぁ、ちょっと前情報として言っておきたいことがあるんだけど」
シエルはゆったりと話し始めた。
オークたちの件だ。
どうやらこの短期間でハイオークがオークジェネラルになるのは不自然だと言う。
魔力が多く含まれるオオサンショウウオの肉なら、と返したが、それでもと言われた。
シエル的には、備蓄も食って、再度あの狩場に戻って補給しているのではないかと。
ゴブリンを例に出された。
ゴブリンは魔力含有が普通のボアの肉を食べた。
モリモリ食べた。
でも身体は小さい。
モリモリ食べた。
そりゃあ、進化するだろう、とのこと。
しかし、オークは違う。
サイズ的に。
170センチ程度の身長に太っちょな感じ。
モリモリ食べた。
身体は太っちょ。
そりゃ食べるよね。
珍味だって言ってたし。
ついつい、食べ過ぎちゃうよね。
無くなったらどうするか。
別に、追加で取りに来ちゃダメとかそんな約束はしていない。
現状のトップはオークジェネラル。
食べ盛り感は否めない。
明日は様子見しに行くことになった。
でも、夜はまだ浅い。
シエルは葉巻を出してもらい、吟味している。
「ラム酒の古いのある?」
葉巻ってタバコと違って時間が掛かるイメージがある。
長居する気だな。
それからシエルに冒険者のイロハを語って貰った。
ただシエル本人も、俺は特殊だけど、と注釈を入れつつ、一般的な内容を聞かせて貰った。
気付かぬ内に、薦められるがまま、ウイスキーをロックで飲んでいた。
大分酔った。
ビーは、変わらずだ。
あ、ビーの巨体。どうやって運ぼう。
前みたいに風魔術で軽量化すれば運べなくもないか。
と頭の隅で考えつつ、酒を嗜む。
夜は長い。
シエルから実地以外で色々学ぶ良い機会になった。
酒の席って、悪くないんだな。
前の世界では、全く思ったことも無かったが、経験はしてみるものだな。
読んで下さり有難う御座います。
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