52 オーガの処遇
不穏な雰囲気のまま、ゴブリンロードに案内されてゴブリン城の外に出る。
外堀の少し離れた場所に屋根だけの建物を見付ける。
そこには影で良く見えなかったが、何かが居る。
鑑定。
ブラックオーガ
影から出てくる、巨体。角の生えた筋骨隆々の魔物、2mはあるだろう。
攻撃の意思は無いのか、左腕で右腕を庇っている様にも見える。
「ニンゲン、ボウケンシャ?」
ハッとする。万能言語か。オーガの言葉が分かることに驚いてしまう。
ゴブリンで慣れてしまっているからか。
「右腕、怪我してるんですか?」
「テツノニグルマ、タイアタリサレタ」
鉄の荷車に体当たりされた。思い返してみる。
そう言えば初めてゴブリン村に行く道中に、オーガの縄張りをシエルの運転する車で…。
あ、何かを跳ね飛ばした記憶が…。
言えない。それに乗っていたとは言えない。
「キズ、カイフクシタ。デモ、ウデ、マガラナイ」
オーガは右利きなのか、左腕で振るう棍棒はどこか心許ない。
「一さん、そのオーガ腕に障害が残ってるみたいですねー」
「え?カレンさん、言葉分かるんですか?」
「いえ、状況から判断してるだけですよー。それより、私が触っても怒られないように言って貰えませんか?」
「何するんですか?」
「人間専門ですけど、医療の知識は持ってますからー。応用ですー」
オーガに説明すると、オーガはカレンの前で腰を下ろす。
何だか、もっとオーガは気性の荒いイメージだったのだが。
「あー、木の枝が腕部に入ったまま傷が塞がったみたいですねー。摘出すればなんとかー。一さんは再生魔術使えますよね?摘出はカレンがしますからー」
カレンは背負ったリュックからエイドキットを取り出す。
何やら注射器の準備もしている。麻酔の類だろうか。
手際よく消毒し、オーガの腕に注射をする。
しばらくするとオーガは腕の不調を訴えてきた。
「ウデ、ウゴカナイ、カンジナイ」
「大丈夫、麻酔って言って、痛みを感じなくする薬です。今から腕を動かせるように処置します」
カレンは触診し、オーガの腕にメスを通す。
鮮血が溢れ出る物かとも思ったが、血管を避けているからなのだろうか、対して血は出ない。
(オーガの血も赤いのか)
カレンは手際よく、腕から枝を取り出す。
「再生魔術をお願いしますー」
カレンは最低限しか傷口を広げていない。意外だったのは、医療用の縫合ステイプラーがあることだ。それもエイドキットに入っているとは。
再生魔術をまともな形で使った。以前はビーに酔い覚ましとして強引に使った程度なのだ。
傷はみるみる塞がり、縫合の糸が弾け飛んだ。
後は麻酔が切れるのを待つばかりだと思ったが、麻酔とは案外早く切れるものだと知った。
「腕、動かせますか?」
オーガは右腕をさすり、試しに動かしてみている。徐々に動きは大きくなり、しまいには棍棒を振り回し始めた。
「ウデ、ウゴク!」
「一さん、上手くいきましたねー」
「よかったー、のかな?」
「勿論、よかったのである」
ロードはうんうんと頷いている。
「そもそも、ゴブリンはオーガと何で話せるの?」
「魔物の言葉は概ね共通しているのである。種族によって多少は偏りがあるのであるが、話せないことは無いのである」
方言、みたいなところだろうか。
そもそも何故、オーガは保護されているのか。
聞くにこのオーガは、オーガの群れのリーダーだったらしい。でも、負傷により、統率が取れなくなった。
結果、追い出される形になったオーガは、ゴブリン城をフラついて、ロードに魔獣肉を分け与えられたと言う。
「傷付くものは助けるのが正義なのである」
ロードの中の正義は分からないが、何やら自慢げである。
腕の障害が無くなったオーガは縄張りに戻るものだと思っていたが、自分の弱さの結果であるとして、戻ることなく、ゴブリン城の守護者を願い出た。
ウルフに続いてオーガが加わっている。
従魔契約されていないだけで、また戦力が増強されたのだ。
今後のことを考えて、ゴブリン部隊とオーガで、オーガの縄張りの中に道を通したいと願い出てみた。
「それ位なら時間を掛ければ、道は作れるのである」
今後のことを考えると、オーガの縄張りを迂回するより、直線で往来できた方が良いと思った。
「それはそうと一さん、魔力は回復しましたー?」
完全に忘れていた。
そもそも西東京結界都市に来たのは、魔力を回復させるためだった。
「そうでした!そう言えば回復してます!満杯って感じですね」
「じゃあもう、戻った方が良くないですかー?」
カレンは荷物を纏めている。
実はカレンの戦闘も見てみたかった。
「カレンさんはどの程度戦えるんですか?」
「え?戦闘ですかー?案外地味ですよー?基本は中衛か後衛で間を抜いて射撃するだけですよー?それに今日は武装は最低限ですから、逃げて、自衛程度しか出来ませんよー?」
最低限の武装だったのか…。
本来の装備とか、重武装とかになったらどんな戦力になるのだろうか。
「まぁ、今日は普通に帰りましょうか」
「その方がいいと思いますー。戦闘するなら、今度ちゃんと準備しますねー」
キャリーホースに跨り、帰路に着く。
ただ単に魔力を回復させるために入ったのだが、思わぬ事態に時間を食ってしまった。
もう陽が傾き始めている。
結界を出て、帰りの待ち合わせ場所付近の宿に早々に入る。
「明日は帰ったらすぐに図書館行って…」
気苦労だろうか、眠りはすぐにやってきた。




