62 石鹸が無い!?
どこだ!
どこにあるんだ!
もう何軒目だよ!
石鹸。もとい、環境配慮石鹸を求めて、5軒は回った。
しかし、どこも置いてないのだ。
理由は単純だった。
そもそも冒険者は結界内で洗濯や水浴びをする概念が存在しない。
かなり希少だが、そんなことをする猛者も居るらしい。
そう言う意味では、希少な存在に入ってしまうのか?
いやいや、自分用じゃなくてオークたちに買うのだ。
広島迷宮は15階層までであり、10階層が水の溢れる階層らしい。
10階層と言えばかなりの深さだと言う。
かなりの熟練冒険者でなければ辿り着けない階層らしい。
迷宮外のフィールド上にも川や湖が存在する。
しかし、川はかなり浅いし、オオサンショウウオの対応で範囲魔法でぐちゃぐちゃにしてしまった。特に責任追及はされなかっただけ良しとしよう。
後は湖。
冒険者達も水の確保で湖に立ち寄ることはあるらしい。
しかし、湖はオークの支配領域なので、かなり危険を伴う水汲みになるらしい。
抜け道的なものがあり、多くの冒険者はそこを利用し、こっそり水汲みをするようだ。
だからまぁ、この広島では石鹸の類は需要が殆ど無いのだ。
結界都市の普通の銭湯はシャンプーやリンス、ボディーソープなどが完備されているらしいが、安い銭湯は置いてない。受付で2、3回しか使えないような石鹸を買うのが普通だと言う。
寮住まいの冒険者は、普通のものを使うらしい。勿論、都市の下水整備は完璧で、有害なものは全て処理場で浄化される。
「一ちゃん諦めたら?いいじゃん、普通の石鹸でも」
「いや、でも、数が数ですし、水源としても使われているんですから、マズくないですか?」
「マズいか、マズくないかで言うと、マズいね。でもソロのBランク冒険者がやることなんてそんなに目を付けられたりしないと思うけどなぁ」
Sランク冒険者がそれを言うか。
とにかく、後々、難癖を付けられない様にしたいのだ。
ゴブリンの時は、シエルが勝手に上流から川を引いて来たが、今回は違う。オークは湖を縄張りにしている。湖と共に生きているのだ。
ん?
無いなら、作れないか?
環境配慮石鹼って言えば、前の世界で言うところの、エコ石鹸みたいなものだろう。
要は界面活性剤が入っていなければ良いのでは?
確か、色々な植物オイルと苛性ソーダ?を混ぜて出来る……だったような気がする。
取り敢えず、商業ギルドに行く。
「環境配慮石鹸を作りたい?それはまた何故でしょう?」
だよなー。
そう来るよなー。
商業ギルドの受付テーブル越しの男性は首を傾げている。
でも、オークたち用だとは言えない。
「う、売れると思いまして」
「売れませんね。この都市の雑貨店は大方回られたのでしょう?そこで扱ってないのですから、需要が無いと言うことです」
ごもっとも。
「そうですね、確かにこの広島では売れないでしょうけど、他の結界都市なら需要があるかも知れません。試験的にここで作ってみたいと思っただけです」
「なるほど、しかし、現状としては環境配慮石鹸は通常の都市で作られ、流通しています。何か特別な仕様でも無ければ道楽となるでしょう」
道楽って言われても、作れればそれはそれで構わないんだけどなぁ。
「それに差し当たって問題も御座います。石鹸の原料となる苛性ソーダ、水酸化ナトリウムは薬師の資格を持つ方で無ければお売り出来ません」
え、薬局とかに普通に売ってないの?
免許制?そもそも薬師って何?薬剤師みたいな存在?
「大丈夫、この子は錬金術士のスキル持ってるから」
錬金術士だと良いのかどうかはよく分からないが、シエルから謎の援護射撃。
「ほう、お若いのに錬金術師ですか」
「士ですよ」
「どちらにしろ立派なスキルです。錬金術師ギルドカードはお持ちですか?」
錬金術師ギルドなんてものもあるの?この世界どんだけギルドあるんだよ。
「えっと、所属はしてませんが、ここで働いてます」
嘘付いた。
研究所のカードを出す。
「ふむ、国立魔術大学再生医療錬金術研究所、ですか。しかし、事務員と言うことも考えられます。他の証明はありませんでしょうか」
浅い嘘になってしまった。
確かに、事務員もこのカードを持っているだろう。
仕方ないので実演に移る。
「通常、下位の錬金術士は採掘された屑魔結晶を動力結晶、キューブに変換する業務を担うのはご存じですよね。自分なら、屑魔結晶無しでも空気中の魔力、魔素を直接結晶化することが出来ます」
手をかざし、小型キューブ、中型キューブ、大型キューブと次々と結晶化させる。
「な?!」
男性は前のめりになって覗き込み、キューブを見据えている。
「そこのスタンドライト、小型キューブ仕様じゃないですか?試しに交換してみて下さい。作動するはずですから」
男性はスタンドライトを手に持ち、背面の蓋を開け、やや小さくなったキューブを抜き取り、目の前で結晶化された小型キューブを入れ、蓋を閉める。
スタンドライトのボタンを押すと、光が灯った。
「成程、これは高位の錬金術士、いや、錬金術師でも難しいことでしょう……」
そうでしょうとも、キューブ職人の称号持ちなのだから。研究所以外では何の意味も無い称号だが。
「分かりました。苛性ソーダの購入許可証書を発行しましょう。どれ位の量をお求めでしょうか。それによってご紹介する商店が変わってまいりますので」
ん?
それは計算して無かった。
1個作るのに、苛性ソーダはどの位の量が要るのか。
そもそも、植物オイルとの配合比率は?
分からん!
「とりあえず、でっかい紙袋の奴で良いんじゃない?」
「それでしたら25キロですね。かしこまりました」
男性は立ち上がって奥に引っ込んだ。
「ふぅー、シエルさん、援護ありがとうございます」
「いいよ、いいよ。でも材料手に入れても作る場所探さないとね」
さらっと言われたその一言。
何処で作るかと言う問題もあったか。
「その悩み顔、真意を当ててあげようか」
シエルは笑っている。
「大丈夫だよ。材料用意して、錆びれた錬金工房に金払って場所借りればいいんだよ」
シエルには助けられてばかりだ。頭が上がらない。
「お待たせしました。これを持って、卸会社の藤波商会を訪問してください。卸値で買えますよ。おせっかいかもしれませんが、今後もこの様な取引をされるなら、錬金術師ギルドに加入することをお勧め致します。何かと便利になりますから」
「はは、考えときます」
購入許可証書と藤波商会の場所の分かる地図を貰った。
商業ギルドを後にし、藤波商会を探す。
見付けたのは、大通りから1本裏の倉庫街だった。
デカい倉庫に小さく、『藤波商会』と看板が掲げられていた。
倉庫のシャッターは全開放。事務所的入口も見つからないので恐る恐る入る。
「ごめんくださーい」
「はーい!」
積み上げられた木箱たちの裏から、利発そうな女性が出てくる。
「見ない顔だねぇ。うちは卸だから、一般客は取引できないんだけど」
「商業ギルドの紹介で来ました」
購入許可証書を渡す。
中身を読みだす女性。
「苛性ソーダ25キロね。ん?アンタ、錬金術師ギルドに所属してないのかい?こんな量、何に使うんだい?」
「石鹸を作ろうかと思いまして」
「ならうちの商会に来て正解だね。うちは結構な錬金工房と取引してるから、他の材料も見繕ってあげられるよ」
おぉ、ありがたい。
商業ギルドの男性はこれも見越して、この商会を教えてくれたのだろうか。
藤波商会は錬金素材の卸会社であり、結界内で採取される錬金素材の買取もしていると言う。
物によっては冒険者ギルドの素材買取より、高値を付くてくれる可能性もあるらしい。
ただ、卸会社なので、大口でしか取引はしない様だ。
「石鹸ってことは植物オイルだよね、どんなのが良いのとか決めてるのかい?」
決めてません。
「現物を見てどんなのが良いか考えようとしていた所です」
「じゃあまぁ、普通に行くならこのパーム、オリーブ、ココナッツの混合オイルがおススメだね。後は香り付けに凝縮香油とかだね」
混合が既にあるのか。助かる。それに香油か。
ゴブリンにあげた環境配慮石鹸は無臭だった。
何か、アレンジしても良いかもしれない。
「香油なら、フローラル、シトラス、オリエンタルから選ぶ感じだね。一応調整用の原油もあるけど」
フローラルは、何か甘い感じ。
シトラスは、柑橘系のさっぱりした感じ。
オリエンタルは、何と言うか、香木みたいな匂いだな。
無難にシトラスか?
「香油はシトラスでお願いします」
「はいよ。苛性ソーダは全部使い切る感じかい?」
「そうですね」
「なら分量は……」
女性は電卓を取り出し、なにやら計算を始める。
「苛性ソーダが25キロ、混合オイルは……っと」
この女性、配合知ってる?
「石鹸作ったことあるんですか?」
「え?無いよ?あぁ、うちは錬金工房に物を卸してるからね。何を作るなら、何がどれ位必要かは商売柄身に付いてるのさ。錬金術師様みたいに作れはしないけど、材料配分位はね」
石鹸って錬金術師が作るような物でも無いと思うけど。
それにしても凄いものだ。
苛性ソーダ25キロ、5,000円。
混合オイル5樽、50,000円。
シトラスの凝縮香油2瓶、20,000円。
通貨カードで支払う。
アイテムポシェットに物を入れて行く。
樽は持ち上がらないので、屈んで傾けるようにして入れる。
「アンタのアイテムバック変わってるわね」
「え?そうですか?まぁ、貰いものなんですけど。逆にこれしか知らなくて」
「主流は斜め掛けのサイドバック仕様か、ランドセル仕様だね」
何か、動きにくくなりそうだな。
このアイテムポシェットなら鎧を着ていても動きに制限が付かないのが気に入っている。
「採取のことを考えると、これがベストな感じですね」
「アンタ、採取に結界内に入るのかい?」
何故か驚かれる。
「まぁ、冒険者ですから」
「え?錬金術師じゃないのかい?」
「士です、士。そんなに珍しいですか?」
「錬金術師は普通、必要な素材はうちみたいな商会を頼るか、よっぽどの品なら冒険者ギルドに採取依頼を出すからねぇ」
なるほどー。
まぁ、意図せず錬金術士のスキルを得た身として、冒険者優先なのだ。
「まぁ、ちょっと珍しい存在として認識してもらって、1つお願いがあるのですが」
錬金工房の情報だ。
読んで下さり有難う御座います。
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今後とも宜しくお願い致します。




