59 オークの集団
解体しては、ヌメヌメ蒸発処理。
シエルはビーの大剣に火属性を付与して作業効率を上げていった。
ビーは魔力が無い。正確には封印されているのだが、属性付与は魔力の有無は関係ないようだ。
付与魔術はどんな系統の魔術なのだろうか。
今度聞いてみよう。
1時間程作業していると、200近いオークたちがやって来た。
殆どがオークだが、ハイオークも少しいる。
村に行くって言ってたから、そこの村長的立ち位置なのだろうか。
一応、オークの上位種がハイオークなのだし。
オークの身長は160センチ~170センチ程度。
ちょっと太っちょなイメージで、特徴的な爪を持った3本指の手。
体毛は短く、ザラザラしている。
雄雌の区別は簡単だった。下半身を隠すのが雄。下半身と胸元を隠しているのが雌。
ハイオークもオークと大して変わらないが、一番の特徴は顔に入れ墨みたいな体毛をしているところだろうか。何だか、少数部族の伝統的な感じがしないでもない。
「本当に決闘しないでこれらをくれると言うのか?」
「ブヒはこんなに話の分かる人間を知らない」
「ブヒも信じられない」
「本当にブヒたちで持って帰っても良いのか?」
オークたちが動揺を隠せないでコソコソと話し合っている。
「まだ、解体は全部終わった訳ではありませんが、解体済みの物は自由に持ち帰ってください」
一言掛けると、オークたちは、背負子の様な物にオオサンショウウオの部位を乗せ、縛り付けている。
そして両脇に持てるだけ持って、ポツポツと帰り始める者も出始める。
それにしても大量に背負い、大量に抱えて歩いている。
相当なパワー系だろう。
更に1時間程解体を続けていると、オークの集団は居なくなっていた。
最初に会ったハイオークは残っているが。
「シエルさん、どうしましょう、オークたち全員居なくなりましたけど」
「うーん、そうだねぇ。オオサンショウウオの肉は他の魔獣や魔物も嗅ぎ付けるだろうし」
「生態系的にはこのまま放置しておいた方が良いんですか?それとも焼却処分した方が良いんですか?」
「そうだね、生態系的には他の魔獣や魔物のことも考えて、このまま放置するのが理って感じかな?オオサンショウウオに食い扶持を奪われた奴らだって居る訳だし」
なるほど。
と、その方向性に感心していたら、オークの集団が帰って来始めている。
「図々しい話だとは十分承知しているのだが、保存食用にももう一度だけでも持ち帰らせては貰えないだろうか」
ハイオークはそんなことを言って頭を下げてくる。
何とも人間的な、それも日本人的な感じだが、これまでの冒険者との接触から学んだことなのだろうか。
「シエルさん、いいですかね?」
「数が数だもん、オークが独占できる物量でも無いし、良いんじゃない?」
「と、言うことなので、こちらが解体出来る範囲内なら、持ち帰って貰って大丈夫ですよ」
ハイオークが何度も頭を下げて感謝の意を示し、戻ってきたオークたちに指示を出している。
さて、解体を再開しますか!
更に1時間経過。
オーク集団は去っていく。
最後の持ち帰りとして、最初に会ったハイオークが肉を担いで帰るのを見送る。
「是非、名前を教えて欲しい」
「名前?加藤一っていいます」
「かとうはじめ……」
ハイオーク的には長すぎるか?
「ハジメでいいですよ」
「ではハジメ殿、この御恩は忘れない」
このハイオークが特殊なのか、オーク全体の話か分からないが、意外と律儀なのかもしれない。
ハイオークは去って行った。
それにしてもゴブリンといい、オークも友好的な魔物だな。
「向こうの方では、ウルフ系の魔獣が集まってるねぇ」
オーク集団には全体の半分程度を提供した形になるが、それでも残りは500程ある。
範囲魔術を行使したので、遠くに飛ばされたオオサンショウウオもいる。
それらに他の魔獣たちが群がりだしたようだ。
「ところで、この広島には普通の入り方してませんけど、どうやって出るんですか?」
結界には一部薄い箇所があり、ゲートが設けられている。
西東京結界都市でもそうだったのだろうから、広島も変わらないはずだ。
入場には許可が必要だ。
つまり、入場記録が無いのに退場出来るのかどうか。
「俺ってSランクだから」
あ、強引に出る気だ。
「疲れた、車だせ、車」
シエルはビーの大剣に施した付与魔術を解除し、アイテムガレージに収納する。
そのまま、アイテムガレージに入って行き、いつものオフロード車に乗って出てくる。
ビーはいつも通り後部座席に横になる。
助手席に乗り込み、いざゲートへと向かった。
「本日の軍の通行記録はありませんでしたが、軍籍カードの提示をお願いします」
勿論止められた。
広島の結界も陸軍が管理している様だ。
「冒険者と両方持ってるよ。ほい」
シエルは手帳と、冒険者ギルドのカードを提示した。
「え?し、失礼致しました!どうぞお通り下さい!」
多分手帳の方に驚いているのだろう。
シエルは軍でも相当の立場にあるはずだ。
こちらも提示しようとしたが、兵士は慌ててゲートの解放に向かった。
シエルの身元1つで、残りの2人の確認はスルーなのか。
Sランクを笠に出ると言っていたが、軍の身分で出ることになったようだ。
無事にゲートを通過し、広島結界都市に入る。
雰囲気としては西東京結界都市と大して変わらない気がする。
大通りがあって、大きな公共施設が立ち並んでいる。
冒険者ギルドの外観も大して変わらない。
定型の建築様式があるのだろうか。
他の建物は多少、趣が違う気もするが、商店や宿屋等は分かりやすく区画整理されている。
広島には闘技場は無いようだが、その代わりレース場があるらしい。
騎乗系従魔のレース場。
冒険者ギルドで報告を済ませたら、見に行ってみたいな。
「先行報告は受けています。ギルドカードのご提出をお願いできますか?」
ギルドの受付の女性にギルドカードを提出する。
「緊急の大量討伐依頼から迅速な対応を頂きまして有難う御座います」
来たくて来た訳じゃないけど。
「既にご存じとは思いますが、討伐証明の部位の提出は免除されており、この大量討伐依頼では基本的に観測班の測定数と、偵察班の報告によって討伐確認となります。この度は周辺域の全滅が確認されました。よって、観測班の測定数、1112体の討伐を完了として受理します。それにしましても先行報告も受けてはいるのですが、大魔法をおひとりで行使されたのですか?」
大魔法ってそんなでも無いし、ただの範囲殲滅魔法?いや、それを世間一般では大魔法と言うのか?
「まぁ、魔力はごっそり。詠唱に時間は掛かりましたけどね」
適当に誤魔化しておく。
「……そうですか。あ、では討伐報酬のお渡しになります。通貨カードをご提出ください」
通貨カードを提出する。
「今回の討伐依頼は通常とは異なり、オオサンショウウオの討伐報酬は上がって、50万円となりますが、宜しかったですか?」
まぁ、緊急依頼だったし、予想より低いのは仕方ない。本来なら対象を納品して買取報酬も期待出来るところだが、あの量では仕方ない。
「はい、構いません」
「では、入金が完了いたしました。こちらが、今回の入金明細です」
通貨カードとレシートを受け取る。
えー、と。どれどれ?
広島ギルド:入金
556,000,000円
残高
568,450,020円
ん?
またしても会計士としての見慣れた数字。
しかしこれは個人の現金資産残高。
えーっと。
5億6千8百45万、飛んで20円……だと?
「え?討伐報酬は50万円じゃないんですか?!」
「はい、50万円です。通常は20万円です」
「もしかして、単価ですか?」
「はい。え?入金ミスしておりましたでしょうか」
いや、単価がこれなら間違ってはいない。
「いえ、大丈夫です」
はわわわわわわわわ。
やべー、大金だよ。
どうしよう。
銀行に預けたい。
定期預金にしたい。
あ、国債に変えたい。
あ、金とか希少金属に変えるのもありか?
「一ちゃん大丈夫?」
シエルに背後から肩を叩かれ、我に返る。
そうだ、この通貨カードは自分の生体認証が登録されている。
安心機能満載のカードなのだ。
「だ、大丈夫です」
心拍数は最速だが、徐々に冷静になってきた。
受付カウンターから離れると、1人の若い男性が近付いて来た。
スーツ姿で、胸にはテイマーギルドの紋章ワッペンが付いている。
「テイマーギルドの者ですが、加藤一様で宜しかったでしょうか?」
何の用?
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