65 テイマーの常識と道具の大事さ
「はー、食った食った」
ビーはご機嫌に腹を叩いている。
飲食街を出て、大通りに戻ってきた。
「ところでハジメは午前中は何してたんだ?」
オーク用のインナー探しと、石鹸を作っていたことを話す。
「一ちゃん、ハイオークは進化したり、数増えてない?」
まだ1日しか経ってないし、そんな劇的なことは起こっていないと思うが、一応鑑定眼で従魔契約のところを確認してみる。
従魔契約:ゴブリンロード 配下256
従魔契約:オークジェネラル 配下95
ジェネラル。将軍か。
「ジェネラルに進化して、配下も95に増えてますね」
「村を統合したかもね。でもまだ増えそうだね。それにしてもオークジェネラルかー。かなり脅威度の高い魔物だよ?」
そりゃ、将軍だもの。
「今のハジメでは、パワー負けするだろうな」
従魔契約しているから、襲ってくることは無いが、模擬試合でもあったら、負けるのか……。
弱い主人でも許されるのだろうか。
「主人が弱いと愛想つかされて、契約が切れるとかあるんですか?」
「基本的に従魔術師、テイマーは自分の力を誇示して、従魔契約して使役するからね。でも大丈夫だよ。あの時のオークはオオサンショウウオを殲滅した一ちゃんの力を知ってるわけだし、肉を上げたって善意も見せてる。オークは基本プライドが高い。中々頭を下げる種族じゃない。冒険者との戦闘も基本的には決闘方式を好むし、狩りでもそう。決闘みたいな最初からオークの間合いに入ってるような戦いにならなければ、魔術でどうとでも出来るから大丈夫だよ」
少し、安心。
「それにしても、結構な数の従魔契約してますけど、上限とかあるんですか?」
「無いよ?」
普通のテイマーは初期は弱い魔獣や魔物と契約し、徐々に強い存在と契約をしていくらしい。
しかし、テイマーには契約上、契約対象の保護監督責任が生じる。勿論配下が居ればそれも含めて。テイマー規定と言うらしい。
それが増えて行くのだ。
抱えきれなくなったら、弱い存在の契約を解除するのが普通。
だから、テイマーは多くても3体程度しか契約しないらしい。
自分はどうだろうか。かなりの大所帯だ。
ゴブリン達にはシエルが武器と戦術供与しているので、自活して過ごしてもらっている。
ゴブリン達は賢いので、言うことは聞くし、約束もきちんと守ってくれている。
オークも律儀な感じがしたし、ゴブリン同様、話せば分かってくれる感はある。
勿論、万能言語があるから出来る芸当ではあるが。
そう言えばゴブリン城に身を寄せているオーガも拙い言葉を喋ってたなぁ。
「ゴブリンやオーク、オーガ以外で言語を使うような知能のある魔物っていますか?」
「言語かぁ。そうだねぇ、コボルトとかハーピィ?迷宮内も含めると、トロールとかケンタウロスとかミノタウロス?ウルフも上位種になると言語を持つって研究者が言ってた気がする。他はマーマンとセイレーンかな。まぁ、ほとんど小笠原諸島近海にしかいないけど。」
ゴブリンがウルフを飼いならしていたな。
確かホワイトウルフ。
今の内に契約しても良いかも。
それにコボルトか。確か、犬の人型魔物だよな。
ハーピィは手が翼で脚が鳥で、他は人型な魔物?
トロールは何かイメージ付かないなぁ。毛むくじゃらの巨人?
ケンタウロスは下半身が馬で上半身は人型だから喋ったりできそう。
ミノタウロスとかはもうボスクラスだろう。牛の頭で巨大な斧持ってるとか、そんなレベルでしか知らない。
マーマンとセイレーンは遠いし、陸での行動が出来ないから、従魔候補としての優先度は低いかな。
「何?一ちゃん、言語持ち、フルコン狙い?」
考えているとシエルが顔を覗き込んできた。
「え、フルコンってなんですか」
「フルコンプリート!全制覇!知恵のある魔物の支配者目指すんじゃないの?」
そこまでデカい野望は持っていない。
ただ、色々な種族を仲間にしたい気はする。
よし、このオークの一件が終わったら、ホワイトウルフと契約しよう。
その次はコボルト狙い。
今度、生息域を調べよう。
「ところでハジメ。従魔のことも良いが、自分の装備はちゃんとメンテナンスはしてるのか?」
一応鎧は芸術品クラスだが、普通に使っている。
攻撃は全力で回避する様にはしているけど、それでも被弾することがない訳では無い。
宿では濡れタオルで拭いたり、普通に磨いているだけだ。
メンテナンスと言うより、ただの手入れ?
『武器、防具、修繕賜わります』
ビーがそんな立て看板に手を付いている。
考えながら歩いていたら、丁度武器屋の前だった。
覗くと、販売スペースの隣はオープンな鍜治場になっている。
「覗いてこっか」
シエルに言われ、中に入る。
「いらっしゃい。探し物?修繕?」
中年の女性がカウンター越しに声を掛けてきた。
「修繕が必要かは分かりませんが、一度も専門の人に見て貰ったことが無いので」
「なるほどね。新人さんなのね?いいわよ。今度、装備を持ってきてくれるかしら。査定は無料だから」
普通の服で居るからか、今は持っていないと判断されたようだ。
アイテムバック持ってるようにも見えないしな。
アイテムポシェットは基本的に普通の服を着ている時は後ろに回している。
鎧の時は右横と決めている。
アイテムポシェットを腹部に回し、装備をカウンターに並べる。
鎧一式、短剣2本、丸盾。
「珍しいアイテムバックねぇ。容量は少ないのかしら?」
「まぁ、ご想像にお任せします」
かなりの容量があるのは黙っておくのが吉。
「うーん。ちょっとこれは私では見れないわ。工房から職人を呼んでくるからちょっと待っててね」
中年女性は工房の方に行ってしまう。
その間に販売スペースを鑑定眼で眺めてみる。
樽に適当に突っ込まれているのは鉄や銅の類。
壁に掛かっているのが、ダマスカス鋼や鋼鉄の類。
カウンターの後ろの壁には、ミスリルの類が数点。
鎧もマネキンに着せたもので、硬革の物や軽鉄の物がちょっと並んでいるだけだ。
カウンターのラミネート資料を見ると、鎧はセミオーダーが基本の様だ。持ち込みも受け付けるらしい。
「おめぇさんが、見れないってなかなか久し振りじゃねぇか」
「すみません、鍛冶長」
中年女性が連れて来たのは、長い髭をいくつも三つ編みした老人だった。
ってか小さい!!
150センチも無いだろ。
でもガタイは良い感じでタンクトップからはみ出る筋肉は凄い。
「なんじゃい小僧。ドワーフが珍しいのか?」
あ、ドワーフなんだ。
シエルから人種の多さにはいちいち驚くな、とは言われていた。
何だかんだで、人種以外をちゃんと見るのは初めてだ。
あ、ビーは魔人種か。
「い、いえ。お忙しいのにすみません」
「構わん。鍛冶長なんて基本は後進育成じゃから手は空いとる。新人冒険者の割に珍しい物を持ち込んだと聞いたが、どこぞのボンボンか?」
ドワーフは台に乗ってカウンターの短剣を手にして検分している。
「いえ、両親はいたって普通です」
「なんじゃい、ジョークも通じんのかい」
ボンボンはジョークだったのか。大分刺のあるジョークだな。
「こりゃあ、ミスリル、いやミスリル合金か。中々の業物じゃな。柄の装飾も気品高いが、実用的な程度で収めておる。銘が見当たらんが。すまんが、鎧はマネキンに掛けてくれ」
中年女性は奥からマネキンを持ってきて、鎧をマネキンに装着している。
「ふむ、こっちの短剣を見るに、ツガイじゃな。しかし、こっちの方が摩耗はしておらんが、やや反れておる」
まぁ、基本丸盾に短剣で立ち回っているし、双剣なんて久しく構えていない。
「丸盾もミスリル合金か。こっちはそれなりに使い込んでおるな。淵がやや潰れて丸くなっておる。小僧、ランクはなんじゃい」
「一応、Bです」
「Bじゃと?雰囲気はド新人なのに意外とやるんじゃの」
ドワーフは丸盾をカウンターに戻し、台を降りて、マネキン鎧を見上げる。
「ふむ、なかなか良い鱗を使った鎧じゃな。特に欠けているところも見当たらんし、修繕は必要なかろう。それにしてもこれは何の鱗じゃ?ワシもあまり知らない鱗じゃが」
「スカイドラゴンだよ」
シエルが口をはさむ。
「ふむ、これがスカイドラゴンの鱗か。それを全身装備にするとは、デザインも悪くない。修繕の必要が無くて良かったの。日本ではこれを修繕する材料を持っているところなんぞなかなか無いだろうからな」
やっぱりそうなのか。
「修繕は丸盾の簡単な打ち込みで十分じゃろう」
「短剣は反れているとか言ってませんでした?」
「あの程度で反り直しをしたら、逆にバランスが悪くなるだろう。もっと状態が悪くなったら、もう1剣と一緒に持ち込んで合わせるように頼むんじゃな」
ドワーフはカウンターの丸盾を取って工房の方へと歩いて行く。
1本じゃなくて、1剣って数えるんだ……。
「見学しても良いですか?」
「まぁ、良い物を見せてもろうたしな、構わんぞ」
工房は熱気で包まれている。
立ち入ると他の工房員が近付いてくるが、ドワーフが手を払うと、元の仕事に戻っている。
基本は立ち入り禁止なのかな?
工房員は基本人種だが、ドワーフらしき人もいる。
やはりドワーフは鍛冶の達人なのだろうか。こっちの存在には全く気付いている様子が無い。
凄い集中力で、豪快にハンマーを扱っている。
鍛冶長専用の作業スペースだろうか。
小上がりの場所で、小さな炉もあるし、壁にはいくつもの鍛冶道具が掛けられている。
「よっこらせ。10分程度で終わるから、ちょっと待っておれ」
ドワーフは胡坐で膝に丸盾を置き、丸盾の淵に触れる。
魔力の感覚がする。
熱しているのか?
小さなハンマーを手に取り、トントン叩き始めた。
全然、豪快じゃない。繊細なハンマー捌きだ。
手を触れては、ハンマーでトントン。
微調整しているのだろうか。
でも、確かに丸かった淵が角になっている。
「小僧は魔力が高いのか?」
黙々と作業するのかと思ったら、いきなり聞かれた。
「まぁ、人種にしては多いって感じですね」
悪魔並みって言われてるけど。
「使う時には魔力を通しておるか?」
「そうですね。その方が防御力が上がるって教わりましたし」
「そうじゃな。確かに防御力は上がる。しかし、小僧はとっさの時も魔力を流しておる様に感じる。なかなか出来ることではない。防御力が上がると言うことはこの丸盾の保護にもなる」
そんなことまで分かるのか。
「この丸盾のバックルの馴染み具合からして、それなりに使い込んでいるのは分かる。だが、その割に損傷が少ない。そう言うことじゃ。これはただのミスリルじゃない、合金じゃ。その繊細な結合を崩さずに歪みを直すのには、手が掛かる。これからも大事に扱うんじゃ。短剣も同様にな」
鍛冶の達人であるドワーフに道具の扱いを褒められたと言うのは光栄なことだろう。
愛着もあるし、これからも末永く大事に使わせてもらおう。
最後に全体の磨き上げもして貰った。
くすみはなくなり、短剣同様の輝きが丸盾にも戻った。
工房を抜けてカウンターまで戻ってくる。
「丸盾の簡単な打ち込みだけで済んで良かったですね」
中年女性は笑顔で、伝票を出してくる。
丸盾 簡易打ち込み 5,000円
安くない?
「これだけで良いんですか?」
鍛冶長ドワーフに目を向ける。
「別に欠けた訳でも無し、ただ潰れた場所を打ち込み直しただけじゃ。欠けとったら材料費に、物が物じゃから結合調整費も掛かる。場合によっては桁が2つ程変わってくるから、大事に使うことじゃな」
欠けたら50万……。
大事にしよ。
通貨カードで支払いを済ませる。
飽きたのか、シエルとビーは店外で何か話している。
出した装備をアイテムポシェットへ入れると、礼を言って退店する。
「お待たせしました」
さて、次はどこへ行くのかな。
読んで下さり有難う御座います。
ブックマークや評価などで一喜一憂したりもしますが、指摘などを頂けると幸いです。
今後とも宜しくお願い致します。




