60 お喋りの従魔登録
「この度はオークを従魔にしたと伺いましたが、その詳細を伺いにまいりました」
スーツ姿の若い男性が何か言っている。
オークを従魔にした?
オオサンショウウオを解体して、プレゼントしたことは事実だが、従魔契約はしていない。
「何のことでしょう?」
「いえ、ですから、グリフォン偵察班の方からオークを従魔にしたとの報告を受けておりまして、その確認に伺ったのですが……」
会話が成立していない。
シエルを見る。
「ちゃんと報告しといたよ!」
親指を立てるシエル。
「従魔契約はしてないと思うんですけど」
「一ちゃん、自分の従魔契約欄を鑑定してご覧よ」
シエルが耳打ちしてくる。
言われるがまま、自分の従魔契約欄を鑑定してみる。
従魔契約:ゴブリンロード 配下256
従魔契約:ハイオーク 配下32
増えてるー。
何で?
「ハイオークが御恩がどうのって言ってたでしょ?一ちゃんはその時どう思ってたの?」
「え?えーっと、律儀だなぁって思いました」
「それだけ?」
「ゴブリンみたいに友好的な魔物も居るんだなぁって感じました」
「はい成立!」
シエルはパンと手を叩く。
「それだけで従魔契約って成立するんですか?!」
「ゴブリンの時もそうだったじゃん」
うぐっ。確かに。
「えーっと。従魔契約の件は保留にしておいた方が宜しいでしょうか?」
若い男性がオズオズと会話に入ってきた。
「いえ、大丈夫です。確かにハイオークと他32の配下がいます」
「おぉ、やはり。これは特別な出来事です。あのお喋りと従魔契約が出来る方が現れたのですから。認識票もテイマーギルドにご用意がありますので、是非お越しください」
凄いことをしてしまったのだろうか。
若い男性は無駄に笑顔で饒舌になっている。
冒険者ギルドを出て、そのままテイマーギルドへと案内してもらうことになった。
着いた先。西東京結界都市のテイマーギルドとは違って大通りにそれは建っていた。
レース場があるから、テイマーが多いのか?
中に入ると、受付カウンターには老婆が居た。
「アンタがお喋りを従えたって冒険者かい?」
「えーっと、そうなりますね」
品定めをする様に見られる。
「じゃあ、また今度トップだけを連れて来な」
出直し案件か。
「今はまだ、配下32だけど、増える予定だから。認識票は最低でも300は用意しといてね。なる早で」
「なんだって?!」
シエルの発言に老婆が咆える。
「シエルさん、確かに200は居ましたけど、そんなに用意して貰わなくても大丈夫じゃないですか?」
「一ちゃん。オオサンショウウオの運搬に村総出で掛かると思う?少しは村の防衛に残るでしょ。後、オークベビーとかその母とか」
うぬ。確かに。全員が出て来たとは思えない。
いやしかし、あのハイロードだけで、他のハイオークやその村々のオークまでもが恩義を感じているだろうか。
いや、待て。
ゴブリンの時を思い出そう。
ゴブリンは村々を合併吸収して1つの城を持つようになった。
あり得なくは無いか。
「300は大袈裟に聞こえるかもしれませんが、一応手配して貰えますか?こちらの手違いで余った場合は迷惑料を払いますので」
「そんな数になると、1週間は掛かるねぇ。もし大ボラだったら容赦しないよ?」
ギロリと睨まれてしまった。
でも引き受けてくれるみたいだ。
「うーん、5日後にまた来ようか」
テイマーギルドを出てシエルは早々に言い放つ。
ゴブリンの認識票の時も中々に強引な認識だった。
「はぁ。取り敢えず時間も時間ですし、宿探ししません?」
時刻は3時30分。宿のチェックイン時間は過ぎている頃だろう。
結界都市の宿は基本的に観光客専用の宿以外、事前予約出来ない。
自由気ままな冒険者家業に身を投じる人間を相手にするのだ。
観光客向けの宿は高い。冒険者向けの宿は直ぐに埋まる傾向にある。
「余分を考えて5泊。1泊いくら位の所にする?今回はゴブリンいないし、色々選べるよ」
「そうですねぇ、1泊3万円位ですかねぇ」
「観光客向けの宿に泊まりたいの?」
「え?冒険者向けでいいですよ?観光客向けは高いんですよね?」
「その金額で冒険者向けの宿だと、スイート的な部屋になるよ?」
なるほど、前はゴブリンと一緒にと言うの前提が高価格に繋がっていたのか。
Bランク冒険者に相応しい適正価格が分からん!
「Bランク冒険者の安い宿ってどれ位なんですか?」
「うーん、収入にもよるけど、個室で8,000円ってとこじゃない?勿論共同トイレで大浴場行きだけど」
安宿では1泊2,000円もあるらしい。ただ3段ベットが2つ並ぶと言う激狭共同でプライバシーも何もない。勿論大浴場は無く、銭湯を利用するしかない。
普通で5,000円程度で個室で、他共同。
1泊1万円も出せば、個室で風呂トイレ完備。食堂も併設されている。
そもそも、冒険者家業は派遣会社の寮に入る人間が大多数だ。
わざわざお金を払うより、福利厚生の整った寮に住んでいるのだ。
定住しないBランク冒険者だけが、懐事情により難民と化す。
「まぁ、お金はありますし、ちょっと贅沢してみたいですね」
「一ちゃんは一度上がった生活水準を下げられないタイプの人間みたいだね」
シエルに笑われながら、通りを歩く。
一軒の宿屋の前で立ち止まる。
うん、いかにも高そうな雰囲気の漂う宿屋だ。
広島と言う遠方に旅行に来た、と言う気持ちに切り替えて進む。
1泊3万円の予算で5連泊。計15万円を先払う。
着いた部屋は、40平方はあろうかと言う広さでダブルベッドが置かれている。テーブルスペースや、ソファーやテレビ、全自動洗濯機まで完備されていた。風呂トイレはあるが、ユニットバスではない。別だ。
受付をした際に宿泊プランのパネルがあり、一応ここはスイートルームだが、ゴールドスイートやプラチナスイートなどもある模様。
残念ながら値段は書いてなかった。Sランク冒険者クラスが泊まるのだろう。
あれ?シエルはSランク冒険者のはず。
「あ、俺ら隣通しの部屋にしといてね」
と言って同じスイートルームに泊っているが、本当は上のランクの部屋に通されるべきなんじゃないのか?
まぁ、ギルドカードの提示を求められる様な対応をしている宿では無かったので、別に良いのか?
シエルのことは考えても仕方ない。何かと規格外な存在だし。
さて、武器と鎧のメンテナンスをして、インナーを洗濯機に投入して、風呂に入って寝るか。
明日、なにしよ。
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