51 魔導図書館へ通う為に
魔導図書館の蔵書は十分に有用なものばかりだ。
属性としては使えないが、光属性や闇属性、空間属性の魔術も目を通せた。
属性さえ手に入れられれば…。
問題は、蔵書に目を通すのに消費する魔力だ。
賢者の原書や大賢者の写本には開くだけで魔力を持って行かれる。
これは蔵書に施された劣化防止の魔術のようだ。
あまり読み漁られても困るからだろうか。
そもそも立ち入り制限があるのだし、魔力消費もある、やはりそれなりの人物にしか読ませられないことがあるということだろう。
それにしても魔力の回復は考え物だった。
都市部には民間の魔力治療院があるが、カレンにはそれは止められた。
治療院の備蓄魔力を空にしてしまうだろうから、とのことだ。
備蓄魔力と自分の魔力総量の差、と言うことだろう。
と言うことは教授の研究所でも同じことが言えるだろう。
空にならなくとも、無駄に消費して迷惑を掛けることになる。
やはり、西東京結界都市に向かうしかないだろう。
結界都市に近付くだけでも魔力が漏れ出ているのだ。
近付くだけである程度は回復出来るし、中に数時間も滞在すれば、多分満杯になれるだろう。
それにしても問題は移動だ。
シエルに頼めば、問題無いだろうが、教授には釘を刺されている。
どうしたものか。
「ここと西東京結界都市は何らかの物流が絶えず往復してますから、便乗させて貰えるよう探しますかー?」
そうか、キューブの供給もあるだろうし、魔獣素材のやりとりがあるだろう。
「とりあえずは、観光バスにしますかー?」
か、観光バス?
「危険な場所に観光する物好きがいるの?」
「西東京結界都市は安全な都市ですからねー」
火山観光みたいなものなのだろうか。
「ツアーバスは日帰りで結界内に入るプランもあるみたいですよー」
カレンは旅行代理店か何かなのか、知り過ぎている。
「ただ、冒険者の護衛が付くので価格は高いかもしれませんねー。一さんは既に冒険者な訳ですし、無駄な出費になるかも知れませんねー」
確かに。
目的としては結界を潜って内部に数時間居たいだけ。
問題は、クエストだ。
何の目的も無く、結界内に入ることは出来るのだろうか。
ゴブリン。
思い出した。従魔のゴブリンが結界内にいるのだ。従魔ギルドに顔を出せば、入れるのではないだろうか。世話とか、様子見とか、理由はいくらでもある。
改めて自身を鑑定。
従魔契約:ゴブリンロード 配下256
うーん、また増えてる。
遂にベビーが産まれたか、集落を吸収したか、放浪を受け入れたか。
これは入るのに十分な理由になるだろう。
「とりあえず、観光バス以外には何かツテはあります?」
「研究所の調達部署に聞いてみるのが早いかもしれませんねー」
どちらにしろ、研究所には戻るのだ。
カレンの交渉について回ることにした。
結果、研究所の動力、キューブは西東京結界都市から直通で供給されている様だった。
さすが国立研究所だ。消費が激しいのだから、何かの外部機関を通すことはしていないのだろう。
キューブの搬入は1日に1回。
2台のトラックで運用されている様だ。
それに乗せて貰えることになった。
トラックの乗車定員の都合上、2人しか乗れないようだ。
大したことは無いだろうが、ビーにも来て欲しい所だったが、それは無理そうだ。
「俺はハジメの部屋で寝てる」
とまで、言われてしまった。
昼過ぎ、装備を整えてから、研究所横の物資搬入口に着けたトラックの運転手を探す。
「貴方が西東京結界都市まで行きたいって言う、職員さんですか?」
職員では無いが、関係者パスを持っている。この運転手からすればそう見えるのだろう。
「無理を言ってすみません」
「いえいえ、席は空いてますし問題無いですよ。で、もう1人居ると聞いてますが?」
カレンがまだ来ていない。
支度に時間が掛かるとは言っていたが、時間は守ると言っていた。
まだ、時間前ではある。
「あれ?一さん早いですねー」
カレンの装備を見て驚いた。カレンの両腿、胸に拳銃があった。腰のベルトには弾丸が装着されている。カレンの戦闘スタイルは銃なのか?
「あー。この姿は初めましてですよねー。私は剣とか槍とかの近接戦闘武器は向いてないんですよねー。魔法戦闘も出来ますけど、私はちょっと…」
カレンはキューブで動いている錬成生物なのだ。魔法は使えてもキューブから供給されているから、補充できる環境でなければ、そうそう魔法は使えないだろう。だから銃なのだろうか。
「それじゃあ、搬入は終わったから、出発しようと思うんですけど、良いですか?」
「あ、はい。宜しくお願いします」
カレンと一緒に西東京結界都市に向かうことになった。
「ところで、何で、リボルバーなんですか?オートマチックの方が弾数的に優位じゃないですか?弾詰まりの心配とかですか?」
道中、単純な疑問をカレンに投げ掛けてみた。
「カレンの携帯してる銃は普通の銃じゃないんですよー。魔導銃って言って、銃身と薬莢に特殊な魔術刻印を施してあるんですー。オートマチックだと大事な薬莢が飛んで行っちゃって回収するのが大変なんですよー。だから撃ち終わったらシリンダーごと再装填するのが常なんですー」
普通の銃撃効果に加えて魔法、魔術効果を付与した攻撃が行える。
普通の物理攻撃よりも射程は長いが、再装填に手間取る。
特殊な武器なため、流通は少なく、高価。冒険者には運用が難しい。
そして弾薬がなくなれば、攻撃手段を失う。
これが普通の冒険者が使わない理由だそうだ。
カレンは研究目的でダンジョンにも潜ったこともあるそうだ。
だから、冒険者ランクもBだった。
ちなみに教授もランクはBらしいが、あくまでも研究目的の為、実力はもっと上かも知れない。
「到着しましたよ」
魔導銃の話を聞いていると、意外にもすぐに目的到着した。
「これから積み込みを開始して、明日の朝に出発です。合流場所はここでお願いします」
運転手と分かれ、従魔ギルドに向かう。
追加の認識票を依頼した時は、またか、と言う顔をされた。
それでも特に問題もなく、認識票50個1箱を受け取る。
特にこのギルドに貢献している様には思えなかったが、ひそひそと聞こえてくる話を拾い集めると、分かったことがある。
野良ゴブリンの襲撃が極端に減ったと言うことだった。
脅威度は低いが群れで襲われると厄介な相手だと言う。
それに今はゴブリンライダーまで報告されていると言う。
それが従魔でなければたまったものではない。
それを従魔にしている珍しい冒険者。気付かなかったが、知らない内にギルドに貢献していたらしい。
結界内に入るのに必要な書類も貰えた。
今回はシエルがいないので、車は使えない。移動手段はどうしたものかと考えたが、従魔ギルドでは、冒険者向けの移動従魔のレンタルをしているようだ。
低位ではあるが、馬型の運搬向き魔獣キャリーホースが1日1万円で借りられるとのことだったので、それを2頭レンタルした。
キャリーホースは従順だが警戒範囲に捕食魔獣が居ると、制御が難しくなると説明されたため、ゴブリン城に向かう最短ルート、オーガの縄張りを迂回して移動することになった。
すると突然、走るキャリーホースのすぐ近くの地面に矢が突き刺さる。
「味方!味方!!」
「ムムッ!主様なのだー」
「ロードに知らせるのだー」
声は聞こえるが、見えない林の中で何やら動きがある。
キャリーホースの歩みを緩めて進むと、見えてきたゴブリン城の橋が降り、城門が開けられている。
「ご帰還を歓迎するのである」
ゴブリン的にはここが拠点と思われているようだ。
「歓迎はありがたいんだけど、とりあえずここには立ち寄っただけなんだよ。追加の認識票ね。増えたゴブリンに装備させてね」
「ありがたく頂戴するのである」
「断るな、とは言わないけど、あまり集落を吸収したり招いたりしないようにね」
「もう既に近くの集落は吸収し終わったので、増える要因はベビーしかないのである」
「まぁ、ベビーならいいけど…」
「あと、ゴブリン以外で保護したいものがいるのである」
「ウルフなら別に構わないけど」
「ウルフではなく、オーガなのである」
オーガ?
ゴブリンより強いオーガが、ゴブリンに保護されるものなのか?
何やら厄介ごとが増えた気がする。




