61 広島でインナーを買う
ピンポーン。
眠い。
インターフォンが設置されているのか、さすが1泊3万の宿。
時計を見る。
9時15分
「めっちゃ寝過ごした!」
さすがの宿、研究所のベッドよりも高級な物だったのだろう。
かなりの寝心地を持っている。
宿の部屋着のまま、インタフォンの応答ボタンを押す。
「シエルさんごめんなさい!寝過ごしました!今開けます!」
「ご安心ください、宿のスタッフで御座います。朝食をお持ち致しました」
へ?宿のスタッフ?朝食持ってきてくれるとか、さすがスイート。
思えばシエルならインターフォンを連打したり、ビーならドアをガンガン叩いて来るだろう。
扉を開けるとスタッフの男性が立っており、横には食事が乗ったカートがある。
「宜しければテーブルに配膳させて頂きますが、立ち入りを気にされるようでしたら、このままカートをお渡ししますが、いかがいたしましょう」
「あ、え、じゃあテーブルに並べてもらえますか?」
ドア前を空けると、スタッフはカートを室内に押して入り、手際よく食事を並べてくれる。
ん?多くない?
サラダ、スープ、何かの肉のソテー、フルーツ、果実ジュースがデカンタで置かれた。
それぞれが多い。
何かの肉、は、鑑定上、魔獣肉と出た。やはり高級肉なのだろう。
椅子に座り、どれから食べようか悩んでしまう。
そう言えば冒険者になってから、食事の量が増えた気がする。
前の世界と比較したら異常な増加とも思えるが、身体が資本な職業なのだ。
多く見えるだけで、意外と食べられるのだ。
サラダは彩も良く新鮮そのもの。作り置きのヘタッた感じがしない。
スープはビシソワーズだろう、丁度良い温さだ。
さてと、この魔獣肉を頂くか。
「こちらはコカトリスの胸肉ソテーで御座います」
「へぇ~。って?!」
スタッフ帰ってなかった。
ずっと見られてた?気配消してた?
スタッフは当たり前の様に立っている。
あー、下膳するまで帰らない感じか。
結果、全部食べて果実ジュースも飲み切った。
コカトリスの肉も中々に美味だったが、一番は果実ジュースだった。
どうやら結界内の森で採れる特別な果物のミックスジュースとのこと。
味は勿論、滋養強壮にも良いのだとか。
帰り際のスタッフに聞いたのだが、1階の食堂での朝食サービスの時間を過ぎると、来ていない客には部屋まで持ってきてくれるのが標準みたいだ。
朝食サービスの方が選べる食事の種類が多い様だ。
そう言えば、朝食サービスのことは聞いた気がするが、ここまでしてくれるとは思ってなかった。
と言うより、受付ではスイート以上の部屋の情報を見ていたので話し半分だった気がしないでもない。
そう言えばシエルとビーは並びの部屋のはずだ。
2人はどうしたのだろうか。
全自動洗濯機から服を取り出し、畳む。別の服をマジックポシェットから取り出し、入れ替える。
着替え、お出掛け準備完了。
取り敢えずシエルの部屋のインターフォンを押してみる。
「はいはい、なんざんしょ?」
「あ、居たんですね。すみません、寝過ごしちゃいまして」
シエルはドアを開けると普段着姿だった。
「アハハ、寝てる気配がしたから、起こさないで置いたんだよね。食事どうした?俺とビーは食堂で会ったけど」
「えっと、宿のスタッフが朝食を持ってきてくれまして」
「へぇ~、そんなサービスがあったのね。さて、一ちゃんも準備完了っぽいから、俺も準備するからしばし待たれよ。あ、ビー起こしてきてくれる?二度寝するって言ってたから」
取り敢えずシエルの部屋からビーのへ移動する。
インターフォンを押してみる。
「……」
反応が無い。
魔力感知、あ、ビーは魔力が封印されて0だから感知は出来ないんだった。
寝てるのか、居るかどうかも分からない。
シエルみたいに気配を探る様な器用なことは出来ないから、もう一度押してみる。
「……」
酒を飲んでの爆睡なら起きないだろうが、ビーは基本的に気配に敏感だ。普通に規則正しい生活をしているから……出掛けてる?
「お待たせ。あれ?ビー起きない?」
シエルが着替えを終えて出て来た。
「何度か鳴らしてるんですけど、反応無くて」
「どれどれ、うん。居ないね。気が変わって出掛けたかな?」
凄い察知能力。
仕方ないので2人で宿の鍵を預けて出る。
「まぁ、適当にブラついてれば遭遇するでしょ。一ちゃんは何かしたいとかある?」
うーん、そうだな、ゴブリン達の時のことも考えると、オークたちの腰布やらを揃えたい気もする。しかし、数が分からないからどうしよう。
取り敢えずサンプルとしていくつかバリエーションを揃えてみようかな。
「オークたち用の服とか売ってるものですかねぇ」
「まぁ、オークはデブな人間としての服なら着れるんじゃない?」
デブって。まぁ、確かに腹肉は凄かったけど。
「生地屋とか仕立て屋には行かなくても良さそうですね」
ゴブリンの時は生地屋でそれなりの物を切って貰うだけだった。
普通のゴブリンで身長が120センチ程度なので、子供服も有りかとは思っていたが、ゴブリンチャンピオンが身長も高くなり筋骨隆々になるのでやめていたのだ。
それにゴブリンは基本的に雄しかいない。
結果、腰布だけで十分だった。
しかし、オークには雌も居たから、オーバーサイズTシャツ的なものも買えば良いか?
大通りを適当に歩き、冒険者向けのインナーショップを見付けたので、入ってみる。
鎧の下に着る服、動きやすさを前提とした下着とは別物、それがインナーである。
細身の物であれば別に普通の都市で売っている物でもインナーとして使えるのだが、ここは完全な冒険者向けの専門店だ。
「いらっしゃいませ、本日はどの様な物をお探しでしょうか」
礼儀正しい感じの男性店員に声を掛けられる。
オークが着るインナーが欲しい。とは言えない。
追い出されかねない。
「自分、今の服をインナーとして使ってるんですけど、専用の物だとどうなのかなぁと思って」
Tシャツにスリム系チノパンを見せ、出方を伺う。
「なるほど、今お召しになっている物でも十分インナーとして機能しているでしょう。しかし当店は冒険者向けインナー専門店。様々なラインナップが御座いますので、お時間がありましたらご説明させて頂きますが」
よろしくお願いした。
専用のインナーは基本的に自動調整機能の魔術が施された、着るとピチピチになる全身タイツみたいなものが殆どだと言う。衝撃を適度に吸収し、保温や湿気の放出もしてくれるものらしい。
だが、オークは鎧を装備する訳では無いので、ピチピチタイツでは色々と問題がある。
雄はモッコリが隠せないし、雌は乳首が分かるだろう。
冒険者はこれで街を歩く訳では無いので良いのだろうが、日常生活をするオークには、どうなんだろう。
オークの価値観が分からないが、例え良くても、結界内に居る以上、他の冒険者の目もある。
変な噂が立ってしまうのも問題がある気がする。
「ピチピチにならない、普段使いも出来る様なのってありませんか?横着するもんで」
「でしたら、こちらなど如何でしょうか」
水着の様なハーフパンツと、ゆるい感じのTシャツだ。
これには、敢えて最低限の自動調整機能しか施されていないらしい。
「プレゼント物なので、女性向けの上はあったりしますか?」
「こちらですね。女性用は肌焼けを気になさる方が多いので、ロングとなりますが」
出すのが速い。
ブラカップの入ったロングTシャツだ。
「じゃあ、さっきのハーフパンツ50着と、女性用のロングを20着貰えますか?」
「え?派遣会社の社長様でしたでしょうか」
数に驚いている。
ゴブリンの腰布を買った時は、既にゴブリンロードの実力が知れ渡った後だったので買いやすかった。
しかし、今回は冒険者用のインナーだし、オークに渡すものだとは言っていない。
冒険者を抱える派遣会社の社長でも無ければ、こんな大量には買わないだろう。
「あー、新人の新興冒険者パーティーへのプレゼントなんですよ。そこそこ人数居ますし、予備も含めてその数なんですよ」
「成程。その新興パーティーは良い先輩に恵まれていますね。ただ、大変申し訳ございませんが、数が数ですので、近くの倉庫から運搬する必要があります、2時間程お時間を頂けますでしょうか」
代金は前払いした。
ハーフパンツが1着18,000円。ロングが12,000円。
計1,140,000万円を通貨カードで払う。
プレゼントとは言ったが、特別な包装も断った。
こっちの滞在先や新興パーティーへの配送も断った。
アイテムポシェットあるし。
さて、待ち時間の間にアレも探さなければ。
環境配慮石鹸。
この結界都市にも扱う店はあるのかな?
読んで下さり有難う御座います。
ブックマークや評価などで一喜一憂したりもしますが、指摘などを頂けると幸いです。
今後とも宜しくお願い致します。




